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ヘル・オンライン  作者: 遠
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第十八話

 盛り上がっていた場の空気を一瞬にして盛り下げた俺は一度咳払いをして

「えーと冗談です。残念ながらゾンビ化してしまってモンスター扱いになってしまっているプレイヤーも居ます、あんな姿のままこの世界に居るのが良いとは俺には思えません。今回のイベントでの犠牲者はみんなああなってしまっています、辛いでしょうが皆さんの手で送ってあげて下さい。俺もこんなPKプレイヤーキラーみたいな事したくないです。けどこれ以上の犠牲者を出さないためにも少しでも早く目標のモンスターを撃破しこのテブルの街を安全圏として復活させましょう!」

震えそうになるのをなんとか堪えつつ最後まで言い切りながら拳を振り上げると

「おおおおお!!」

猛々しい声と共に腕が振り上げられるのを見てほっとしつつ俺は身を引き締める。

「では、各自チームを組み次第街を探索、目標を発見次第連絡を忘れずに。以上解散!!」

声が静まるのを見計らってマキシさんが最後に声をかけるとそれぞれ組を作って散らばっていく。俺はどうしようかと考えているとマキシさんを誘おうとしたら既にさっきの特製サンドイッチを食べている時に打ち解けたと思われる数人から誘いを受けており承諾し出発するところだった。

 最後に近くに居た俺に振り返ると

「悪いな、俺こいつらと行くわ。お互い頑張ろうぜ!」

拳を突き出してマキシさんはメンバーと駆け出していった。

「さて、俺はどうしたもんか・・・・・・」

さすがに初対面のやつら同士で組むのは殆ど見当たらず俺は改めて知り合いの少なさを身に染みて思い知らされる気分になってきていた。

「ねえねえ、トモ。私たちと組まない?」

そう言いながらサオリとノースガーデンのメンバーであるレックスさんが俺の方に駆け寄ってきた。

 なんとなくネガティブ思考に入りかけていたけど、そうだよ俺にはサオリが居たじゃないか! もう何も怖くない!

「いや、死亡フラグか」

「え? なんの話?」

サオリとレックスさんが首を傾げて俺の独り言に反応する。

「いや、なんでもないよ。うん、それじゃこの三人で行こうか!」

「うん!」

「よろしくな」

そうして俺はライバックに跨りサオリはウルに乗りレックスさんは頬を叩く。

「よし、出発だ」

レックスさんが先陣を切って駆け出す。

と、広場の出口で残りのノースガーデンのメンバーの人たちが手を振っていた。俺たちは手を振り返しながら広場を後にして俺たちは目的のモンスター退治に向かう。

 しばらく周囲を見渡しながら探索していると路地裏などからゾンビ化してしまったNPCやプレイヤーが現れて襲い掛かってくるので俺と他の二人は苦虫を噛み潰したような顔でそのゾンビたちを倒し移動を続けるのだが、時間だけが過ぎていくばかりで全く手がかりは掴めず無事に生き残っているNPCに話かけてみても通常通りの「やぁ、こんにちは」とか「らっしゃせー」などお決まりの言葉しか喋らずなんの変化も見られなかった。

「ちょっと他のグループに呼びかけてみるか」

レックスさんはそういうとメニューを開いて全体向けに設定しメッセージを飛ばす。

『目的のモンスターを見つけたり新しい情報は入ったやつは居るか?』

すぐに返事は帰ってきた。

『いや、ゾンビが現れるくらいでこれといった収穫はないな』とマキシさんの声が脳内で響く。

『こっちも似たようなもんだ、街をこんな風に変えちまうくらいのやつなんだからもっとこうどーんと出て来て欲しいもんだぜまったく』と他のグループの嘆きも届いた。

 このままなんの成果も上げる事が出来なければこのテブルの街はモンスターの住処になってしまい、もしそんな事になったらここに定住しようとしている戦ったりせずこのゲームがクリアされるのを待ち続けている非戦闘プレイヤーたちにとってそれは再び絶望に叩き落とすようなものだ。それだけはなんとしても阻止しなければならないけど肝心のモンスターが現れてくれないんじゃ話にならない。

「とにかく片っ端から街中走り回って探そう」

レックスさんが俺たちに声をかけた時、突然目前にあったNPC用の民家を下から吹き飛ばして土煙を上げながら俺たちの前にそれは現れた。

 蛇の特徴的な先が二つに裂けた舌を出し入れしながら鎌首をもたげる頭部を見て身構えていると土煙が収まっていき徐々に全身が見えてきた。ゴツゴツと岩のような質感の鱗は紫色に鈍く光を反射し全長はおよそ10メートルは超えているように見える、そしてその長い体躯の先にある尾は一本の槍のように尖っていて左右に振ってこちらを威嚇しているようだ。

「こいつがヴァイオレットスネークか・・・・・・」

レックスさんは現れたそいつを見上げながら武器を構える。

「やるぞ、二人とも。まずは盾持ちの俺が前に出るからその間にトモ君は全体向けにメッセージを飛ばしてくれ! サオリちゃんは出来る範囲でいいから俺の援護を!」

俺は早速言われた通りメニューを開いて全体に状況を知らせる。その間にレックスさんとサオリはヴァイオレットスネークに挑みかかっていた。

「オラァッ!」

野太い声を上げて振り下ろされたレックスさんの攻撃だったが鱗が硬いのか傷一つつかず弾かれてしまいサオリの指示で首元に噛み付こうとしたウルも文字通り歯が立たず距離を取る。

「こいつめちゃくちゃ硬いぞ! こんな序盤で戦うパラメータじゃねえだろ!」

レックスさんは愚痴りつつ再度斬りかかろうとするがそれより先に紫蛇は自身の尖った尾を周りの瓦礫やら無事な建物もお構いなしに巻き添えに壊しながら横薙ぎに振るって来たので俺たちは一先ず間合いの外に各々バックステップで回避する。

 紫蛇は尾を振るい終わるとすぐに口を大きく開け飛びかかってくる、俺は前転で躱しサオリとレックスさんは左右に避け間合いを取るのに専念する。

「レックスさんとウルの攻撃、効いていないわけではないけど1ドットくらいしか減ってないですね」

視界に表示されている紫蛇のHPバーは5本。その最上段のバーの右端がほんの数ミリ無くなっているだけだった。

「うん、だけどアタシたちだけで戦うわけじゃない。みんなで攻撃すればきっと削り切れるよトモ!」

ウルの背中から降りて片手剣を構えながらサオリは声を上げる。

「ああ、そうだ。みんなで戦うんだ!」

そう言ってさらに崩れた瓦礫の上に飛び降りて口を開いたのは別行動をしていたマキシさんのグループだった。

「よし、他のみんなもすぐここに集まってくる! おそらく噛みつき攻撃か何かでゾンビ化させられてしまうはずだ。それに注意しつつ少しずつ、だが確実にダメージを与えていくぞ!」

マキシさんの呼びかけにそれぞれ答えつつ俺たちはスキルや通常の単発攻撃を当てて微々たる量のダメージを与え始め数十分後には今回のイベント参加者全員が集結し紫蛇の攻撃に最大限の注意を払いつつ誰もがこのまま押し切れると確信を持ち始め一つ目のバーが消え残り4本になった時、紫蛇は身を捩りだし身体を周りの瓦礫に擦り付け始めたので巻き込まれて無用なダメージを負うわけにも行かず俺たちは周りを取り囲み様子を窺うことにした。

 数秒後、それがなんの意図の行為なのかを知ることになる。紫蛇が一際大きく身を震わせると身体の表面に亀裂が走っていき崩れ落ち中から先ほどよりも鮮明度が高い紫の鱗を纏った姿を俺たちの前に晒した。

「こいつ、脱皮しやがった! それにさっきよりもデカくなってやがるぞ」

紫蛇のだいぶ近くに居た両手剣を装備したプレイヤーが言う通りだった、さきほどの全長が10メートル超えくらいだったのが今度はさらに5メートルほど巨大化していた。

「サオリちゃん、こいつって俺たちがさっき平原で戦ったやつと同じパターンじゃないか?」

「ですね。たぶんさっきよりも更に硬くなってるはずです」

レックスさんとサオリの会話を聞いたみんなは更に集中し攻撃を開始しようとした・・・・・・が、紫蛇が近くに居たプレイヤーを狙いを定め口を開いたので噛みつきを警戒したその人は盾を前に出し防御姿勢を取った。だが紫蛇の攻撃は噛みつきではなかった、盾を構えるのと紫蛇が行動に出るのとはほぼ同時で紫蛇の口から黄色いガスが噴射される。

「遠距離攻撃でしかもガスかよ! まずい、みんな離れろ! おそらくそのガスがゾンビ化の原因だ!」

 マキシさんが十二分に距離を取りながら呻く。

盾を構えていても意味が無くもろにガスを浴びてしまったその人のHPが徐々に減り始めたのを皆が視界に捉えていた。

「くそ! 解毒薬なんかもってねえぞ!! だれか、だれか助けてくれっ!・・・・・・まだ、まだ死にたくねえ!!」

半狂乱に騒いでるのが癪に障ったのか紫蛇は口を開け今度はガスは出さず襲い掛かる。

 防御もへったくれもなくもろに攻撃を食らいHPは半分以下になり毒状態は継続、どんどん削られていき「ちくしょおおおおおおっ!!」

ヤケになり捨て身の特攻を仕掛けるもさらに硬くなった鱗に弾かれた所でついにHPは0になり粒子になって消えてしまった。

 その光景を見て場の空気は一気に士気を失い恐慌状態になってしまった。

「い、いやだ、こんなの無理だっ! 勝てるわけねえ!」

「ダメだ、諦めて撤退しよう!」

次々に怖気付き後ずさり始め背中を向けて逃げ出すプレイヤーたち、だがそれを見逃すわけもなく紫蛇は届く範囲のプレイヤーに噛み付きガスをまき散らし尾を払い蹂躙する。一人また一人と粒子になって死亡したりガス攻撃を受け何も出来ずHPが減っていくの呆然と見つめやがて0になりゾンビ化してしまうのをただ見ているだけしかない。過去に何度か遭遇してしまったプレイヤーが死亡していく光景が今再び目の前で起こっている。心が恐怖で満たされ始め動けなくなりライバックの手綱を引き物陰に隠れていたそんな時だった

「死ぬのは嫌、けど誰かが死ぬのをただ見てるなんてもっと嫌! ウルっ!」

サオリは目に涙を浮かべながらウルに飛び乗り逃げ遅れたプレイヤーに接近し手を掴み引っ張りあげて紫蛇から遠ざける。

「ああ、サオリさんの言う通りだな。腹括ってやってやるか!」

マキシさんはそういうと両手に持ったククリを構え直し紫蛇へと挑みかかる。

「サオリちゃんのウェイトレス衣装をもっと見たいしな、やるしかねえか!」

レックスさんも自らを鼓舞し駆け出していく。

「・・・・・・」

死ぬのは怖い、とてつもなく怖い。でもみんなあんなに必死になって誰かのために戦ってる。あんな事俺には出来る自信が無い。

「・・・・・・でも」

自信なんてエリドに戦いを挑まれた時だって無かった、ただ夢中でサオリを助けたいと思った。

「あの時と今。違いなんてない、相手が人かモンスターかってだけだ。だったら、やってみたっていいんじゃないか? やらないで後悔するよりもやって後悔した方が絶対に良い。きっとお前ならそう言うんだろ、なぁユウコ?」

 俯いていた視線を上げるといつの間にかライバックが俺の真正面に移動して俺の顔をじっと見つめていた。その目はなんだか「早くしろ、ボウズ」と言ってるような気がした。


今回はいつもと違って連続投稿です。ノリと勢いの第十八話。意見感想待ってます。

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