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愛しいカレ  作者: オムラ
3/3

ケンの場合


全3部作、これにて完結。






私にはとても大切な、カノジョがいる。


只野ただの ケン。

父親と母親、娘と息子の4人家族の只野家で飼われているペットの犬。

犬種はコリーで、生まれて1年と半年が経った。

とても凛々しい顔つきで、さらにその毛並みは艶めいていて美しい。

散歩に出かければ雄雌問わず、追いかけまわされることが多々ある。

嫌いなモノはペットフードで、好きなモノは主人である只野家長女の純子。


と、言うのは仮の姿である。


アルバート・ウィルダー・プランズネット。

グレイウィルダー王国を治めるプランズネット家の現国王の長男、つまり第1皇子で、今年27歳となる。

顔立ちは整っており、シャープな輪郭と、鋭い眼差しは凛々しい。

髪は銀色で、肩にかかる程度の長さ。

身長は180センチと、国の青年の平均身長よりもやや高いぐらいだ。

軍隊の訓練には週に2、3回は参加しているため、身体はそれなりに鍛えられている。



これが私の本来の姿なのだが、今現在厄介なことに巻き込まれ、このような事態になっている。


厄介なこと、というのは王族にありがちな継承権争いである。

とは言っても、元々国全体としても国王である父も私を次の国王として認めていた。

しかし、幼い頃から折り合いの悪かった、血が繋がっているのも恥ずかしい思慮の浅い弟が空気を読まずに、反対してきたのだ。

弟一人ならば大した問題にはならなかったのだが、良からぬことを考えながらも頭の回らない馬鹿げた一部の奴らも仲間となっていたのが、厄介であった。

どうせだから弟を含めた奴らを一掃してしまおうかと、国王含め王宮の上役らと画策していたのだが。


弟は予想の斜め上をいった。

黒魔術に定評があり腕は良いが、見返りに命を望むと噂のある魔術使いと手を組んだのだ。

噂は知っていたが、金を出せば問題ないと根拠のない自信があったらしい。

そして、弟は姿を消した。阿呆である。

弟が消えた後、それに群がっていた奴らも無様な姿を晒す者もいれば、足早に国を去った者もいたらしい。


まあ弟とその他の末路はこれまでとしておいて、私の話に移ろう。


あくどい魔術使いに、私はある術をかけられた。

それは犬に変身させられ、異世界に飛ばされるという術だった。(何故犬なのかはおそらく弟が犬を嫌いだったからだろう)

しかし私はすぐに国に仕える魔術使いによって見つかった。(ちなみにこの魔術使いも弟に依頼を受けたらしい。さらに言うと私の旧友でもある)

犬の姿である私の前に現れた魔術師は言った。


「思った以上に複雑な術が施されているから結構時間かかるんだよねー。そのままの姿だとあっちに帰れないみたいだしー。だから、とりあえずその姿で頑張ってみてー。死ぬなよー。じゃーねー」


か弱い子犬と化してしまった私は、為すすべもなく奴の姿を見送ることとなった。




こちらの世界に来た私は、何故かペットショップにおり、そして純子に飼われることとなる。


始めは、油断していた自分に、そして昔から人を馬鹿にしたような口調の変わらない魔術使いの奴への苛立ち。加えて犬であることの抵抗感で、純子含む只野家の人々には冷たくあたっていた。

しかし彼ら、特に純子は私を家族の一員として大切にしてくれた。私のために、尽くしてくれた。

それでもまだ素直に受け入れられなかった時、一度純子を拒絶した。それにショックを受けたらしい純子は暫く私に近づかなかった。


そこで私は気付いたのだ。


純子との関わりのない日々が、酷く味気ないものであることに。

純子の私に向ける愛が、私に安らぎを与えていたことに。

そして、真っ直ぐに私を見つめる純子に惹かれていることに。

自分の気持ちに素直になった頃から、純子への想いは大きくなっていった。

始めの内は気恥しく、スキンシップの激しい純子に戸惑いを隠せなかったが、自ずと求めるようになった。

出かけるときに、私の一歩後ろをついてくるその奥ゆかしさを愛らしいと思った。


常に、傍に在りたいと思うようになった。


只野家のペットのケンとしてではなく、アルバート・ウィルダー・プランズネットの伴侶として、純子に傍に居て欲しいと。


純子の私に向ける想いはケンへの、ペットへの純粋な愛情だろう。

いきなり本来の姿を見せ、異性として見てくれなどと言ったとき、彼女は戸惑うだろう。

けれど、私は彼女が欲しい。


本来の姿に戻った時、純子のペットへの愛情を異性への愛情へと変えるべく、私の溢れる愛を純子に囁き、私のモノになってもらう。


そう決意してから時は流れ、私の想いは強くなっていった。

そして今日。漸くそれを実行するときがやってきた。




「ケン、ただいま!」


私以外の住人が出払っている家に、純子が帰ってきた。

傍らに立つ旧友でもある魔術使いに、目線をやる。


『私が合図したら、元に戻してくれ』

「ぎょーい」

『……』


玄関から真っ直ぐと私がいつもいるリビングへと小走りで駆けてくる。

その足音さえも愛おしく思えるなんて、末期かもしれない。


「ケン!た……え、誰?マジシャン?」



さあ、覚悟しろよ。愛しい純子。







ありがとうございました。




※ぎょーい=御意

※マジシャン=旧友魔術使い


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