カレと私
前半はちょっと説明くさい感じになっちゃいました(-_-;
それから!急ですがタイトルをかえさせていただきました。
『全生活健忘』(ぜんせいかつけんぼう)
これが私の病名…というか私に起きたこと。
発症する前の、主に自分に関する記憶が一時的に消えてしまうという哀しいものらしい。
しかし先生によるとだんだんと記憶が戻ってくることが多いそうだ。
(私は、これを聞いて内心ホッとした。)
そして原因は、いまいちハッキリしていないのだが、強い精神的ショックを受けたことだと考えられているらしい。
人とは不思議なもので、辛いことがあり強い精神的ショックを受けると自分を守ろうとして記憶を失ってしまうことがあるそうだ。
ちなみに、頭を打つなどして脳が衝撃を受けたことによって発症することも稀にあるそうだが、私の場合は頭部に大きな外傷もなく、脳の異常もなかったので、当てはまらないと考えられたそうだ。
何はともあれ、私の名前は成瀬 玲奈。年齢は23歳でA型らしい。
そして、病室にずっといてくれているカレの名前は、朝比奈 悠也。残念ながら全く覚えがないのだが、なんと私の恋人だと言う。
カレ――朝比奈くんによると、私の両親は数年前に事故で亡くなっていて、現在私はマンションで一人暮らしをしていたらしい。
――話しは少し戻って、私の意識が戻った日の翌朝のこと。
気持ちよく眠っていた為、ほんのちょっと前の私とやぶ医者先生のやりとりを知らない朝比奈くんは、目を覚ましてから普通に話しかけてきた。
「おはよ、もう顔色も良いしだいぶ元気になったみたいだな」
優しく温かな言葉と、私にむけられたその笑顔に、私はつい焦ってしまいザックリ言ってしまった。
「ごめんなさい。あなた、誰ですか?
私……今までの記憶が何にもなくて、あなたのことも、何も覚えてないんです」
「えっ……? 記憶が、ない……?」
カレは少しだけ傷ついた様子で、言葉を失っていた。
「私、何も覚えてなくて…ごめんなさい」
私はというと、ただ謝ることしかできない。そしてしばらく、沈黙が訪れた。
カレはとても驚いているようだった。
しかたがないだろう、昨日会ったときすぐに[あなたは誰ですか?]なんてきかなかったから……
何で今更そんなことを言うのか? そう思っているかもしれない。いや、私の言葉をちゃんと信じてもらえたかさえも、分からない。
あぁ、せっかく優しくしてくもらったのに傷つけてしまった。
嫌われちゃったかな?
私はだんだんと悲しくなってきた。
しかしカレは、ほどなくしてからぽつりとつぶやいた。
「そっか……記憶喪失なのか」
そう言ったカレの顔には何もうかんでいないように見えた。あらゆる表情がないような、そんな――
「……しかたないよ、あんなことがあったんだし。
えっと、俺の名前は朝比奈 雄也、歳は23、玲奈……君も同い歳だ。
昨日も言ったけど…これからは、ずっと、俺が、お前の傍にいて、守るから――だからよろしくなっ?」
最後の方は、一言一言区切りながら、強調したように、カレは告げた。
勢いとはいえ、傷つけてしまうようなことを言ったのに、温かい言葉をかけてくれるカレに、ほんの少し惹かれかけたが、そんなにわりきって言われても……と戸惑いながらどこかで思ってしまう自分がいた。
それと同時に、記憶を無くす前、カレと私はどんな風に時を過ごし、私にとってカレはどんな存在だったのだろう? そう思った。私の知らない私にとってのカレは…今の私にとってのカレと一緒なのだろうか、と。
そしてしばらくしてから、用事があるからと病室を出て行ってしまったカレに対して、不思議なココロのざわめきだけが余韻を残すばかりだった。