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時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「アミカナの朝」

アンドロイドヒロイン・アミカナの金曜日の朝:何て言ったの

作者: 刹那メシ
掲載日:2025/12/11

これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本編の第9話「削られる日常」と第10話「余剰次元の牙」の間の出来事です。未来から来た女性タイムトラベラーであるアミカナは、自身がアンドロイドであることを隠して、大学生の志音と行動を共にしています。本編では描き切れなかった、互いに惹かれていく二人の心の触れ合いやすれ違いを描いています。本編未読でも、少しは楽しんで頂ける……ことを願っています。

※タイトルを「主義」から「何て言ったの」に変更しました。

挿絵(By みてみん)


<金曜日>

 志音は、海際の道のカーブに車を止めて外に出た。大きく伸びをする。体の節々が痛い。車の中での一夜は、かなり体に堪える経験だった。シートが硬くて、あまり眠れていない。

 海側の低い堤防に寄りかかって、アミカナはそこから広がる景色を見ていた。細かく波立つ海面が、眩いばかりに朝日を反射して、寝不足の彼にはめまいを感じさせるほどだった。この目の眩む明るさが、全てをキャンセルしてくれるような気がした。

 いや、気がするだけだ。昨日の軍と球体との戦闘で、志音の街には甚大な被害が出ていた。街の全域に避難命令が出され、攻撃は今日も継続するらしい。渋滞が解消したとしても、もう街には帰れない。もはや、喜べる要素は一つもなかった。だが、煌めく海を横目に車を走らせていた二人は、その誘惑に負け、暫し休憩を取ることにした。この景色に、一瞬だけ現実を忘れたいと思ったのかも知れない。そこに寝不足も加わって、何か奇妙なテンションになっている気もしていた。

「あ! 蟹!」

 そう言うと、彼女は片手をついて、軽やかに堤防を飛び越えた。美しいフォームだった。堤防の下にはごく小さな砂浜がある。彼女はそこに飛び降りていた。あくびをすると、彼も堤防へと近づいた。飛び越えることはせず、少し離れたところにある階段から砂浜へと降りる。

 しゃがみ込んだアミカナは、砂の上の穴の中に右手の人差し指を突っ込んでいた。彼はそれを上から覗き込んだ。彼女は黙ったまま、ゆっくりと人差し指を持ち上げる。その先には、指を挟んだ蟹がぶら下がっていた。

「え?! 挟まれてるじゃん!」

「……うん……」

「いや、うん、じゃなくて。痛くないの?」

 彼女は微笑んだ。

「痛いよ。痛いけど、生きてるって実感する。この子も……私も……」

 やがて、彼女が手を下ろすと、攻撃を止めた蟹は元の巣穴へと逃げ込んだ。

「……私にも巣穴があればね……」

 彼女は呟いた。右手の人差し指を伸ばしたまま、左手でその手首を握る。動かない彼女に、彼は声をかけた。

「どうした?」

「……結構痛かった……指がへこんじゃった……」

 彼女はしわがれた声で呻くように言った。彼は苦笑した。

「かっこつけるから……」

「……そうね……」

 反論されるかと思ったが、彼女は呟いただけだった。

 ふと、何かを見つけて、彼女はしゃがんだまま前に飛び跳ねた。砂の中から何かを拾う。しげしげと眺めた彼女は、やがて立ち上がって志音の下へと歩み寄った。

「これ、何?」

 彼女は、緑色に透き通ったハート形の石のようなものを持っていた。

「ああ、それはシーグラス。棄てられたガラス瓶の欠片なんかが、波で揉まれて、丸くなったヤツさ」

「これ、ガラスなんだ……綺麗……」

 驚いた彼女は、それを掌の上で転がした。緑のシーグラスは、完全に透き通っている訳ではなく、全体がうっすらと白くくすんでいる。輪郭に鋭利な部分はなく、全体的に緩やかな曲線で形作られていた。それは、長年の風化プロセスが生んだ、言わば自然の芸術品だった。

「アミカナの世界にはないの?」

 彼が聞くと、彼女は苦笑した。

「そうね。海にガラスは捨てないから……」

 もっともな話だった。遥か未来では、もっと環境に配慮した社会が実現されているのだろう。

「……でも、ゴミだったものが、こんなに綺麗になるなんて……」

 一度海に目をやり、彼女は再びシーグラスに目を落とした。

「千の波に揉まれて美しく、か……私もそうなるといいけど……」

 シーグラスを指で弄びながら、彼女は物憂げな表情を浮かべた。

「……アミカナは、もう綺麗だろ……」

 浜辺の開放感からか、彼は柄にもないことを呟いた。

「え? 何? 聞こえなかった。何て言ったの?」

 我に返った彼女は彼へと近寄る。

「……いや、別に……」

「ねえねえ、何て言ったの?」

 顔をそむける彼に、彼女はしつこく聞く。照れ隠しに、彼は芝居がかったセリフを口にした。

「俺は、二度は言わない主義なの!」

「……ふ~ん……素敵な主義ね……」

 一旦、つまらなそうに口を尖らせた彼女は、シーグラスを太陽にかざすと、やがて嬉しそうに微笑んだ。頬に緑色の影が落ちる。

 きっと聞こえてたな……彼は呟いた。

 一度息をついて、志音は忘却の時間に別れを告げた。遠くを見据える。

「これからどうする?」

「……そうね……」

 察した彼女はシーグラスを握りしめた。同じように遠くを見る。

「拠点がいるわ。誰にも邪魔されず、あなたが歌を思い出し、私が解読するための拠点」

「わかった。僕に考えがある。ちょっと付き合ってくれる?」

 覚悟を決めたような彼の言葉に、彼女は驚いて彼を見た。

「え、何? かっこいいじゃん」

 彼女に言われて、彼はふざけてみせた。

「え? 聞こえなかった。何て言った?」

「かっこいいね!」

 彼女は大声で叫んだ。はぐらかされると思っていた志音は面食らった。咄嗟にうまい返しができず、「ああ」と曖昧な返事をしながら頭を掻く。

 彼女は微笑んだ。

「私は、思ったことは口にする主義なの!」

 そういうと、彼女は海の方を振り返った。

「……言える事ならね……」

 その呟きは、波音に搔き消されて、志音の耳には届かなかった。

お読み頂きましてありがとうございます。やはり、夜シリーズの雰囲気が少し出てしまいますね。なお、本日2025年12月11日に、本編と番外編のトータルPVが1000に達しました。初投稿から約一ヶ月でここまで来ることができました。読者の皆様には感謝しかありません。思うがままに書き散らしたものを、ここまで読んで頂きまして、本当にありがとうございます。これからもお付き合い頂けると幸いです。

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