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第26話 第二王子の正体




 

 最初に違和感を抱いたのは、ほんの些細なことだった。  

 

 伏せっているパトリック第一王子の面会を許された───その知らせを聞いた時だ。

 調査機関に身内がいるとはいえ、グレイは表向きただの学生に過ぎない。

 しかも王太子の身に危険が及ぶかもしれない状況で、外部の人間を易々と通すなど普通はありえないだろう。

 

 当時は「パトリック殿下の無実を証明するために調査協力を許したのかもしれない」と思い込んだが、後になって考え直せば王族に対してあまりにも危機感が無さすぎる。


(それに、そういうことは本来上層部がやることであって、学園に籍を置くただの同級生が許されることじゃない)

 

 けれどグレイの面会は認められたのだ。

 ───つまり、そう認めても構わないと思えるだけの、近しい間柄であり身分なのかもしれない。


 もちろん彼がヴィンセント第二王子だという理由は他にもある。

 私は息を整え、彼に順を追って説明した。

 

「まず、ヴィンセント第二王子の件です。殿下は学園に入学せず、外交公務で諸外国を回っている………そう聞いていました。

 おそらく国内で無用な派閥争いを起こさせないための措置でしょう。ですが調べてみると、殿下が公の場に姿を現したのは二年前で止まっていました」

 

 彼が公務をしていると聞く国の中に、同盟国であるヘザーディア皇国の名が挙げられる。

 けれど私がヘザーディア皇国に留学していた一年間、外交で動いているらしい彼の噂を聞いたことは一度もなかった。

 

 それに、私がそういった情勢に疎いだけかもしれないと思い、先日ガラハッド会長に手紙で確かめたところ「ここ数年、王子の姿を見ていない」と返ってきたのだ。

 

 彼はヴェラリス聖教の枢機卿の子息であり、高位貴族だ。

 そんな彼が把握していないわけない。

 

「それからキングズリー辺境伯についても調べさせていただきました」


 彼の表情がわずかに揺れる。

 

「今後キングズリー辺境伯から金銭的な援助を受ける上で、正式な手続きをもって調査したんです」

 

 城勤めの役人である兄にキングズリー辺境伯の親類を洗い出してもらったのだ。

 

 本来他貴族の情報を外部に漏らすのは違反とされているが、同盟・契約関係を結ぶ場合に限り把握することができる。

 そのためキングズリー辺境伯と金銭的な契約する貴族の身内が情報を得ても何の問題はなかった。

 

「キングズリー辺境伯について調べてみたところ、確かにグレイという子息はいらっしゃいました。けれどその者はキングズリー辺境伯とすでに縁を切っており、数年前に市井の女性と駆け落ちをしたと聞きました」

 

 だからキングズリー辺境伯の子息が縁切りされていることも公にはされずにいたのだろう。

 

 その上で、本当はいないはずの───王都から遠く離れた領地にいる辺境伯の『グレイ』という青年の存在に誰も疑問に思わない。

 そもそもその事実を知らないのだから。

 

「それに調査機関に身内がいるというのも気になりました。これはあくまで憶測ですが、貴方の話す『調査機関』とはおそらく秘密警察のような情報統制がされた組織ではないでしょうか?

 今回の事件で他の貴族に周知されないよう調査していたんです。警察や憲兵のように大々的に動くことはできないので、そういった組織があると推測しましたが………」

 

 それを考えた時、ふと思ったのだ。

 そういった諜報機関に家族や親類が所属しても良いのだろうかと。

 

「秘密保持の観点から、組織に血縁が多いと裏切りや情報流出のリスクが上がります。また派閥や権力集中を防ぐために、なるべく縁者を登用することはないのかなと」

 

 もちろん今回の件が例外で学生の彼に依頼されたという見方もできる。

 けれど彼が本来いないはずのキングズリー辺境伯の子息であることを思うと、反対にそんな怪しい者を例外として調査に協力させるだろうかと考えてしまうのだ。

 

 それに───

 

「貴方のその瞳です。キングズリー辺境伯のもとに、過去に王族が嫁いだ記録はありませんでした」

 

 また、こうやって見ると改めて似ていると思う。

 絵姿で見たことのある先代国王と、目の前の彼は驚くほどよく似ていた。

 

 そしてその全てを繋げた時、彼がヴィンセント第二王子ではないかという結論に達したのだ。

 

「以上のことから、貴方がヴィンセント第二殿下ではないかと推理したんです」


 重たい沈黙が落ちる。

 互いの息づく微かな音だけが響く。

 やがて彼はふっと笑い、ゆるく首を振った。

 

「推理ごっこは嫌いじゃない。だが前提が間違ってる」

「…………前提?」

「仮に俺が第二王子だとしよう」

 

 声は低く、抑制されているのに不思議な威圧感があった。

 

「まず、パトリック殿下の病床に面会できるはずがないだろう。王位継承権を争う政敵をわざわざ呼び込むか?たとえ国王陛下が認めても本人が拒むだろう」

 

 確かにその理屈は正しい。

 けれど、私は首を横に振った。

 

「……───最初(・・)から、パトリック殿下の継承順位は低かったんじゃないですか?」

 

 彼の瞳が射抜くように細められる。


「何を言っている」

「表向きはパトリック殿下が第一王位継承者と決まっております。けれど本当の次期王位継承者はヴィンセント殿下なのではないでしょうか」

 

 声が震えていないか心配だった。

 でも、この疑念を飲み込むわけにはいかなかった。

 

 グレイ───いや、ヴィンセント王子はじっと私を見据えたまま黙り込む。

 そしてしばらくして、彼はようやく口を開いた。

 

「……………君は、本当に厄介な娘だな」

 

 それが肯定なのか否定なのか、判別できない。

 ただ彼の金色の瞳に私は思わず息を呑んだ。  





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