私は誰?
目が覚めた。
ふと、病室を見渡すとやはりカレはいた。すやすや気持ちよさそうに眠っているようだ。
本当に、誰なんだろう? 以前にどこかで会ったのだろうか? 全く覚えていないのだが……
やや頭痛のおさまった頭で考えを巡らせていたら、ガラリッとドアをスライドさせる音がした。
「おはようございます……」
会釈をしながら力なく言う、入ってきたのは先生だった。
「成瀬さん、おはようございます。だいぶ元気そうになりましたね」
元気、なのだろうか? いまだ頭痛はやまないし、気分も良くないのだが……と思ったが、それよりも気になることがあったのでここは目をつむることにした。
「ナルセ…昨日も思いましたが、それは私のことなんですか?」
「えぇ、あなたは成瀬 玲奈さんでしょう? 急に何を言うんですか」
「ナルセ、レナ……」
聞き覚えがあるような無いようなその名が私の名前なのか?
口に出してみると、違和感があまりないような気もする……確信は無かったが先生が言うのだからまさか間違いではないのだろうが。
いや――
先ほどのことといい、昨日からこの先生には [やぶ] 疑惑がかかっているから、もしかしたら違うかもしれない……
そして戸惑っている私を見て、先生がやや自信なさげになる。
「え!!? 成瀬さんじゃないないんですか? 運ばれた時に持っていた免許証には成瀬 玲奈という名前が書かれていましたし、彼氏さんにも連絡をとって確認していただいたハズなんですけど……」
突然、ちらりと目線を横にやってから先生は続けた。
「え~っと、成瀬さんじゃないならお名前は……?」
ここで弱気になるなよ、と内心思いつつ。
分かりません、と私はやけにハッキリと答えた。
しかもまるで口が勝手に動いたかのようだった。私の、名前?
なんでだろう? でも、分からない。思い出せない。いくら考えようとしても頭痛が増すだけだ。
もう、どうでもいいや。
私が誰であろうと、そこのカレが誰であろうと。
なんとなくそんな気分になってくる。
そして先生はというと絶句していた。全く、こういう時こそしっかりして欲しいのに、そう思ってしまうのはオカシイだろうか?
「まさか、記憶力がないんですか……?」
ようやく、驚いたように先生が告げる。
「先生、ないと思われるのは記憶力ではなくて記憶ですよ!」
しばらく前に入ってきたナースが、慣れた様子で素早く訂正する。
<注、さっきの言い間違いでやぶ医者であることが決まりました>
記憶が無い……?
驚いた、コレが噂の記憶喪失というものなのだろうか?
意外とショックが無かったのが不思議だった。まるで小説のようだと自嘲気味に笑ったが、昨日耳にした[事件]という言葉がなぜか突然よみがえって、寒気がした。
小説のように、驚くような展開が私を待ち受けている気がしてか、それとも[事件]について何かを思い出しそうになったからなのかは分からない、
ただなんとなく嵐の予感がした……