第十七話
クエスト受注後、俺とマキシさんは早速人が集まってる所に行っては参加者募集の声をかけてまた別の場所に移動してそれを繰り返すという事をかれこれ一時間ほど続けていた。
その結果集まってくれたのは20人弱のプレイヤーたちだった、事情を説明して最初は自分たちだけでやれるものなのかと不安がっていたが安全圏が無くなるというこの事態にグダグダ喚いても仕方がないと腹を括って参加を決意してくれたのだった。
そして今はテブルのほぼ全部を周り終え集合場所に選んだ領主の屋敷前にある広場で待機している所だった。
「敵がどの程度なのか知らねえが案外人が集まってくれたな、トモ」
人が集まってくれるのか心配だったらしいマキシさんが安堵する。
「はい、あとはユウコにさっきのメールが届いていればいいですが」
と、その時俺の視界にメール着信を伝えるアイコンが表示された。
「ユウコからかな・・・・・・」
そう思いながらメールを開くと相手はサオリだった。内容は俺たちがクエスト参加者募集の呼びかけをしていたのを他のプレイヤーから聞いたこと、そしてサオリも今からこっちに合流して一緒に戦うというものだった。
「おいおい、サオリは戦わなくていいんだよ、せっかく戦わないで良いようにここに来たんじゃないのか? いや、ここまで来たからこそ街を守りたいって事か・・・・・・」
サオリの考えがなんとなく予想出来たので拒否するわけにもいかず承諾の返信を出している間にマキシさんは装備の点検をするように集まってくれた人たちに声をかける。
「みんな、いつでも戦えるように装備やアイテムの点検を忘れないで、ここは今フィールドと同じで体力は減ったままになるしステータス異常も時間経過でしか治らない、細心の注意が必要だ」
俺の忠告に参加してくれたみんなは各々威勢よく返事を返してくる。
「おーい、トモー!」
白い巨大な狼ウルに乗ったサオリが他に4人ほどプレイヤーを引き連れ広場に姿を現した所だった。
「おっす、サオリ。その格好・・・・・・もしかして戦ってたのか?」
「あ、うん。ノースガーデンってお店のバイト頼まれて呼び込みしてたら色々あってね、お店の人と協力して戦えばアタシみたいな素人でもなんとかなるんだなって思えるようになったんだ。それに基本的な所は二人も先生が居てくれたしね・・・・・・」
サオリは何処か申し訳無さそうにこちらの様子を窺ってくる。きっと戦って危険な事に首を突っ込んだ事を怒ってるとでも思ってるんだろう。俺は必要以上に優しくサオリに答える。
「そうか、サオリがそう決めたのならそれで良いんだと思う、でもこれだけは言っておくよ? 絶対に無茶はしない事、何処かの戦闘馬鹿みたいにならないようにするんだよ? それにしてもノースガーデンかぁ・・・・・・」
何処かで聞いたことがあるような気がして記憶を探る事数秒、
「ああ!? ノースガーデンって言えば食通プレイヤーの間で凄い人気になったハヤシライスが有名な店じゃないか!?」
俺は思い出した記憶に驚き大声を上げた。
「おいおい、どうしたんだトモ。あれ、この人がユウコなのか?それにしては随分初々しい感じだな・・・・・・」
俺の声が気になって近づいてきたマキシさんがサオリに視線を向けながらこちらに聞いてきた。
「いえ、この人はこの街に来る途中の街で知り合ったサオリって子です。戦うのは得意じゃないんですけど片手剣の戦い方は筋が良いってユウコが褒めてましたね」
俺の返事を聞いてマキシさんはユウコが褒めたという事で気になったのか先ほどよりも熱心な視線をサオリに向ける。
「ノースガーデンってそんなに有名な店だったんだ・・・・・・、というかそんなにジロジロ見ないで下さいよ、マキシさんでしたっけ?」
サオリは一度俺に店の事をもっと聞きたいような視線を向けるが不躾なマキシさんの視線がさすがに嫌だったようですぐにマキシさんに向き直り注意する。
「あ、いやすまん。あの超有名なユウコが褒める片手剣使いってのが気になってさ、本当に申し訳ない」
マキシさんはそういうと深々と頭を下げて謝罪した。
「何もそこまでしなくても、分かってもらえれば良いんです。顔を上げて下さい」
テレビでよく見る謝罪会見のような事になっているマキシさんにサオリは慌てて声をかける。
「で、サオリ。もしかしてウルの近くに居る人たちがひょっとして・・・・・・」
「そ、ノースガーデンの調理担当のウダイさん、ベンホウさんとフォレストさん。食材調達担当のレックスさんの4人」
サオリが一人一人に手を向けて紹介する。
「おお、すげえ。あのノースガーデンのメンバーが目の前にっ!」
その様子を見ていた周りのクエスト参加プレイヤーの中にも俺と同じ食通が居たようで似たような感慨に耽っているのが見えて嬉しくなった。
ひとしきり感動を味わうと気を取り直してサオリにノースガーデンのメンバーがここに来た理由を聞くと理由は実に有難い物だった。
「えっとね、これからみんなヴァイオレットスネークってモンスターを倒すためにこの街で戦うんでしょ? そしたら俺たちに出来る事はこれぐらいだなってウダイさんたちが残ってた食材でサンドイッチ作って持って行こうって事になったの。何人集まってるかわかんなかったから在庫で作れるだけ持ってきたから余ったら所持アイテムに保管して後で食べてよ」
「うおー!! ノースガーデンのサンドイッチとか最高だな、皆さんありがとうございます!!」
と俺は馬鹿みたいにはしゃぎながらウダイさん達に向かって礼を言う。
「おお、これは美味そうだな」
マキシさんもサンドイッチを受け取り嬉しそうに眺めている。
広場に居るプレイヤーに行き渡りそれぞれ食べ終わり余ったのは保存したあと、和やかになった空気を引き締めるためマキシさんが広場の中心にある壊れた噴水の淵に上りメンバーの顔を見渡しながら
「さて、美味い飯を食った事だしこっからは和やかムードとはしばしお別れして本題に入ろう。俺たちの目的はヴァイオレットスネークの討伐だ、しかしどれほどの敵なのかさっぱり情報が無い。デカいのか小さいのか強いのか弱いのかとにかく全くだ。なのでどんな状況でも対処出来るように絶対に個人でなんとかしようとは考えないように、忘れてるはずはないと思うがこの世界で死んだら現実でもあの世行きなんだ。慎重に動く事、必ず最低二人か三人で一組を作って行動する事。危なくなったらとにかく逃げる、無理なら距離を取る。隙を見て全体チャットメニューを開いて現状報告する事かな? こんなところだろう、何か質問はあるか?」
マキシさんが言い終えると一人手を挙げた。その主はサオリだった。
「どうぞ、サオリさん」
促されサオリはたじろぎながらも
「ええと、全員生きて帰って来ましょう、ちゃっちゃとモンスターを倒して帰って来られたらノースガーデンの祝勝パーティーが待ってますよ!」
サオリの言葉に周囲も賑やかになる、かくいう俺も密かにガッツポーズしてたりする。目線をサオリの後ろで待機してるウダイさんたちに向けると笑顔でサムズアップしてくれた。これはかなり期待して良いだろう。何がなんでも帰ってノースガーデンの料理を食うぞ!等と一人心の中であれこれ考えてると
「サオリさんありがとう、楽しみだ。みんな聞いての通りだ。俺たちの今日の夜の予定は決まった。腹いっぱい美味い飯を食って騒いで寝る、異論はないな?」
マキシさんが不敵な笑顔を浮かべてみんなを煽る。
おー!とかよっしゃー!とかみんな野太い声を上げて自分たちを鼓舞している。
「さて、それでは最後にリーダーから一言頂戴したら戦闘開始にしよう。それじゃトモ頼む」
そう、みんな自分を鼓舞している。マキシさんのおかげでこんなに纏まって士気も上がってるのにここで俺が出てったら台無しじゃないのか? いや、そもそもリーダーって俺だったの!? とかコンマ数秒の中頭の中で色んな事が考えられテンパった俺にみんなの視線が集まる。どどどどうしよう、向こう(現実)の世界でもこんな風にみんなの注目を浴びながら何かを話すことなんて経験無いのに何を言えと!? で、でも何か言わないと・・・・・・言わないと・・・・・そうだ! これだ!!
「え、なんだって?」
場の空気が微妙な物になったのは言うまでもない。
一か月以上空いてしまいました。ペースを出来るだけ上げるつもりですのでこれからもノリと勢いのこのシリーズをよろしくお願いします。




