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ヘル・オンライン  作者: 遠
23/35

第二十二話

 ユウコとリリの決闘の結果、勝者のユウコ率いるギルド『エンカウント』のメンバーに混ざり犬ぞりレースに参加、ライバックのおかげでさらに熟練度を増した俺の騎乗スキルをフルに使い見事優勝。

 そうして手に入れたアイテムをユウコに渡すとすぐにパーティーから離脱し今度は『ソル』と合流する約束のためライバックに乗り、待ち合わせ場所に向かっているところだった。しばらく街を歩くNPCやらユウコたちに負けじとここまで頑張って追いかけてきた何人かの攻略プレイヤーを避けながら走り続けていると大きな十字路に差し掛かり、その真ん中で『ソル』の全員が俺に手を振ったり声をかけたりして出迎えてくれた。

「遅いよ、トモっち。まずは腹ごしらえに行くよ!」

とライバックから降りるや否やすぐさま俺の手を引き歩き出すリリ、それを窘めるように

「おいおい、リリ。トモ君だって疲れてるんだ。そう急かすなよ」

やれやれと言わんばかりに溜め息をつきながら呆れている『ソル』のリーダーをしているコウジさん。

 道中歩きながら適当な話をしながら歩いていくとお目当ての店に到着し店内に入り各々食べたい物を注文、食べ始めたと思えば数分足らずで平らげる『ソル』のメンバーに驚愕しつつ俺もいそいそとペースを上げてラーメンを完食、味が濃すぎる気もするがこれはこれでありかも知れないな等と分析しつつもリリたちに続いて外へ出る。

「さて、腹も膨れたし行こうか」

コウジさんがメンバーに声をかけ、一行はメニューを開いて装備やアイテムのチェックをし始めたので俺も必要最低限の確認だけを済ませライバックに跨る。

「よし、用意は良いな? それじゃ出発」

コウジさんを先頭にして俺たちは目的のエリアを目指し進み出した。


 二時間ほど移動を続け、何度かモンスターに遭遇するもさすがは超有名攻略プレイヤーの集まりである『ソル』は苦も無く払いのけ順調に目的の場所へとたどり着いた。

「着いたよ、トモ君。これが例のモンスターなんだけどさ、俺たち騎乗スキルも調教テイムスキルも全くないから相手にされないまま終わったんだ」

肩を落としながら申し訳無さそうにするコウジさんだったけど、

「コウジ、ウチらはバトル専門のスキルばっかなんだし仕方ないって。そのために今回はトモっちを助っ人に呼んだんじゃん?」

「そうそう、コウジが落ち込むことじゃないって」

リリや他のメンバーがコウジさんを慰めているのを微笑ましく思いながら俺はモンスターに近づいていきイベント発生のアイコンが表示されるのを確認し、『始める』を選択。

「さてさて、じゃあやりますか」

俺はそう言って目の前に佇んでいる全長7~8メートル幅4メートルはありそうな巨大なトカゲに飛び乗る。

「こんなデカいトカゲ飼う気になるもんなのか・・・・・・」

等とどうでもいい事を考えつつ暴れ出したトカゲに必死に掴まり達成までの時間表示を確認。

「さ、30分・・・・・・だと?」

ライバックの時のおよそ十倍、調教テイムスキルを必要とするイベントはスキル熟練度によってクリアまでの時間が伸びたり縮んだりするのだが、あの時より少しは熟練度が上がってる今の俺の状態で30分とは大したもんだ。これは俄然やる気が湧いてきた。

「どうだい、トモ君! クリア出来そうかい!?」

声を張り上げて聞いてくるコウジさんに跳んだり揺すったりして暴れるトカゲに必死に掴まりながらも答える。

「はいっ! なんとか・・・・・・出来そうで・・・・・・しゅ!」

あ、噛んだ。視界の隅でリリとか他のメンバーが口元を抑えてるのが見えた、恥ずかしい。

「そうか、俺たちは少し離れた所で待機してるからよろしく頼む!」

コウジさんは俺に向かって手を振ると仲間たちが居る場所まで後退し俺を見守り始めた。

「・・・・・・あの人たちのためにもクリアしなきゃな、そうすりゃもっと先へ行けるようになってこのデスゲームが終わる日がちょっとでも近くなる手助けになるはずだ」

 時間は27分、まだまだこれからだが気持ちを入れ直し俺は掴まる手に力を込めた。


 決意を新たにしてからあの手この手で振り落としにかかってくるトカゲに負けじと踏ん張り無事に乘り続けた俺は無事にこの大きなトカゲを手懐ける事に成功した。

「や、やった・・・・・・やったぞ」

さすがの長丁場に疲れた俺はその場で仰向けに寝転び今にも雪が降り出しそうな灰色に濁った雲を眺めて一息つける。

「お疲れ様トモ君。ありがとう本当に助かったよ」

そう言って俺の顔の覗き込むようにしゃがんで労ってくれるのは短気な人が多い『ソル』の中で唯一菩薩のような柔和な笑顔を絶やした事のない槍使いのロナードさんだ。髪は短くほとんど坊主のような長さで揃えられ背は180を超える長身、体格はアメフトでもしてそうな肩幅が広い筋肉質、武器は長身に負けない長さの長槍に防具はフルメイルで固めており『ソル』の壁役を務めている。

「いえ、お礼は無事にこの先のエリアに行くまで取ってて下さい」

俺は倒れたまま答えるとロナードさんと同じように反対側から覗き込んできたのはリリだった。

「相変わらずトモっちは固いなぁ、そんな風に遠慮せず素直にお礼は受け取っておけばいいのに・・・・・・」

リリはそう言いながら俺をじっと眺めている。なんだか気恥ずかしいので俺は倒れたまま顔を動かし手懐けたトカゲに視線を逃がした。するとトカゲの飼い主であるNPCが驚いた表情を浮かべて俺の方へ歩いてきて口を開く。

「いやぁ驚いた。こいつを手懐けるとは大したものだ、約束通りこいつを好きに使ってくれて構わないよ。可愛がってやってくれ」

NPCはそう言って倒れたままの俺に手を振ったあと自分の家に戻っていった。その途端俺の視界にはクエスト達成のアナウンスが入りトカゲが正式に俺のパートナーになった。

「おし・・・・・・っと、これで先に行けますよ。コウジさん」

大分落ち着いたので起き上がりこちらに歩いてくるコウジさんに声をかける。

 と、あることに気づいた。このトカゲの名前が決まっていなかったのだ、ライバックの時は最初からデフォルトでライバックになっていたが。このトカゲの場合は野生のモンスターと同じ扱いと大して変わっていないみたいだ。

「どうしたんだい? トモ君」

「あ、こいつの名前が決まってないみたいでどんな名前にしようかな・・・・・・と」

俺はトカゲを見上げながら答える。

「名前かぁ・・・・・・」

リリは俺の隣に立って同じようにトカゲを見上げる。

「んーと・・・・・・そうだ! トカゲのトを取ってカゲってのは?」

リリが名案だとばかりに俺に聞いてくる。

「安直だなぁ・・・・・・」

コウジさんやロナードさんが難色を示すがその時トカゲが鳴きながらゆっくり顔を下げチロチロ出し入れしている舌でリリの顔をペロリと舐めた。

「うひゃい!?」

「もしかして気にったのか?」

俺がトカゲに声をかけるとまた鳴いた。

「気に入ったみたいなので、こいつの名前はカゲで決定という事で」

「いいのかよ!」

リリ以外のメンバー全員が同じような突っ込みを入れながら驚きの声を上げる。

「まぁ、名前も決まった事だし早速カゲに乗って先に進むぞ。トモ君のライバックも乗れるのかい?」

「ええ、これだけデカいから大丈夫だと思いますけど」

『ソル』のメンバーは全員で6人、そこに俺とライバックを入れてもカゲの背中は結構幅があるので一番真ん中にライバックを乗せ、あとはライバックを挟んで左右に腰掛けるようにすればなんとか全員がカゲの背中に乗る事が出来た。これだけデカいと手綱がどうとか出来ないのでどうすればいいか分からなかったが声をかけるだけでカゲは一声鳴くと指示通りに歩き出してくれた。

「カゲが攻撃されるかも知れないがその時は無理に応戦しようとせず先に進む事を優先。進路を塞がれた場合にのみ応戦する形を取ろう」

 コウジさんがみんなに方針を伝えると俺を含めた全員が威勢良く答える。目指すはさらに北のエリア、一体どんなモンスターが待ち受けていることやら、正直怖くて仕方がないがどこか期待してしまっている自分の心境の変化に驚いていた。ついこの間まで戦う事が怖くて仕方がないのに期待に胸を膨らませるようになっている自分がいる、この事実はやはり俺もゲーマーだという事なんだろうか。ユウコやコウジさん達のような攻略プレイヤーみたいに死を恐れず前に進みこのデスゲームのクリアを目指す。そんな度胸が俺にあるのだろうか? ただ必死で生き延びたいから目の前の危機的状況を切り抜けてきただけの俺にこの世界に囚われた人たちの命と期待を背負うなんて度胸が・・・・・・。

「なぁに暗い顔してんの? トモっち。難しい事考えてるトモっちはウチあんまみたくないなぁ、トモっちはやっぱり騎乗スキルとか使ってモンスターと一緒に駆け回ってる時の笑顔が一番良いよ。ウチらはそんなトモっちの笑顔が好きなんだ。だから笑っていて欲しいなぁ、トモっちが最近戦うようになってきて自分も攻略プレイヤーとして戦った方が良いんじゃないかとか思ってるならそれはそれで良いと思うよ? けどウチらの本音は」

「俺らに任せとけ・・・・・・だろ?」

いつになく真面目な声で話すリリの話の途中でコウジさんが混ざってきた。

「もう! コウジは良いとこもっていかないでよ! でも本当にそれだよ。ウチらに任せておいて欲しい。もしトモっちも攻略に出るようになったとしてもしその時死んだりしたら・・・・・・」

 リリは心底悲しそうな顔を浮かべながら俺の顔を見る。

「まあまぁ、真面目な話ばっかじゃ気も重くなるってもんだな。てかリリよ、さっきの『ウチらはそんな笑顔が好きなんだ』の所、ウチらじゃなくてウチじゃないのか?」

そう言って冷やかすように言うのはリリと同じ鎚使いの『ソル』のメンバーコツさんだった。

「ちょ、ちょっと何いってんの!? ウチそんなんじゃ!」

「あれれー顔赤いぞー? リリー」

コツさんはからかうのやめるどころかさらにリリを煽る。

「こんのーコツ! 降りたら覚えときなよ!」

握り拳を震わせながら顔を赤くするリリ。

 そのやり取りを見ていて俺は固く強張っていた身体が解れているのを感じた。あれこれ難しく考えるのは俺にはやっぱり似合わないみたいだ。攻略に参加するかしないか、そんなもんはなるようになる。やりたいならやる、やりたくないならやらない。多分このくらいの気持ちでいるのが俺には丁度いいんだと今は思う事にしよう。まぁそういう話はこのくらいにしてだ。色恋沙汰に自分がネタにされるとここまで気まずくなるものなのかと思いながら『ソル』の賑やかなやり取りをBGMに俺は空を見上げた。向かう先の空はここよりもさらに黒い暗雲が立ち込めていた。


 


ぎりぎりで一か月経つ前に投稿出来ました。かなり詰め込んで駆け足になってしまいましたがのんびり日常回ばかりが続くのもなぁ・・・・・・と思いましてこういう流れになりました。ノリと勢いの第二十二話。意見感想待ってます。

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