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ヘル・オンライン  作者: 遠
24/35

第二十三話

 「ここだよここ、この辺でこいつら一杯押し寄せてきてさぁ・・・・・・進めなくなっちゃったから引き返したんだよ」

 そう言ってコウジさんは眼前にいる熊や牛を現実の日本に居るサイズより一回りも二回りも大きくして体色を黒や赤、紫など様々な色に変えたような数十体のモンスターたちを指差しながら語る。

 「確かにこんな数一度に来られたら参っちゃいますよね」

いくら攻略プレイヤーで場数を踏んでる強者揃いのソルといえど、ここまでの大群を相手に無事でいられるとはとても思えない、無謀な特攻を仕掛けて命を無駄にするより突破するための別の道を探るために引き返したコウジさんの諦めの良さはリーダーとしての大事な素質だな、これがデスゲームでなければ死ぬのを覚悟で行けるとこまで行ってみてから試行錯誤するという事ができるけど今の俺たちの置かれてる状況じゃそんな事出来るわけがないよな・・・・・・。

「まったく、これがデスゲームじゃなかったら突撃かまして無理矢理進んでたのになぁ」

コウジさんは進行方向に見えてきた黒い霧に隠れて山頂が見えないそびえ立つ山を眺めながらぼやく。

「ですね、けど今更文句言ったって仕様が変わるわけでもないですし慎重に確実に一歩ずつ進みましょうよコウジさん」

俺はそう言ってコウジさんを励ます。

 それを聞いてコウジさんは頬を両手で叩いて気合いを入れ

「そうだよな、そうなんだよな。なっちまったもんは仕方がない、あとはやるしかないんだもんな!」

コウジさんはソルのメンバーを見渡し最後に俺を見て声を上げる。

 と、そうこうしている間にうじゃうじゃ居たモンスターの大群がいるエリアを抜け山の麓に小さい村があるようなのでそこで装備を再確認してから山頂アタックを仕掛けることになった。


 カゲの図体ではこれ以上進めないしライバックは戦闘向きの調教テイムモンスターではないのでいつものようにカゲとライバックを預け俺たちは出発して数分、俺たちを待っていたのはサオリが手懐けたウルと同じくらいのサイズの艶のある黒くて美しい毛並みの黒狼だった。

「テブルの街の近くに居たタイプよりも2~3倍くらいデカくない!?」

リリが重さを感じさせない力強いフルスイングを襲い掛かる黒狼の腹や顔面に叩き込みながら言うとすぐ近くでコツさんが相槌を打ちつつ確実にリリと同じかそれ以上の勢いで鎚を叩き込んでいきリリの援護に回る。口では毎回言い争っているけどこの二人、戦闘になれば抜群のコンビネーションでモンスターを寄せ付けない名コンビぶりを見せる。

 ざっと見て8体、コツさんとリリが互いに背中を向けあい隙が生まれやすい鎚使いの弱点をカバーしつつ確実に黒狼の体力を減らしていくのに対してギルドの長であるコウジさんは誰との連携もせず両手剣を巧みに使い時に躱し時に受け止め、最小限の動きで敵をあしらい重量のある両手剣の反動を上手く攻撃に生かして黒狼を相手に笑みさえ浮かべて戦っている。

 そして槍使いのロナードさんは左手に持った盾で確実に攻撃を受け止めすかさず右手の槍で突いてはガードという堅実な戦法で立ち回りつつ周りにいるメンバーの様子を窺い危なくなった所を盾で防いでサポートしつつ立ち回るというしっかり者のロナードさんらしい戦い方だ。そして『ソル』のメンバー6人の中で1、2を争う無鉄砲な戦い方を好む二人、しずくさんとイヴェールさん。この二人はそれぞれしずくさんは刀、イヴェールさんは槍を得意としているのだがアップデート前にもその無鉄砲ぶりが話題になり見ているこちらの肝が冷えたのは数えきれない程だ。しずくさんはとにかく早く相手を倒したいらしく敵の攻撃が来てもダメージを負うのを覚悟で懐に飛び込み急所を的確に狙いクリティカルダメージを重ねていくスタイルで、アップデート前に居た攻撃力の設定が間違っているじゃないかと思われて攻略を見送っていたとあるダンジョンのボスに『ソル』が挑む事になり、すぐに避難出来るようにと俺も調教テイムモンスターを連れて戦闘には参加せず後方で待機していたのだが、基本みんな戦闘になると飛び込んでいく事が多いソルでもこの時ばかりは警戒しつつ戦っていたのにも関わらず、しずくさんは意に介さずガリガリHPが削られるのも気にせず戦い続け最後には1ドットほどのHPのまま戦い抜いたという特攻野郎・・・・・・特攻少女なのだ。

 さらにイヴェールさんの場合は先述のロナードさんと同じ槍使いなのだが戦い方が本来ロナードさんのようにどちらかに盾を持ちどちらかに槍を手に攻撃を受けつつ攻撃するというのがセオリーなのだがイヴェールさんの場合は盾を持たず、槍だけを持ちロナードさん以外の『ソル』のメンバー同様に身軽さを優先しており最低限の防具しか身に着けずに立ち回る人で、しかもこの人の場合槍スキルだけでなくプレイヤー自身の槍捌きが凄まじく、変幻自在の動きから現実リアルではアクション俳優とかスーツアクターなんじゃないか? 等と噂になった程。

 そんなそれぞれが卓越したプレイヤースキルを駆使して戦い抜いてきたソルにとってこんな黒狼の群れなんぞは初期化されたそれぞれの武器スキルの熟練度の経験値稼ぎにしかならず数分後には黒狼たちはドロップアイテムを残し粒子になって消え去った。

「アイテム回収っと・・・・・・」

 やっぱりこの人たち強すぎて俺殆ど出る幕なかったなぁ。本来こういう戦闘でモンスターが落としたドロップアイテムは倒した本人が拾って戦闘に参加していないプレイヤーが拾う事はマナー違反なので足元に転がってきたアイテムをぼーっと見ているとコウジさんから「どうしたの? トモ君も拾いなよ」と譲ってくれたので礼を言いつつ拾ったのだが・・・・・・拾ったアイテムの整理をしつつソルのメンバーを見ながら申し訳なさを噛み締めていると

「どうした? トモくん。浮かない顔だよ?」

そう言って心配そうな顔で話しかけてきたのは腰の鞘に刀を納めながらこちらに歩いてくるしずくさんだった。

「あ・・・・・・いえ皆強い人ばっかだから今の戦闘俺殆ど戦ってないのにアイテム譲ってもらっちゃって申し訳なくて・・・・・・すいません」

俺はそう言いながらしずくさんの方を向いて頭を下げるのだが返事がない、気になって顔を上げると不思議そうな顔をしたしずくさんの顔があった。

「何言ってんのトモ君。そりゃ確かに戦闘に参加していない知らないやつにドロップアイテム取られたら腕の一本くらい覚悟して貰うけど、トモ君はそういうんじゃないでしょ? 私ら『ソル』とトモ君はもう、家族みたいなもんだしいちいちそんなの気にしなくていいんだよ」

 そう言いながらしずくさんは表情を不思議そうな顔から柔和な微笑みに変えて俺の肩をポンポンと優しく叩いてくれた、嬉しくて涙が出ちゃいそうになるけどあとで絶対コツさんとかリリにネタにされるのでグッと堪える。つうか知らない奴だったら腕一本覚悟して貰うとかなんておっかない事考える人なんだしずくさん、恐るべし。

「まぁ、そういうこった。トモは気にしすぎなんだよ俺らはお前の事ギルドメンバーにはなってないけどなってるようなもんだと思ってんだからさ」

コツさんが手をヒラヒラさせながら頂上を目指して先に歩き出した。それに合わせるようにロナードさんとコウジさんが続き、その後ろでリリとイヴェールさんがドロップアイテムの使い道について話し合いながらついていく。

「ほら、トモ君」

 仲睦まじく歩いていく『ソル』の人たちを眺めているとしずくさんが俺に目配せして歩き出す。その背中を数秒眺めてから俺は歩き出した。

 目指すは山頂、そしてその先に広がるまだ見ぬフィールド。俺一人じゃ絶対にこんな所来られるわけがなかった、それもこれもみんな『ソル』の皆のおかげだ。一人じゃ無理でも誰かと手を取り合って助け合い困難を乗り越えていくその様がとても眩しく見えてしまう。

「ギルド・・・・・・かぁ」

俺の心の中でギルドに対して以前には無かった憧れのような物が生まれつつあるのを感じながらしずくさんの後に追った。

ノリと勢いの第二十三話、戦闘というよりもキャラ紹介回? 意見感想待ってます。

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