すがすがしくない目覚め
はっと目を開く、そして驚いた。
視界がぼやけて、歪んで見えるが、まず目に入った天井。
続いて壁。
さらに床。
そのすべてが先ほどまで見ていた夢とは対象的で、真っ白だったからだ。
といっても、その夢がどんなだったかは全く記憶に無い。
全体的に暗い雰囲気だったことは確かだったが。それ以外の覚えは無かった。
――病院? みたいだけど、なんで……
頭の片隅で、訳の分からないことを思いつつ、まずぼんやりと浮かんだ問いはそれだった。
ここは何処だろうか?
「……玲、奈?? あぁ良かった!! 気がついたのか。今すぐ、先生呼んでくるから」
声のした方を見ると男の子がいた。私の寝ていたベットの側で、腰かけていたらしい。
「だ……れ?」
そう声をしぼりだそうとしたが、かすれていて、男の子には何も聞こえなかったようだ。私自身、声が出たかも怪しいと思ったので、仕方がないと思う。
「ほんとに良かったよ……」
その子は、心底ほっとしたようにそう言うと、急に立ち上がってからパタパタと走りさってしまった。
私の問いに対する答えは無かった、やはり聞こえなかったようだ。
本当に誰なのだろう?
見覚えのない人だったけれど……
でも、なんだか爽やかな雰囲気だった。まるで風のような。
鈍い頭でそんなことを思った。
しばらくして、さっきの男の子が白衣を着た男性と一緒にやってきた。
先生、と呼ばれた白衣の男性によると、私は3日前の夜にここへ運びこまれ、意識がなく一時危険な状態だったそうだが今は危ない状態は脱出し、ようやく安定したらしい。
が、私は病院に運びこまれるようなことをした覚えは全くなかった。
と言うか、覚えていることが何もない。
「ごめんな。これからは俺がずっと傍にいるから……」
あの正体不明男の子はというと、そう言いながら私を優しく抱きしめた。
へ……何がどうなってるの??
私は頭が真っ白になった。
私、今、抱きしめられてる?
しかも相手は、全く知らない男の子で、かなりの美形……
何が起こったのか訳がわからず、思考回路が停止しているなか、さらに先生も言う。
「いい雰囲気のところすみません。
成瀬さん、まだ絶対安静ですが、警察の方が事件について詳しく聞きたいということで……今からお時間宜しいですか?」
意味がわからず、最初、男の子に言ったのかと思ったが、先生の視線の先にいるのは私だった。
それにしても、事件? 警察? ……この先生はいったい、急に何を言っているのだろうか?
こういう医者がやぶ医者なのか?
でもやはり、私に向かって言っているようだが……
それにしてもタイミングが悪すぎだ。
仮に私に言っているとして。
……そもそも私『成瀬さん』だったっけ?
私は非常に戸惑った。全然宜しくない!
頭の中が『?』でいっぱいだった。
そして、例の男の子はというとようやく私を抱きしめていた手をはなし、先生に言った。
「明日に出来ませんか? 今日はようやく目が覚めたばかりですし、ゆっくりさせてあげたいんです」
黙っていた私に代わり、男の子が口を開いた。
なので一瞬、『成瀬さん』はこの男の子だったのかと思ったが、答え方的に、やはり私のことだと気が付いた。
そして先生はというと、男の子の言葉にコクりと頷いた。
それを横目で見ながら、私は訳がわからず混乱していた。
何、この状況??
ただでさえじぃんと痛んでいた頭が、余計に痛くなる。
どうか、誰か、私に状況を説明してください……
そう思いながらも、だんだんと意識が遠のいていく。
人間は、どんな時でも眠れるらしい。
頭も痛くなりだしていたので、それを紛らわす意も込めて、私はもう一度深い眠りつくことにした。
なんとなくだが、何も夢を見ないように、祈りながら。