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愛しいカレ  作者: オムラ
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弟視点です






僕には、頭がおかしい姉がいる。







只野ただの ぜん

とある高校の普通科に在籍する男子高校生。

ついこないだ受験生になったばかりではあるが、目指す大学は今のところ合格圏内で、これからもコツコツ勉強に励む予定。

ちなみに好きな教科は化学。

身長は178センチあり、平均より高め。

部活ではサッカーをしており、キャプテンを務めている。

高身長でスポーツ万能、勉強もそれなりに出来るとあって、それなりにモテているが、それは高校までだと思っている。

髪はやや茶色の強い黒。実は結構気に入っている。


何か特殊な能力があるわけでもない僕の唯一の特異点。

それは血の繋がった姉である。


姉は世間一般から見て、どこにでもいる普通の女子大生だろう。

しかし、実態は違う。

姉は、あるモノを愛している。

それが人間の男であるならば何の問題もない。

だが残念なことに姉が愛しているのは人間ではなく、ペットである犬なのだ。


我が家のペットは1年前に、我が家族の一員となった。

その切欠となったのが言わずもがな姉である。

それまでペットを飼いたいなど一言も言ったことのない姉が、突然犬を飼いたいと申し出たのだ。


「世話は全部私がする、費用も全部私が払う。」


そう言った姉の目は今まで見たことのないぐらい真剣で、圧倒された両親と僕はすぐに了承した。

姉は翌日、早速連れてきた。

品種はコリー。イギリス産で元は牧羊犬だが家庭犬でもある。ほっそりとした体型に艶やかな長毛が特徴だ。

両親もあまりの展開の速さに最初は戸惑っていたが、新しい家族の登場に喜びを隠せないようだった。

名前は姉が既に「ケン」と命名しており、誰も異議を唱えることなく決まった。


姉の思いとは裏腹に、ケンは姉に中々懐かなかった。

否、姉どころか家族全員に懐かなかった。

ケンはとても頭の良い犬だった。

ご飯を食べるときは溢さず食べるし、無暗に吠えることもないし、粗相もしない。

ペットとして申し分ない犬であった。

しかし、懐かない。

多くの犬が喜ぶだろうボールなどの遊び道具を与えても、見向きもしない。

次第にケンと僕たち家族の間の溝は深まっていった。

しかし姉はめげなかった。

時間さえあればケンの元へ行き話しかけたり、おやつを与えたりした。

姉は大半の時間とお金をケンに費やしていた。

大学生になったばかりの女とは思えない行動だった。

だが、ケンは懐かなかった。


ある時期、姉がケンに一切近づかなくなった時があった。

姉の担当であった餌やりと散歩を僕に頼んで、姉はケンとの関わりを断った。

初めて僕が餌をやったとき、ケンは訝しげに僕の顔を見たが、それだけであまり気にはしていなかった。

と、いうか気にかけていたら可笑しい。

一週間が経った。

姉はケンと関わらなくなってから、家にいる間のほとんどずっと仏壇の置いてある和室の隅にて体育座りで固まっていた。

流石に一週間以上放置していたらヤバイのでは、と思った僕が和室を覗くとそこには今まででは考えられない光景があった。

なんと、相変わらず体育座りでいる姉の隣に、ケンが寄り添うように座っていたのだ。

しかも姉はケンの手を握っていて、ケンもされるがまま。

頭を撫でようとするだけで避けていたあのケンが。

正に衝撃的な光景であった。


その後、ケンは驚くほど姉に懐いた。

触れるどころか抱きしめられても拒絶をしない。

両親や俺に触れられても、拒絶することがなくなった。

ケンが我が家に来て3カ月目にして漸く、ケンは我が家の一員になった。


しかし、そこから姉の異常さが露見し始める。

否、既に異常だとは思っていたが、それが確信に変わったのである。

大学とアルバイトに行っている時以外は、常にケンに構っている。

アルバイトで稼いだお金も全てケンに注ぎ込んだ。

ケンを抱きしめて「大好き」や「愛してる」と言い、寝るときは自分の布団の中に入れて、四六時中ケンを離さなかった。

一度学校帰りにケンと散歩している姉を見かけたことがあったが、その時の姉は嬉しさを隠しきれずにずっとニヤニヤしていて怪しいことこの上なかった。


姉も姉なのだが、ケンもケンだ。

最初が嘘のように、姉を受け入れている。

姉が長時間抱きついていても、されるがままというのも普通になっている。










そして今日も姉は夕食後の家族の団らんの時間で、ケンを抱きしめて離さない。

なすがままのケンの顔が恍惚としているように見えたのは、きっと目の錯覚だろう。








次で終わりです



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