1話 失ったもの得たもの
朝、どこかすっきりとして目が覚めた。お母様が亡くなって昨日はあんなに悲しかったのに今日は不思議とそこまで悲しくはなかった。
朝食を食べに食堂に行こう。いつも通り顔を洗い、いつも通りの廊下を通る。でもなにかがおかしい。いつも通りのことをしているのになにか違和感を感じる。
この違和感はなんなんだろう。
そんなことを考えているうちに食堂に着いてしまった。食堂にはいつも通り父が席に着いていた。毎朝家族全員で朝食を食べるのがこの家の日課だ。
「お前に話がある。」
いつもにこにこしているお父様がいつもとは違う、感情をなくしたかのような生気を無くした顔で言った。
おかしい。いつもお父様は、私のことをスミレと呼ぶ。お前なんて呼んだことない。なにか嫌な予感がする。
「お前はこの家から出ていけ。」
その言葉は私が今まで生きてきた中でどの言葉よりも冷たく、鋭かった。嘘だろう。お父様はお母様を失ってしまったショックで混乱しているんだ。大丈夫、お父様は私を、娘を愛している。そう自分に言い聞かせて口を開く。
「お父様、嘘でしょう?笑出ていけなんて冗談言わないでよ笑」
「嘘でも冗談でもない。何回も言わせるな。お前はこの家から出ていけ。もう金輪際この家には戻ってくるな。わかったならはやく出ていけ。」
でも私は娘だ。この家に住む権利はある。私ってお父様の娘だよね?そうだよね?お父様に確認するしかなかった。私は少し震えた声で聞いた。
「でも私お父様の娘じゃん!なんで娘なのに出て行かないといけないの?」
お願い私を娘だと言って、愛してると言って抱きしめて。そんな願いは清々しいほど呆気なく散ってしまった。
「お前を娘と思ったことなど一度もない。」
本当に言ってるの?お父様。私はもう一度聞く勇気が出てこなかった。だってこれでもう一度聞いて同じ答えがもう一度返ってきたら、どれだけ私は惨めになるのだろう。壊れるのだろう。
「いつも通り」の私に「いつも通り」の食堂、でもそこには「いつも通り」の父親はいない。きっとこれが朝から感じていた違和感なんだ。母親だけでなく父親までも失ってしまった気持ちだ。一度失ってしまったものはもう元には戻らない。目に涙が滲んできた。はやく、はやく、お父様に、私を娘だとは思ってくれないお父様に、この涙が見られる前にどこか行かなきゃ。
私は急いで荷物をまとめて生まれ育った家、生まれ育った国であるロスト王国を出た。
行くところなんてない。頭ではそう思うのに、驚くことに足は自然と動くものだ。
私がやってきた国は、エルサ王国。エルサ王国はロスト王国と領土は同じくらいだが、ロスト国よりも発展している。大通りにはたくさんのお店が並んでいる。なにが売ってあるんだろう。私は少し色々なお店を見て回ることにした。
少し見て回るつもりだったのに気がつけばもう日が沈みかけている。今日は宿屋にでも泊まればいいか。生きていくためのお金は働いて稼げばいい。明日から仕事を探そう。そんなことを考えながら歩いていたから、人とぶつかってしまった。運悪くぶつかってしまった人が男性だったため、体がよろけて転んでしまった。
「いたっ、、」
思わず声が漏れた。どうやら手を捻ってしまったらしい。
「すみません!大丈夫ですか?」
頭上から少し低い男性の声が聞こえてくる。差し伸べられた手を捻った手とは逆の方の手で掴んで立ち上がる。
「すみません。だ、大丈夫です。」
と私は言いながら男性の方を向いた。
そこには今まで見た中で1番綺麗で1番凛々しく、それでいて1番優しい顔をした青年がいた。




