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黒の指揮官  作者: 冬城 一夜
異世界での生活
24/33

22話 まるで地獄

山脈の中腹、それほど大きくはない、3Mもない高さ、横幅は大人3人が辛うじて通れるだろうかという坑道の入口。


黒の軍服に身を固めたティアとティアのものより簡易な黒の軍服を着込んだ帝国の軍人が10人。うち3人は覆面を使って顔を隠している。


「それでは、3人一組で通信網の維持を」


ティアがそういうと3人一組の軍人、合計6人が入り口の両脇に控える。


通信の維持をする者1人、護衛が2人。それを交代や万一をにいれて2組で6人。


残る4人の軍人、彼らは魔法も使う事ができる。風が2人、炎が1人、土が1人である。


「ティア様、私の魔法は坑道で使うには不向きですが……?」


炎を使う軍人がそうつげる。コードネームはレッド。赤髪の30歳ぐらいの軍人さん。そのまんまじゃないかと突っ込みたいよっ。


「んっ?炎だけでいいんだよ?」


そう言うと意味が理解できないのかレッドが怪訝そうな顔をする。


「炎の魔法って着弾すると爆発するよね?なぜか?そのほうが威力が出るからだよね?それしなくていいよ」


想像してみてほしい、炎の魔法を想像して燃える火を撃ち出すだけというのを想像するだろうか?


大抵はファイアボール等のように着弾時に爆発し炎を撒き散らす。殺傷力を高める意味でも。


「だから朝に渡した計画通りにやってくれれば大丈夫だよ。ちゃんと読んだよね?」


ティアに見上げられて、しぶしぶうなづくレッド。


「3人は質問は良い?」


「本当に装備無しでよろしいので?」


風がウィングとエメル、土はブラウンというコードネームらしい。なんで本名じゃないんだろう?

(ウィングは覆面3人組の1人である)


エメルが手をあげて聞いてくる。


帝国の軍人も戦闘時には軍服ではなく、きちんと鎧や盾を装備し、武器を持つ。


「いらないよ?こんな狭い所で重い物は必要ないし、いざって時に動けないよ。他には?」


「「ありません」」


「じゃ、説明した通りにお願いね」


それだけ言うと、坑道の中へと先頭に立って入っていく。足場はキチンと踏み固められているが、武器を扱うには高さが微妙に邪魔になる。


たしかに、これは騎士や冒険者もやりにくいだろうなぁ。


(……あんな子供、ましてや女で大丈夫なのか?)


後ろのほうでレッドが他の3人に問いかける。もっともな疑問だ、皇帝の事もあって意識的な差別などは少ないが皇帝は特別。


だから、ハーフエルフとはいえ少女が自分たちの上司というのに、疑問を抱いても仕方がない話である。


(戦闘能力は折り紙付き、訓練場での試合は見ていたからね)


(陛下が承認されたのだからな、問題はあるまいよ)


(ようじょ……つよい)


上からウイング、エメル、そしてブラウンである。若干最後が間違っている気もする。


(しかし、俺はそこ見たわけじゃねぇしな。そもそも炎魔法を爆発させるなってなぁ?)


(無駄口はそこまでだ、くるぜ?)


地響のように坑道が揺れる。前方から壁が迫ってくるのではと思うような程の魔物の大軍。恐らくこれとまともにやり合えば物量で文字通り押しつぶされる。


「んじゃ、いくよ?」


振りかぶって何か球の様な物をティアが投擲する。その数3つ。


「いくぜ?……ファイアアロー」


レッドが片手を上げて突き出す。火炎放射器の炎のように炎が手の先から伸びていく。炎の舌が舐めるように魔物の前面を覆う。


ドムっと鈍い破裂音がして、ティアが放り投げた球体が爆発する。ゴゥっっと一気に前方の坑道が炎に包まれていく。


エメルとウィングが打ち合わせ通りに前方に風の壁を作り出し、そして風を奥へと送り込んでいく。


炎が風に煽られて勢いを増し、風に押されるままに奥へと広がっていく。


「もういっちょ♪」


ティアが再び球体をいくつか投げる。風に乗って魔物の中へと飲み込まれていく。


ドムっと再び鈍い破裂音。炎が一気に膨らみ、奥へと広がっていく。


「な、なんだありゃ?!魔法じゃねぇ?!」


レッドが驚いたように声を漏らす。自分が放った魔法にあのような効果はない、風を使ってもあのような事にはならない。


「んっ~~ちょっと威力足りない?」


ティアが投げたのは、簡単にいえば油脂を圧縮して詰め込んだ金属の球体。


焼夷手榴弾などの複雑な物は加工しきれないし、設計がわからないので作れなかった為だ。


そして、坑道という閉鎖空間。


入り口には風の壁が張られ、新鮮な空気だけが送り込まれる。


坑道にある酸素穴からは熱された空気が吹出す為に空気は入ってこず、送り込まれる新鮮な空気は炎が燃える為に使われる。


結果、坑道の奥は炎と灼熱の空気に包まれ、呼吸に使う酸素など(魔物が必要かはわからないが)が無いという、地獄と化した。


ブラウンは何をしているのか?というと、坑道を支える杭等も燃える為に、魔力によって探知し、地盤も脆いところを補強し、杭を土を硬化させて補強している。


「レッド、火追加!」


「…ぁ、ぁあ!了解」


呆けていた所を呼ばれてびくっと身体を震わせ、呪文を紡ぐ。両手から先ほどと同じように炎だけを出す。


(何をしたんだ?こんな子供が投げたナニカで鉱山1つが火の海とか………)


(これはこれは。さすがティアちゃんってところかな?恐らく投げたのは油かな?けれど油にしてはよく燃えるね)


上からレッド、ウイングである。


「では、このまま維持して。―通信班へ、計画通り進行中。しばらく現状維持の後、目標へ向かう」


「ごめんね?出来ることないからちょっと、休憩するね」


小さな岩の上に腰を駆けて座る。手持ちぶさなのか足をぶらぶらとさせる。


(……どうみても年頃のガキなのに、垣間見える違和感はなんだ?)


(いやぁ、軍服姿のティアちゃんも可愛いなぁ。わざわざ配属してもらってよかった)


(これほどあっさりと片付くとは……)


(ようじょかわいい………)


言うまでもなく、上からレッド、ウイング、エメル、ブラウンである。


魔法すごいよ魔法!ということで、実際はここまで大惨事にはならないとおもうんですけどね。

恐らく油にはファンタジーな加工がされているに違いありません。

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