プロローグ*夢
闇の世界だった。一人ぼっちの、闇の世界だった。
なにも見えず真っ暗で、果てしなく黒く深い。異様な輝きを放っているような。
そんな漆黒の世界だった。
ここはどこ――?
[私]はだれ――?
心の中で問いかける。
手探りで進む闇の中で、遠くに小さな小さな光が見えた気がして、夢中で走る。
――でも届きそうで届かない。手をのばしてもその光はつかめない、消えてしまう。触れられないのだ。
どうして?
この真っ暗な世界から抜け出したい、ただそれだけなのに。
暖かな優しい光に浸りいだけなのに。
悲しくて、おぞましくて、胸が張り裂けそうで。
辛く苦しくて、途切れ途切れの記憶の中、助けて、とダレカの名を呼んだような気がした。
でも、ダレを呼んだかは分からない……
もう、何もかも、分からない、知りたくない、全てを否定して、消してしまいたい、いや、いっそのこと、消えてしまいたい……
現実なんて、見たくもない。
永遠に眠ってしまいたい。
そんな願いが届いたかのように、意識がだんだんと重くなり沈んでいく……
まるで、蒼く、深く、美しい、静かな海に、潜っていくような、そんな感覚だ。不思議と気持ちが良く。でも何か、どこか、胸につまるものがある。
そんな訳の分からない気持ちのまま、意識を失う寸前、最後に狂おしいほど愛しい、彼の姿を見た気がした。
……いや、違う。
アレは彼ではない。
彼のはずはない。
なら、アレは、誰……?
そして突然[あたし]は消えた。闇の縁に沈んで……黒に呑み込まれるように、静かに。そっと。
あたしがいたのは、闇の世界だった。