第十三話
トモとサオリの二人に手を振り返しながら街を出て数時間、私がリーダーを務めるギルド、『エンカウント』は順調に北側エリアを行軍していた。
「それにしても、あのサオリって人団長とはまた違った魅力的な人でしたね。どこで知り合ったんすか?」
今にも雪が降り出しそうな曇り空を眺めながらハル君が聞いてくる。
「トモがあの子に頼まれて街を出る事になって、その移動先が丁度私たちの居る街だったからそこで知り合ったのよ。でも勿体ないのが片手剣の使い方が中々筋が良くてね、スカウトしてみたんだけど本人は戦うのが怖いみたいで断られちゃったんだ」
と、溜め息交じりにサオリの申し訳無さそうな顔を思い出しながら私はハル君に答える。
「そうだったんすか。性格も外見も良い上に団長が褒めるくらいプレイヤーとしても優秀・・・・・・ますます気に入ったっす!今度会う時には声をかけて下さいね?お近づきになりたいっす!」
目をキラキラさせてお願いしてくるハル君だけど、多分脈は無いかなぁ。あの子の反応を見てる限りトモの事結構気に入ってるっぽいんだよねえ。ハル君にはとりあえずこの事は伏せて置こうか。
「ああ、うん。その時は教えるよ」
「絶対、絶対っすよ!?」
凄く嬉しそうにしているハル君を見て軽い罪悪感を覚えるけど、でも今サオリとトモが付き合うとか決まった訳でもないしまだまだこれからだし、良いよね?
「団長、そろそろクエストの村に着きます」
ハル君との会話に気を取られすぎていたけど、今私たちはテブルの街から出て小一時間ほど北に進んだ所にあった村でクエストを受注したのだった。依頼内容は親交がある村との間を往復する定期便が村に行ったきり帰って来ないのでこちらから2人ほど様子を見に行かせた所、今度はその二人も帰って来ない、もしや盗賊かモンスターに襲われているんじゃないかと思うものの村には戦えるような装備も人材も居ないので引き受けてくれる者を探しているという事だった。丁度メンバー全員手持ち武器のスキルの熟練度を早く上げたいと思っていたので討伐系クエストは願ったり叶ったりといったところ、私たちは全員一致で受注する事に決め例の村へ向けて行軍していたのだ。
「あそこね、建物が壊れてるし何かあったのは間違いなさそうね。みんな戦闘準備!油断しないで。ハル君、偵察頼める?」
「勿論っす、行ってくるっす!」
ハル君はそういうと地を這うような姿勢で村の入り口へと駆け出していく。
そして、2~3分が経過した頃。ハル君が同じ姿勢でこちらへと向かってくる。
「どうだった?」
「村には誰も居なかったっす。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「村の中央にある教会にモンスターの巣っぽいのがあったっす。おそらくそいつにあの村の人たちや定期便、さっき居た村の二人は殺されたと思うっす」
それを聞いた私は苦虫を噛み潰したような顔をしていたんだと思う。私の顔を見てハル君が
「やっぱり、NPCだとしてもこういうのって嫌な気分になるっすよね。特にVRゲームだとより一層感情移入しちゃうし」
「ええ、そうね。でも悲しんだり落ち込んだりしても村の人たちが生き返るわけじゃない。みんな注意しながら村へ突入、その後各自警戒しつつ探索ちょっとでも危ないと思ったり何か見つけたらすぐ知らせる事、分かった?」
メンバーそれぞれの眼を見ながら支持を出すとハル君を筆頭に
「了解!」
と威勢良く答えてくれた。
「よし、じゃあ行くわよっ!」
そうして私たちは、村の探索を始めたのだった。
探索を開始して10分後、私たちはひとまずハル君が教会で見つけたというモンスターの巣を見に行くことにした。
「周りにはそれっぽい骸骨とか転がってるし、間違いなさそうね」
私は視線を転がってる骸骨に移し近づいていくと自動的に視界にはウインドウが表示され『村人の骨』というアイテム名が映る。
「一応回収しておきましょうか。依頼を受けた村長さんに渡してあげた方が良いと思うし」
「そうっすね、しっかし村とはいえ、結構な規模だし一体どんなモンスターなんすかね?ここ襲ったの」
「どうなんだろうね、僕が見てきた民家は上半分無くなっていたし巣とかもここでしか見てない。となると結構大型なやつなんじゃないか?」
とミルガさんが探索の内容を話す。他のメンバーも同じようで巣はここでしか見つけられなかったようだった。
と、一通り報告を終えたところで遠くから何かが吠えるような声が聞こえててきた。
「これって、もしかしてここのモンスターの声っすかね?」
「おそらく、だんだん大きくなってきてる。みんな一旦出てここの様子をみられる位置に隠れて!」
無言でそれぞれ頷くとすぐさま外へと出ていき近くの民家や井戸の陰に隠れて息を潜める。すると上空から教会の巣の主と思われるモンスターが姿を現した、それは体長はおよそ3~4メートル、全体が純白の鱗で覆われていて身の丈ほどもある一対の翼を悠然と羽ばたかせ顔はトカゲを思わせる流線型、尾の先はまるで槍の様に先端が尖っていて足にはえげつないほど湾曲した爪、俗にいうワイバーンという種類のモンスターだった。そいつがゆっくり下降してくる。
「まさかのワイバーンとはね、相手に取って不足は無いわ!」
私は近くに身を潜めているメンバーに手を振り合図を出すと一目散に飛び出し近くにあった井戸を踏み台に飛び上り民家の屋根に着地、屋根伝いに教会のまだ足場が残っている場所に着地、ワイバーンはまだ気づいていない。
と、そこへミルガさんとハル君が正面入り口からワイバーンへ突撃していく。それに気づいたワイバーンがすぐさまその巨大な翼を広げ威嚇しながら咆哮する。序盤でワイバーンと対峙するなど竦み上がるのが普通なのに全く物怖じしないあの動き、やはり古参のハル君は肝が据わっているし新参のミルガさんだって負けちゃいない。これこそ『エンカウント』だ。それにほかのメンバーも負けじと後ろから攻めたてている。前から後ろからワイバーンに果敢に挑む。良いねえ!
「前も後ろも抑え込んでくれてるし、私は上から行きますかっ!」
私は今まで立っていた場所から思い切り踏み込み跳躍、真下には四方八方から攻撃を食らいつつ尻尾を振り回したりしながら抵抗するワイバーン。
空中で姿勢を整え、両手剣を構えスキル発動位置に持っていく。両手剣スキルの基本技『アクセル』、腰だめに剣を突き出すような構えから一気に間合いを詰めて剣を突き出す突撃型攻撃スキルだ。空中からの落下速度がシステムアシストにより加速しまさに加速≪アクセル≫だ。
その勢いのまま、ワイバーン目掛けて急降下、ワイバーンは足元で攻撃してくるメンバーに気を取られ見向きもしていない。相対距離がぐんぐん縮まり翼の付け根に深々と剣が突き刺さる。途端、悲鳴を上げ暴れまわるワイバーン。そのまま突き刺さった剣を引きずるように尻尾に向かって駆け出しダメージを加算させる。
「団長さすがっす!」
「僕には到底出来ないな、落下ダメージ怖くないんですかっ!?」
ワイバーンの攻撃を躱したり受けたりしながらハル君たちが声をかけてくる。視界に表示されているワイバーンのHPバーは二本。今の攻撃が余程効いたのか早くも一本無くなっていた。
「そのまま下は任せたわ!私は翼を切り落とす!」
私は尻尾付近で奮闘している団員に声をかける。
「もう一度翼の付け根に攻撃するから下からも付け根を狙って!まずは飛べないようにするわよ!」
「了解!」
3人の内二人が残り、一人が翼側へと慎重に移動し手にした槍で確実に付け根を狙ってダメージを与えていく。
「良いわよ、その調子!」
剣を引き抜き、傷ついて捲れ上がった皮膚に掴まりながら少しずつ付け根の位置に移動していく。
「そろそろ、行けると思うんだけど」
右手で体を支え左で剣を構えて付け根にさらに突き刺していく。HPバーがどんどん減っていき残り半分を切った所で生ものが千切れるちょっとグロテスクな音とともに右の翼が根本から切り落とされる。
「よおし!これでもう逃げられないわ、みんな気を抜かないでラストスパートよろしく!!」
戦闘でテンションが上がり切っているようでいつも以上に野太く吠える団員たち。
翼を切り離した事でバランスが取り難くなったのか、足を少し攻撃しただけですぐに転倒するようになったワイバーンはもはやただの的になりつつあった。私は転倒して呻いているワイバーンの顔面に狙いを付け『アクセル』を発動させ突撃する。HPはもはや風前の灯。やけくそに尻尾を振り回すも消耗しているのか最初のような勢いは無く地面に着いたまま引きずられるようにこちらに振られる尻尾などただの縄跳びのようなものだった。だが誰も気を緩める事は無く皆真剣な顔で確実に残りのHPを削りにかかる。
そしてついに、ワイバーンは息絶えポリゴンの粒子になって消えドロップをアイテムを残していった。
「いやぁ、最初はこんな序盤でワイバーン!?って思ったけどなんとかなって良かったっすね!」
とハル君が気を張っていたのが緩んだのか座り込みながら言う。
「確かに、ワイバーンなんてアップデート前ならもっとずっと奥のダンジョンとかでしか見た事無かったからね、内心ヒヤヒヤだったよ」
ミルガさんもハル君同様胡坐をかきながら相槌を打つ。他のメンバーも思い思いにその場で座り込んだり壊れていない無事なのが残っている椅子に腰かけたりしながら休息を取っている。
「ドロップアイテム確認しきゃ、結構強かったしレアなの期待しても良いよね?」
そう言いながらメニューを開き確認するとそこには
「ホワイトワイバーンの鱗、翼、牙・・・・・・普通すぎる!ねえ、みんなは?」
メニューから目を移し声をかけるとみんな似たようなものばかりだった。
「ちぇ、あんなに頑張ったのになぁ」
「まあまあ、こういう時は物欲センサーが働いてるって事で諦めた方がいいんすよ団長。それより無事に原因のモンスターも倒したし今回のクエスト達成じゃないっすか?」
「そうね、とりあえずもう少し休憩したら依頼の報告に行ってそれからご飯にしましょうか」
りょーかーいと流石にいきなりの強敵との戦闘で心身ともに疲れたのか間延びした返事が返ってきたのに笑いつつ、私も近くにあった無事な椅子に座り休みながらもゲーマーの性とも言うべきか手に入れたワイバーンの素材で何が作れるのかという事に期待を胸を膨らませるのだった。
勢いとノリの第十三話。今回はおそらく今までで一番いや、二番・・・・・・さ、三番目くらいの戦闘シーンの量だと思います。まだ足りないなぁ。努力します。意見感想待ってます。




