第十二話
呼び込みを始めてから一時間程が経過した頃、少しずつだけどお客さんがお店の中に入っていってくれるようになった。そして食べ終えたお客さんたちが口々に美味しかったね、等と顔を綻ばせながらお店から出て来るのを視界の隅に入れながらアタシは精一杯ウダイさんたちの役に立とうと一層声を張り上げ、呼び込みを続けた。
それから更に時間は経ち飲食店が一番忙しくなる昼になる頃、お店の中からウダイさんが大きなお腹を揺らしながらこちらに駆け寄ってきた。
「どうしたんですかウダイさん、これからもっとお客さんが増えて忙しくなる時間帯なんじゃ・・・・・・」
アタシがそう声をかけるとウダイさんは辛そうな顔で口を開いた。
「それが、まだ紹介してないメンバーの一人が食料の調達に行ってるって言っただろ?そいつから助けてってメールが来たんだ。でも、アイツ以外戦闘用スキル覚えてるやつが居なくて助けに行こうにも行けなくて・・・・・・それで、今日知り合ったばかりの君にお願いするのは図々しいにも程かあるのは重々承知の上でお願いしたい。キミなら見たところこの狼を手懐けてるのを見る限り戦闘スキルも持っているみたいだしアイツを助けに行ってくれないだろうか?」
アタシは今にも泣きだしそうなウダイさんの瞳を見つめながら、助けたいという気持ちとアタシ一人で果たして無事にウダイさんの仲間を助けられるだろうかという不安と葛藤していた。それを知ってか知らずかウダイさんは「もちろん、キミ一人にすべて任せる気はないよ?代表として俺も一緒に付いていく。いざとなったら俺を盾代わりにでもなんにでも使ってくれて構わない、だからどうかアイツを助けるのに協力してくれないか?」
ウダイさんは頭を下げて懇願してきた。そこまでされたらどんなに不安でも助けたいと思ってしまうのはアタシがお人良しだからだろうか?でもきっとアイツ・・・・・・トモでもきっとアタシと同じように言ってくれるとそんな風に思いながらアタシは頭を下げたままのウダイさんの手を取りウルに駆け寄った。
「急ぎましょう、時間がもったいないです!」
されるがままになっているウダイさんに肩越しに声をかけながらウルに飛び乗ると
「それでどっちに行けばいいんですか!?」
「え、えっとここから北側のフィールドに表示されてる!」
それを聞くとアタシはウルに声をかける。
「ウル、北に行くよ!全速力!!」
アタシの声を聞いて「待ってました!」と言わんばかりに高らかに吠えるとウルは道行く人の隙間に飛んで駆けてまさに風のごとく走り抜けていく。
「うおおおおお!?こええええ!!」
ウルの毛を必死に掴みながらウダイさんは悲鳴を上げている。
「しっかり掴まってて下さい!街を出たらもっとスピード上げますから!!」
アタシはウルの全速力をまだ体験したことはないけど、それほど恐怖感は無かった。きっとトモの愛馬ライバックの全速力を体験したからだろう。騎乗スキルやはりこれは素晴らしい!!アタシは場違いな事を思いつつもまだ見ぬウダイさんの仲間の安否を思いながらウルの毛を掴む手に力を入れた。
人混みが途切れゲートが見えてきた、ついさっきユウコたちを見送ったゲートを視界に入れたかと思えばあっという間にその下をくぐり少しばかり体が恐怖で縮こまりかけるが人の命がかかってる事を思い出し奮い立たせるとウダイさんに位置を確認してもらう。
「ええっと・・・・・・もうちょい先だ!このまままっすぐ!」
「分かりました!!」
アタシは目を凝らしながら視界に入る景色の中に人影を探す。速度が速度なので一瞬で過ぎ去っていく風景の中見落とさないように意識を集中させる。
一直線に走っているとやがて目線の先に土煙が舞っているのを視界に捉えた。と、同時にウダイさんが声を張り上げる。
「あそこだ!あそこに俺の仲間がいる!」
返事を返すのももどかしくアタシは意識を素人なりに戦闘用に切り替える。イメージするのはトモとユウコ、二人の動き。
土煙が薄れ、その中に痩せ気味のほっそりとした体格をしっかり守ろうと序盤にしては程度が良いプロテクターに身を包み腕や足にも同系統の物を装備した青年を捉えると声を張り上げて呼びかける。
「掴まって!」
アタシは左手をウルの毛を掴むままにして右手は青年へと差し出した。
青年はすぐさま反応しアタシの手を取り半ば引きずられるように土煙の奥にいるであろう敵と間合いを取る。
ある程度距離を取ると青年の手を離し地に足を着かせる。青年はアタシの顔を見てそれから後ろに掴まっているウダイさんを見て口を開く。
「すまねえ、助かった!ウダイ、あと知らない人!ちっと食材集めに夢中になり過ぎて調子に乗ってたら厄介なやつに出くわしちまったんだ」
ウダイさんはウルから手を離し危なっかしく着地すると青年に声をかける。
「全く、お前しか戦闘用のスキル持ってねえんだから無茶すんなっていつも言ってんのにこれだからなぁ。おかげで今日知り合ったばかりのサオリさんを巻き込んでこんな所まで来る羽目になったんだぞ?給料差っ引いとくからそのつもりでな!」
それを聞いた青年が悲鳴を上げるのと同時に、ウルが唸り声を上げる。
「来るぞっ!」
土煙の中から何かが飛び出してきた。何かを確認する間も無く無意識に横に転がって飛び出してきた何かが居るであろう場所を見れば、そこに居たのは大きさはウルより少し小さく色は茶、背には小さな棘を生やした蛇だった。
「ステータス異常を起こすような攻撃はしてこねえけど、今の装備じゃ中々ダメージが通らなくてな。持久戦になっちまって少しずつこっちが追い込まれ始めたんで間合いを取りながらメニューウインドウ開いてウダイにメール出したってわけ」
青年はチラリとアタシを見ると
「で、キミは俺を助けるための助っ人なんだろ?その装備で大丈夫か?」
「え?」
言われて気づいた。ウダイさんに頼まれてここに来るまで気持ちだけが先走って装備を切り替えるのを忘れていた。
「すすす、すいません!すぐ切り替えます!」
アタシはすぐさま装備ウインドウを開いて制服から戦闘用の装備に切り替える。
その隙を逃すわけにはいかないと蛇は飛びかかってくるがウルと青年がアタシの前に立ちはだかりカバーしてくれる。これじゃどっちが助っ人がわかったもんじゃない、アタシは顔が赤くなるのを感じながら装備が切り替わったのを確認しつつ前へと駆け出す。
「すいません!もう大丈夫です!」
怖いのを通り越して恥ずかしさで死にそうになりがらもアタシは青年の横に並ぶ。
「別に、制服のままで剣だけ装備しても良かったのに」
青年が残念そうにアタシの恰好を見ながらつぶやく。そう言いながらもしっかりと回避行動を取りつつ蛇の隙を伺っている。やっぱり私じゃ戦闘で人の役に立つことなんて無理なのかな・・・・・・。それでも、アタシにだってやれることがあるはずだ。
「ウル!巻き付かれないように注意しながら首に噛みついて!!」
アタシの指示に嬉しそうに尻尾を振りウルはフェイントを交えながら蛇の首に噛みついた。
途端、蛇は身を捻りながらウルに巻き付こうとするもそれをさせまいとアタシと青年が切りかかり妨害し狙いがアタシたちに移れば再びウルが噛みつくというパターンを作り出し青年が削っていたペースよりも大分早いペースで蛇の体力を削っていき。半分を切ると、蛇は突如雄たけびを上げると体をブルブルと震わせ始める。
「な、なんだ?」
「わかりません。ウル、離れて!」
アタシたちはブルブルと震え出した蛇を遠巻きに見張りつつ少し離れた岩陰に隠れているウダイさんに声をかけた。
「何が起こるかわかりません、ウダイさんも気を付けて!」
「わかった、キミたちも気を付けて!レックス、いざとなったらお前がサオリさんを守れ!」
「わぁーってるよ!」
レックスと呼ばれた青年は視線は蛇に向けながら口を開いた。
「言われるまでもねえ、男は女を守るもんだ」
「頼りにしてます。って助っ人に来た人間の言う台詞じゃないですよね」
アタシも視線は蛇に向けたままレックスさんに声をかける。
「別にいいさ、さて蛇の野郎が何をしでかすのか見届けようぜ。そろそろ終りそうだ」
震えていた蛇に変化が起こった、体の表面に亀裂が走り始めたのだ。亀裂はどんどん増えていき全身に行き渡ると最後に勢いよく弾け飛んだ。
「脱皮か・・・・・・」
飛び散った鱗にはアイコンが表示されていた。どうやらアイテム扱いらしい、後で拾おうと思いつつ視線はあくまで蛇本体から外さない。
「体力は回復してねえみたいだな。とりあえずラストスパートってところか」
レックスさんはそういうと身構えながら少しずつ前進していく。アタシもそれに続きウルも唸りながら少しずつ間合いを詰める。
蛇は脱皮して茶色だった皮膚から赤が混じった茶に若干変わっていた。さらに心なしかさきほどより大きさも変わったようでウルより少し小さかったのがウルと同じか少し大きいくらいになっていた。
「ひとまず攻撃パターンが変わっている可能性がある。それを見極めるために始めは防御主体で行こう。攻めるのはそれからだ」
「了解!」
蛇はさきほどより大きくなった体躯を誇示するように持ち上げてこちらを睥睨している。と、口を開き喉の奥から何か赤い煙が噴き出し始めるとこちらに向かってそれを吐き出してきた。レックスさんの指示を待つまでもなくそれぞれが散開し着弾点に視線を一瞬やる、丁度そこにあった草や小石が徐々に形を崩しながら溶けていく。
「溶解液か・・・・・・、だが出すときの動きは分かりやすいし時間がかかる、そこに注意しつつさっきのパターンで行ってみよう」
レックスさんの指示に無言で頷きアタシたちは再び攻めに転じる。
脱皮したことによって防御力が上がったのかさきほどよりダメージが通らない。それでもウルの噛みつき、レックスさんとアタシの片手剣スキルのパターン攻撃でさほどダメージを受けることなく残り一割に達したところで蛇の懐に飛び込んでいたアタシに蛇は首に噛みついてるウルを無視して尻尾を振るってきた。避けられそうにないので咄嗟に防御態勢を取ろうとするとレックスさんが間に入り攻撃を受けて後方へ飛ばされていった。
「ぐぅぅっ!」
呻き声を後ろから感じながらアタシは蛇の腹を踏み台にして三角飛びで蛇の顎に片手剣を突き刺した。剣はそのまま止まる事無く勢いのまま脳天まで突き抜け視界に表示される体力がみるみる減っていき首に噛みついているウルも一層唸り声を上げてこれでもかと力を加え、ついに蛇の体力は消え去りポリゴンの粒子になって消えた。
途端、力が抜けその場でへたり込んでしまう。
「はは、今さら死ぬのを怖がってるとは思えない無茶の連続だったわ」
空を見上げて一人呟くとウルがアタシにじゃれついてきた。
「ウルもお疲れ様。あとで美味しいごはん食べようね!」
「そうだな、助けてもらったんだ。今日は俺が店を貸し切ってキミの歓迎会でもしようか」
振り向くとレックスさんがアタシに微笑みながら手を差し出してくれていた。アタシはその手を握って立ち上がると小走りにやってくるウダイさんに手を振る。
「ウダイさんなんとか上手く行きましたね!」
「うん、正直ヒヤヒヤしてたけど結果オーライだね」
それを言われると辛いなぁと頬をポリポリ掻きながら引き攣った笑顔を浮かべながらさきほどの蛇のドロップアイテムを確認する。
「『赤砂蛇の牙』か。料理には使えないかな」
アタシがアイテムメニューを確認しながら言うと
「食用のは小さい蛇しか落とさないみたいなんだ、この辺の蛇狩りまくってたら大中小色々居てさ、夢中になってやってたら今戦ったやつが地面からズドン!!って出て来てさぁ、いやぁびっくりした」
あっはっは等と大笑いするレックスさん。それを見たウダイさんが
「あっはっは、じゃねえよ!!お前しか戦闘スキル持ってねえんだからちっとはその小さい頭で後先考えて行動しろっつってんだろ!」
「へいへい、よおし帰って飯にしようぜ、な?サオリちゃん」
あ、そうだ。忘れてた。
「ウダイさん、アタシ今日だけじゃなくて正式にノースガーデンのスタッフにしてくれませんか?なんだか呼び込み楽しくって、これならやってみてもいいかなって」
それを聞いたウダイさんは心のそこから嬉しそうに
「本当かい!?やった!よぉし今日は全員総出でスペシャルメニュー作るぞ」
意気込むウダイさんを先頭に帰路につく三人と一匹なのであった。
勢いとノリの第十二話。意見感想待ってます。




