第六話:引き抜かれた根
#犬神家の腐った系譜 #イヤミス #サイコホラー #閲覧注意 #救いのない結末
食卓の中央に置かれた蝋燭の炎が揺らめき、障子の上に犬神宗一郎の巨大な影を伸ばしている。祖父は硬直したまま直立不動で座っていたが、その老いた眼球だけは、私のあらゆる動きを追って狂おしく彷徨っていた。私を呪おうとしているのだ、分かっている。しかし、その口から漏れ出るのは、高価な絹の着物を汚す、汚濁に満ちた唾液の筋だけだった。
反吐が出るほど、醜い。
「おじい様はこの家の『根』だ」私は裁断包丁の布巻きを解きながら、静かに囁いた。「けれど、その根は腐り果てている。父さんに、母さんに、そして何よりも……朱里に、毒を喰らわせてきた」
私は彼の椅子の背後へと回った。閉ざされた身体から発せられる、異様な熱気を感じる。ラテックスの手袋を嵌めた指先で、彼の首筋に触れる。極めて清潔だ。無菌状態と言ってもいい。
「おじい様は絹を愛していたよね? 絹は人間の第二の皮膚だと。……だから今夜、おじい様に『永遠の衣』を授けてあげるよ」
私は『清掃解剖』を開始した。
悲鳴はない。ただ、薄く繊細な「シュルリ」という音だけが響いた。研ぎ澄まされた包丁が、彼の頚部の皮膚を滑らかに裂いていく。一度に動脈を断つような真似はしない。冷たい鋼が己が肉を剥離していく感触を、一インチごとに味わわせたかったのだ。血が滲み出し、彼が染料として愛用していた草木染めのような、深い赤に染まっていく。
私は、彼が朱里のために用意していた純白の絹布を取った。丁寧に、丹念に、剥き出しになった首にその布を巻き付けていく。溢れ出る血を吸わせ、布が完璧な真紅へと変貌するのを待った。彼の誇り高き繊維の中に、その罪を直接「縫い」込んでいくのだ。
部屋の隅で目を閉じている朱里に顔を向けた。「朱里、目を開けてはいけないよ。お兄ちゃんが今、この苦い根を切り落としているところだ。君が清らかな土の上で育てるようにね」
恐怖に凍てつく母、静塚の目の前で、私は祖父の喉の一部――数十周年もの間、支配と凌辱のために使われてきた器官――を摘出した。それを、母の前にある磁器の皿の上に置く。
「母さん、見て。これが、母さんが毎朝消し去ろうとしていた『汚れ』だよ。ようやく身体の外に出せた。……どうだい、この家が少しずつ清らかになっていくのを感じないかい?」
静塚の瞳が激しく震え、硬直した頬を涙が伝い落ちた。自分の実父が、芸術的な手際で解体されていく様を彼女は見つめていた。
宗一郎は、私が最後の「縫い合わせ」を終えた時、ついに呼吸を停止した。絹糸で上唇と下唇を縫い合わされた彼は、もう二度と誰の純潔も貪ることはできない。今や彼は、己が工房に陳列された、失敗作の剥製のように見えた。
一匹の怪物が、土へと還った。
私は頬に飛び散った血を、アルコール臭のするウェットティッシュで拭った。「あと二つだ」
過度の恐怖から失禁し始めた父、賢治を見据えながら、私は低く呟いた。
「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」




