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ヘル・オンライン  作者: 遠
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第二十五話

 湖の中央にある浮島に作られている街『マーシー』についた俺は『ソル』の人たちと共に酒場に入りNPCのウェイトレスに案内され中央の大人数用の丸テーブルの置いてある場所に通された。入口側に俺、俺の左右にしずくさんとイヴェールさん、その奥にロナードさんとリリ、そしてコツさんとコウジさんの並びになった。

「いやぁ、トモ君のおかげで相当距離を稼げたよ! ありがとう! 今日は俺が奢るからジャンジャン飲んで食ってくれよなっ」

リーダーのコウジさんが椅子に全員が座るのを確認してから立ち上がり大きな声で俺に笑顔を向けながら言うと、それに合わせて『ソル』の人たちが一斉に俺の方を向いて拍手をしてくれた。

「やったねトモっち! 団長の奢りだよ!」

「団長の言う通りトモ君のおかげでこんなに早く北上することができた。ありがとう」

リリとロナードさんが礼を言うと今度はコツさんが

「そうそう、こいつ自分の装備ばっかりに金掛けやがっていつも金無いとか唸ってるからよ、奢るなんて今度はいつになるか分かったもんじゃねえんだ。沢山食えよ!」

とコウジさんの背中をバンバン叩きながら声を掛けてくれる。

「さて、トモ君。今日の功労者にさっそく酌をしようじゃないか」

席に通された時に注文しておいた瓶に入った果物ジュースをしずくさんが俺にグラスを持つように促し瓶を傾けてきたので慌ててグラスを持つとゆっくりと注いでくれた。

「む、ずるいぞ。しずく、次は私にさせろ」

いつも冷静で表情の変化が少ないイヴェールさんが珍しく眉根を寄せて不満そうに俺としずくさんのやりとりを見ながら言う。そうやってみんなが絶えず笑顔を浮かべ俺に料理や飲み物を勧めてきては言われるがままに口に入れ飲み込み相槌を打ったりするのだが先ほどの頂上での戦闘で死にかけてここにいるみんなに迷惑をかけた事とHPが0になる寸前まで行った時の恐怖感が抜け切らず俺はどこか冷めた気持ちで打ち上げの時間を過ごした。


 1時間ほど食べて飲んで騒ぐ『ソル』の人たち眺めながら一口二口齧ったり飲んだりを繰り返し頃合いを見て俺は一人になりたくてコウジさんに声をかけると酒場の外に出た。

「うわ・・・・・・もうこんなに日が暮れたのか、それに冷え込んで来てるし」

俺は腕を摩りながら適当な宿を見つけ支払いを済ませると案内された部屋でメニュー操作で部屋着になりすぐさまベッドにダイブして目を閉じた。

「俺はやっぱり街の中から出ない方がいいんだな、出たところで何の役にも立たないし他のプレイヤーの邪魔になるだけ・・・・・・おまけに死ぬのが怖くて自分が死にかけたらあのザマだし」

体をうつ伏せから仰向けにしながら自虐に走る。


 自分で思っている以上に疲労が溜まっていたようでいつの間にか日が変わっていた。窓を見れば陽光が雪化粧をした街並みを照らしていた。

「綺麗だな・・・・・・元の世界じゃこんなに積もるほどの雪なんて降ったことなかったもんな」

数分ぼけーっとその様を眺めているとメールが来ている事に気付く。宛名はサオリからだった。


『おはよう、トモ! 実はねノースガーデン二号店を出そうって話になってさ、 その二号店は移動型の出張店舗にしようって話になって店自体は建物を借りたり作ったりするわけじゃないからすぐに簡単な物を用意するだけだから良いんだけどそれを運ぶための手段が馬とかアタシのウルじゃちょっと力が足りないしウルは基本的にいざって時の番犬・・・・・番狼?だし何かそういうのに向いてるモンスター居ないかな? アタシの調教テイムスキルでなんとかなりそうな子だと尚良いんだけど・・・・・・』


 サオリがノースガーデンの人たちの一員として頑張っている様子が浮かんで微笑みつつも内容について考えを巡らす。

「店一軒運ぶくらいの力のあるモンスター又は動物か・・・・・・。うーんサオリの今のスキルってどのくらいなんだろう?」

しばし考えた結果、サオリのスキルを聞いたり周辺にいるモンスターを色々見て回る必要があるしここは一旦もう一度テブルの街に戻って詳しく話し合った方が良いと判断しメールを送信。

 そして、俺は別れの挨拶をするためコウジさんが居る酒場に向かう、どうやら宿に戻らずひたすら飲んで騒いでを続けそのまま酒場で寝てしまったようでコウジさんの位置を示すアイコンが微動だにしていない事に苦笑しつつ俺は装備を整え宿を出て歩き出した。

 雪が深々と降る中、白く塗り潰されている建物を眺めながら歩いて数分、昨日の酒場へとたどり着いた。

「げ」

俺は思わず声を漏らす。だってそうだろう? 目の前には未だに飲んだくれている『ソル』のメンバーの姿があったのだから。

「おおっ! トモ君おはよう! さぁ朝飯一緒に食おうぜ」

右手にジョッキを持ったまま左手をぶんぶん振り回し俺に声をかけるコウジさん。いやあんたら流石に飲み過ぎだろ・・・・・・。

「昨日俺が帰ってからもずっとこの調子で飲んでたんですか?」

俺は返事が分かっていても聞かずにはいられず聞いてみた。

「うん、だってここの飯と飲み物がさ、アップデート入ってから立ち寄った店とかの中でダントツに美味いからつい・・・・・・ね?」

・・・・・・いやついってあんたね。心の中で突っ込みを入れつつも俺はサオリの件をコウジさんに伝えるという本来の用事を思い出し話を切り出した。


数分後、少し残念そうな顔を浮かべながらもメンバー全員が承諾してくれた、だがそこで

「でも、テブルの街には転移門でパっと行けるようになってるから良いけどトモッちのライバックとカゲはどうするの? 一度迎えに行ってあげなくちゃ行けないんじゃ・・・・・・」

そう、そこが一番の問題だった。山に入る前に立ち寄った村は規模が小さく転移門が用意されていないためもう一度山越えをして村でライバックとカゲの二体の相棒と合流しなくてはならないのだがどう考えても昨日死にかけた俺個人の戦力であの山を越える事は無謀という他無い。

 だが、ここで安易に『ソル』に頼るわけには行かない。彼らはあくまで攻略ギルド。ここからもっと先に進み一日でも早くこのゲームをクリアし現実世界へみんなで帰るために命がけで戦っている人たちなのだ。それを俺個人の私用のために逆戻りしてくれないか? 等と言えるわけがない。

「そのことなら大丈夫、自分でなんとかするよ、コウジさんたちはこの先にあった山とか探索してもっと先に行きたいんでしょ? 邪魔しちゃいけないし俺はそろそろ行くね」

 そう言って俺は何か声を掛けられる前に走って酒場を出ると街から出るべく橋へと向かった。

「・・・・・・よし。行くぞ」

声に出して俺は橋から外のフィールドへ足を踏み出そうとするのだが足が動かなくて中途半端な位置で止まってしまう。

「あ、あれ? ハハなにやってんだろ俺」

自分でも気づかないフリをしているがもうわかっている事だった。昨日の死にかけた瞬間が頭から離れずフィールドに出ることにすら無意識に拒絶反応を示すようになってしまっていたのだ。

「くそ、くそ!! なんでだよ!」

どの位の時間そこで立ち往生していたのか、ある程度時間が過ぎた頃に後ろから俺を呼ぶ声がして振り返ると

「やっぱりウチの言った通りじゃん、トモっちそんな状態でどうやってカゲたちのところまで行く気?」

「トモ、そのざまじゃ戦闘なんて無理だろ。俺らがテブルの街まで護衛してやっから安心しな」

リリとコツさんがしょうがないなぁなんて言いたそうな顔でこちらに向かって歩いてきていた。その後ろにはイヴェールさんとしずくさん、ロナードさんとコウジさん。『ソル』のメンバーが俺の元へと歩いてくる。

「な、なんでみんなこっちに来てるんですか! 攻略プレイヤーのみんなが俺みたいな底辺のためにこれ以上の寄り道なんてしてたらすぐに追い抜かれてしまうんですよ!? 分かってるんですか!?」

俺は動揺して震える声を張り上げながら『ソル』の一人一人を見ながら訴えかける。すると俺が言い終わるのを待っていたかのようにコウジさんが一歩前に踏み出すと俺の肩に手を置いて

「友達が困っているのを助けるのにいちいち理由が必要なのかい?」

不敵な笑顔を浮かべて俺の目を見ながらそう言った。

「・・・・・・あり・・・・がとう・・・・・・ござい・・・・・・ます」

俺は目頭が熱くなるのを堪え切れず俯きながらもはっきりと聞こえるように礼を言った。


ノリと勢いの第二十五話。書いては消して書いては消しての繰り返しでこんなに遅くなりました。意見感想待ってます。

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