29話 宇宙要塞
数日後、街の様子は様変わりしていた。
ティアの居る町外れの小さな丘から街を見下ろす
都市の空には目に見えるほど強力な障壁が展開されている。
オーバーテクノロジーどころの話ではない結果が目の前にできている。
「ふははは、この程度の徹夜。デスマーチに比べれば屁でもないのである」
なぜか紙袋の目下の位置にクマができている紳士。
さすがに数日の徹夜は答えたのかふらついている。
「さて、一区切りついたので思う存分寝てから、OS等を開発するのである」
それだけいうと数名の部下を引き連れて去って行った。
「えっと……これはなんなんだろう?」
古代ローマのようなレンガによる城壁ではなく、見えるのは黒く波打つ不気味な壁。
巨大な黒いスライムのようにも見える。
「流体金属装甲とピンポイントバリアシステム…………我ながら……会心の出来」
ホーネットさんが仕様書と書かれた紙を手渡してくる。
――
流体金属装甲
某宇宙要塞の金属装甲を魔法と科学によって再現。
特殊加工された金属を液体化、循環させることによって城壁を覆い
衝撃を吸収霧散させます。液状によることで刺突、斬撃も受け付けません。
摂氏9000度までの熱を無効化、吸収します。
耐熱時間も流体金属を循環させることにより冷却の効率化に成功。
城壁に組み込まれた冷却装置と魔法兵による魔法での冷却が可能。
また循環システムにより、冷気系の攻撃の無効化にも成功。
凍った部位を内部に取り込むことで、内部の熱によって解凍します。
ピンポイントバリアシステム
結界プログラムの組み換えによる効率化と地脈からの魔力供給によって
確認できる範囲で従来結界の約50倍の強度を実現。
流体装甲を開発する課程での副産物により
衝撃を緩和、分散し受け流す事が可能。
特定部位への障壁の強化や透過が可能。
これにより街への被害がでない射線の砲撃を魔力消耗無しでの無力化が可能。
――
思考が停止するというのは、こう言うことをいうのだろうか?
理解できない。わけがわからないよ!
………………なにこれ、なんなのチートなの?やりすぎじゃない?!
「敵は強大……………まだまだ手緩い………紳士のOSが完成すれば他の大穴の対策もする」
口からでていたのだろうか?ホーネットさんが静かな口調でそう答える。
「う~ん、まぁ備えあれば憂いなしっていうし、いいのかなぁ…いいよね!」
「それと、出現箇所が特定済み……それに併せての要塞化……」
確かにさ、大穴の位置がわかっててそこからでてくるなら
塹壕ほったりとか罠張ったりとかしちゃえば?っていったけどさ。
もうやってるの?!本気で本当にやってるの!?
「作業経過は順調………遅れは見られない………」
「そ、そっか……。まぁ敵だもんね。誰かを不幸にするなら、それは倒さないといけない」
こくりとうなづくホーネットさん。
「他に何かしてないかな?」
「デーモンクラスへの火力不足……決定打不足……懸念。特殊魔法を開発中、進行は良好」
「えっと具体的には?」
「不死者及び再生するデーモンクラスへの次元干渉を行い存在を固定化、物理攻撃を有効化。魔力ジャミングによる展開される障壁の妨害と弱体。可能であるならば無効化」
ようするにアレですか?
高位次元存在の次元がずれているからとか、核を破壊しないといけないというのを
魔法でなんとかしようってことですか?!
しかも下位悪魔以上が身に纏っている障壁は威力などがケタ違いなだけで魔法使いが常時纏っているマジックシールド等と同じだから
それもどうにかしようと……考え方がすごすぎる。
「紳士曰く、映画であった。風邪を引かせればよい」
「あぁ~うん、あの映画ボクも好きだけど……それをしちゃうんだ」
宇宙人が地球へとせめて来る映画、敵の船は強力なバリアーに守られていて破壊できない。
それに対してエンジニアが行った対策。風邪を引かせてしまえばよい。
ようするにコンピューターウイルスで敵のシステムをダウンさせるのである。
「あと大佐から指摘のあった航空戦力の無力化………」
「うん、バンカーとか作っても無駄になっちゃうから、なんとかしたい。一応対空兵器やなんかは作っているけど……」
「魔法による対策が可能、既に魔法は試作段階……あとは実験を繰り返すだけ」
ほんの少し表情が変わる、控えめなどや顔である。
そして、じっとこっちを見て膝を付いているホーネット、何かを期待するような目でこっちをみている。
整ったホーネットの顔、透き通るような白い肌。
切なげに揺らぐ瞳が、何かを訴えるように、ねだるようにまっすぐにティアを見つめる。
「ぇっと………うん、よくできました」
撫で撫でと頭を撫でる、さらりとした心地良い感触の蒼い髪が手の隙間を通って流れていく。
「んっ………」
目を細めて心地よいのか、満足気にうなづくホーネット。
ぅーん、びっくりした。キスでもしなきゃいけないのかと思ったよ。
いやいや、役得だよ?!残念だとか考えてないよ?!身体は幼女でも中身は男だよ!!!
綺麗な美人が目の前で視線を併せて、こうねだるような視線で見つめられたら期待してもしょうがないじゃないか!
(キスでもよかったのに………)
なんなんですか、あれは!?
常識とか非常識とかいうモンじゃないですよ?発想も魔術構成の技術力もケタ違いじゃないですか!
むしろ思いついてもできるはずがない!
いえ、出来るはずがないと決め付ける時点で私はその程度という事ですね、意識を変えましょう。
そもそも、家1つ覆うだけの常時展開型結界1つ組むのに、専門家が5人居ても一週間はかかるんですよ!?
まったく天才とか言われていた自分が恥ずかしくなります。
いいえ、負けてはいられません、あの程度造作もなくできるようにならなければ
ティアちゃんを嫁にすることなど笑止ということですね!ならばやってやりますよ!!!
密かに闘志を燃やすエミリオであった。
ある日の工房。
ティアの身体がすっぽりと隠れてしまうほどの巨大な盾を創りだす。
2Mほどはある巨大なタワーシールド、盾の前面には三日月、その下には小さな花が描かれている。
MMOで使用していたギルドエンブレム。
「えぇっと重量倍化と………防御付加とかを…………」
手をかざして魔力を流しこみ、付加していく。仄かな魔力光に包まれる盾。
ゆっくりとその輝きが盾へと吸い込まれていき、付加が完了する。
「ふぅ~~疲れるよ……数多すぎ!」
工房の壁一面に置かれた巨大な盾、盾、盾、盾。
「おーーマスター、すげぇ。漲ってきたーーー!!!」
ドアをあけて入ってくるガボット、壁一面に並ぶ巨大な盾を見て吠える。
「ガボたん、これ持てるの???すんごいよ?!?!」
ガボットの注文した大盾、頑丈なのや属性防御は別にして1つだけ注文がついた。重量を増やして欲しい。
現代の盾は突撃する際に邪魔にならぬように軽量化され、銃弾や暴徒の攻撃を防ぐ為の物。
対してガボットが頼んだのは、単純である。
ファランクスの天敵が弓ならば全部受け止めて進めばいい。
敵が巨大ならば、その突進を防ぎその場にとどまれるだけの重量で持って耐え、筋力で押し返せばいいである。
その為には盾自体の頑丈さはもちろん、重量が必須になってくる。
「大丈夫だ、問題ない(キリッ」
置かれた巨大な盾を左手でつかみ、安々と担ぎ上げるガボット。
あ、ありのままに(以下略
「なんで持てるのさ!!!!!!!」
ティアが絶叫する。
この盾を作る事はできる、だがティア1人では僅かにも動かすことはできない。
作った場所から壁に盾1つ運ぶだけで、軍人が5人で抱えて運ぶほどの重量を持つ盾。
「気合と愛を併せて気愛!」
一言である、あえて言おう脳筋であると。
「これ、ガボたんが持てても部隊の人も持てなきゃ意味ないんだよ?」
「大丈夫だ、問題ない。フル装備で10K走っても問題はない」
……………人間なのでしょうか?いえ、ガボたんは確かに竜人です。
人間に比べチート種族です。部隊の人も獣人さんとかいます、人間にくらべて強いです。
けど、人間もいました。むしろ半数近くは人間だったはず。
それが盾と制作予定の鎧をあわせると500kを超える装備で10k走れるとか………
「うん、きっとこの世界の人間はボクらの世界の人間とは根本的に違うに違いない」
ティアは深く考えるのをやめた。
もう少ししたらシリアス展開に突入予定です、はい。
真面目に設定と原理を考えようとして
知り合いに魔法の力で解決じゃないの?と言われてそうしました。
指摘をもらいましたので補足説明をここでさせていただきます。
この世界一般でいえばチートになりますが
5000規模の魔物が出現した場合守りきれる程度のものです
下位、中位悪魔クラスとの戦闘では、少し頑丈な壁といったところでしょうか。
あと魔神、および悪魔とのスペック差ですが、根本的な問題は解決していません。
特殊魔法に関しても、分体の再生や、死霊など特定の条件でしか攻撃できないものを破壊可能にしたり再生を止めるだけで設定にある本体のほうは傷はつきません。
あくまでその場にいる魔物などの再生を抑止する魔法です。
それと冒頭の数日分の飛んだ時間ですが
微妙な内容であったため、手直ししています。
少しお待ちください。
最後に貴重な感想、ご意見をくださった方ありがとうございます。
今後の参考にさせていただきます。




