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第21話 とある悪役令嬢の独白




 悪役令嬢小説《悪役令嬢は優雅に微笑む》は、書籍化、アニメ化等のメディア展開された人気コンテンツだ。


 主人公のセレスティアが、その有能さによって腹黒男爵令嬢と脳内お花畑な第一王子の婚約破棄をガツンと断罪する物語で。

 そんな主人公『セレスティア・リュベル』に転生した時は「やった!」と素直に思った。

 

 乙女ゲームの悪役令嬢と違って、この世界は悪役令嬢が腹黒男爵令嬢や色ボケ王子を断罪(ざまぁ)する世界。


 馬鹿な第一王子パトリックと腹黒男爵令嬢マリーの企みなんてとっくに知っているから、何の障害もなかった。

 普通に学園を過ごして学年末に行われるパーティーの婚約破棄騒動で、原作通り冤罪の数々を証言すれば私は断罪されることはないのだから。


 でも、この世界で生きていくのは思った以上に大変で。

 人生2回目とはいえ勉強は難しいし、貴族の令嬢として(しかも将来の王妃として)他の令嬢達を取り纏めたりするのは、元々人見知りな私には大変面倒だった。

 

 そしてそんな私を陰ながら慰めてくれたのが、馬鹿な婚約者であるはずの第一王子のパトリックだった。


 原作ではマリーの演技に騙される色ボケ王子として書かれていたけれど、実際の生のパトリック王子はめちゃくちゃ格好良かったし、性格も悪くない。


 ちょっと夢見がちなところはあるけれど優しい性格で「第一王子と第二王子の逆ハールートってないのかなあ」なんて呑気に思ったりもした。

 第二王子との婚約は原作では匂わす程度だったけれど………悪役令嬢ものの、テンプレ的に繰り上がり式で私と婚約するのは確定だろう。


 だから今世の父親であるリュベル侯爵当主からパトリック王子の廃嫡を望んでいることを聞いて「あ、原作の強制力ってあるんだ」と勿体なく思ったものだった。


『殿下はヘザーディア皇国の聖教会に酷く傾倒している。もし彼が王位に就いた場合、この国の歴史はどうなる?聖教会の怪僧共を国政に招き入れるかもしれないのだぞ。

 ───セレスティア。パトリック殿下の弱みは何かないのか?』

 

 そんな父に私はこう告げた。

 

『でしたら聖教会の女神ヴェラリスとよく似た乙女と引き合わせるのが良いでしょう。彼は女神を深く敬愛していますので、すぐに惹かれるはずです。

 そういえば………噂によると昔、ギャザウェル男爵当主がその女神に似た使用人に手を出したことがあるそうですよ。もしかしたら私達と歳の近い隠し子がいるかもしれませんね』

 

 そして原作通りマリー・ギャザウェルが用意され、学園に転入してきたものの、実際にやって来た彼女は全く原作と違っていた。


 淡いピンク髪にワンピース型の改造制服。

 そして原作通り「私をよく思わない先生や女の子達から制服のことで苛められるんです………」と噓泣きして、パトリック王子の同情をひくはずなのだが………

 

『え、この改造制服ですか?もちろんギャザウェル男爵に対する当てつけですよ。あの人、私を無理矢理引き取ったんです。

 ならこっちも困らせてやろうかなって。貴族の方々の間でギャザウェル男爵家の教育はどうなっているんだ?と思わせてやろうかと』


 そんなことをいけしゃあしゃあと宣った。


 いや、マリーの性格ってこんな感じじゃなかったでしょ。

 絶対に転生者でしょ。

 

 ───けれどそうでもないらしく、原作のマリーと違って裏表もなく、男子に媚びることもなく、一匹狼を貫く彼女。


 そんな彼女が気になったのかパトリック王子も声をかけるがすげなくする。

 そしてそれに王子は物珍しそうに近付き、更に気にかけた。


 しかし二人が結ばれる様子は一向にない。

 

 そんなマリーが私を気遣ってパトリック王子と距離を取ろうとする姿に、何故か無性に腹立たしく思ってしまった。


 だってこの世界のマリーは、本当に魅力的なのだ。

 女の嫌なところを煮詰めたような性格でもなく、人の婚約者を取ろうとしない───ごく普通の少女。


 そんな彼女に惹かれ、仲良くしようとするものの、すげなくされるパトリック王子。


 私の中にある劣等感がじくじくと胸を蝕んだ。

 マリーの性格がもっと悪かったら良かったのに、何だか私が二人の障壁みたいで、居た堪れなくて。


 私は何重も仮面をかぶっているのに、素のままの状態で愛されるマリーや呑気な王子をぐちゃぐちゃにしてやりたくなってしまった。


 だから父に《魅了の魔石》を渡された時、安堵したのだ。


 これでやっと原作通りになる。

 私は原作通りあいつらを破滅させることができる。


 だから私はマリーに言った。

 何かと気に掛けるパトリック殿下を避けないで、と。

 

 そして私は原作には描写されていない学園主催の舞踏会にマリーを誘った。

 ドレスが無いと言って断ろうとする彼女に着なくなったドレスを貸してやれば、気恥しげに喜ばれた。


 ───舞踏会当日。

 着飾ったマリーはパトリック王子でもなく、エスコート役として招待したアーサーでもなく、一番に私にドレス姿を見せに来た。

 

『………どうですか?いや、ガラじゃないっていうのは分かりますけど、その、セレスティア様のドレスで良くはなってるんじゃないかな、と………』

 

 薄い水色のドレスを纏ったマリーはお世辞抜きで可愛らしかった。

 まるで童話のシンデレラみたいで。

 私は彼女に魔法をかけた魔法使いだなと、これから何をするのかも忘れて、そう苦笑したのを覚えている。


 そしてドレスは大事に扱うと言って、針で穴が開くからと自前のショールにブローチを付けていた。


(そのブローチをリュベル侯爵家で用意したものと付け変える)


 パヴィリオンの中庭の生垣には穴があり、そこから外で待機していた侍女に《魅了の魔石》でできたブローチを受け取る。


 マリーのいつも身に付けている、ガーネットのブローチと全く同じ見た目。

 

 そしてマリーを中庭に呼び寄せ「寒い」と言えば、お人好しな彼女は案の定私にショールをかけた。

 あとは彼女が視線を外した隙に付け替えれば良い。

 するとその時、マリーが口を開く。

 

『セレスティア様、ありがとうございます』

 

 夜空を見上げながらマリーがぽちぽつと続ける。

 

『私、この学園に無理矢理入学させられて、それが嫌で仕方なかったんですけど、セレスティア様みたいな優しい人がいてくれて本当に嬉しかったんです。───私、今この学園がちょっと好きなんですよ』

 

 彼女の言葉にちくりと胸が痛む。


 けれどそれをに気付かないふりをして、空を見上げるマリーの後ろで私はブローチを付け替えた。  


 

 ───その日から、彼女の地獄は始まった。






 

 

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