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第14話 騎士団長子息の疑惑



 王立騎士団団長の子息及びホークウッド伯爵家の嫡男───アーサー・ホークウッド。

 去年の学園舞踏会でマリーのエスコート役をした、容疑者の一人。


 固まる私に彼が不思議そうに首を傾げる。

 そんなアーサーに私は内心慌てていた。

 

(どうしよう。いきなり会うだなんて思ってなかった。グレイも中々会えないっていうアーサーに会うだなんて。

 去年の舞踏会の話とか聞いた方が良いのかな?でもここでいきなり聞いても「何だコイツ」って思われるだけだよね?)

 

 そう内心焦りまくっていると、何故か今度はアーサーが私の顔をまじまじと見つめだした。

 

 え、何だろう。

 不思議そうに思っていると、アーサーはハッとしたような顔をする。

 

「まさか君はあの(・・)エニス・ハボット伯爵令嬢か………!?」

「え、ええ、エニス・ハボットと申しますが………」


 あの(・・)って………どの…………?


 何だか不穏そうなアーサーの言葉に冷や汗を流していると、彼は続けた。

 

「セレスティア様からマリー・ギャザウェルの『お目付け役』を賜り、その行き過ぎた指導から令嬢の命だと言っても過言ではない髪を切った───あのエニス・ハボット嬢か?」

「誤解です。あれはマリーが勝手に切ったんです。私のせいではありません」

 

 アーサーの怪訝そうな「騎士科の指導でもそこまでのことはしないぞ」という若干引いた目に慌てて訂正する。

 

 そう言えばアーサーはきょとんとした後「そうなのか?」と意外にも素直に引き下がってくれた。

 そして彼が口を開く。

 

「誤った情報を鵜呑みにして申し訳ない。俺はアーサー・ホークウッド。下位クラスの3年だ」


 そんな彼に私も改めて「エニス・ハボットです。同じく3年です」と自己紹介をする。

 するとアーサーは眉を下げて苦笑した。

 

「いや、申し訳ない。俺は昔から騙されやすく、すぐに突っ走ってしまうんだ。去年色々あって流石に直そうとしているんだが………やはり、そう簡単には直らないものなんだな」


 どこか気まずげに話す彼に、鈍感な私でもマリーのことについて言っているのだなと察する。

 そしてそこでふと気付いてしまった。


 あれ、この流れ、もしかして去年の学園舞踏会について聞き出すチャンスなのでは………?

 

(グレイに確認せず勝手に聞き込んで良いのかな。でもアーサーが中々捕まらなくて困ってそうだったし………むしろ「今度一緒にお茶しませんか?」って誘う!?いや、その方が怪しいかも………)

 

 グレイよりも大きな上背なのに捨てられた子犬のようにしょげるアーサーに「どうしよう」とまたも焦る。


「……………」


 ───けれど、それ以前に。

 こんなにも落ち込んでいる人をほっとくわけにはいかないだろう。

 

「……………………あの、こんな私ですが、一応マリーの『お目付け役』として彼女のサポートをしております。マリーについて何か思うところがあれば…………差し支えなければ、お話をお聞きしましょうか?」

 

 そう尋ねてみれば、アーサーはどこかほっとした様子で息を吐いた。



 

 ・

 ・

 ・



 

 ところで騎士養成所の方へは行かなくても良いのかと尋ねれば、今日は改修工事があるため一時的に授業はなく各々で訓練するようにと言われているらしい。


 そのため訓練場の一角を剣術部から借りて、鍛錬していたそうだ。

 よく見れば剣術部以外にも逞しい体躯の男子生徒達(おそらく騎士養成所にも通っている人達)も鍛えていたため「なるほど」と納得する。


 そして訓練場の脇にある小休憩用のベンチに腰を下ろし、私はアーサーから話を聞いていた。

 

「───マリーのことで気になることがある、ですか?」


 そう言って切り出した彼は、そのままぽつりと続けた。

 

「ああ、去年の俺は今思い返してもおかしかった。去年の夏くらいから彼女のことが気になって仕方がなくなって………。

 あんなにも美しく可憐なのだから、きっと自分は彼女に惚れていたんだろうが───明らかに迷惑そうにする彼女に『きっと本心ではないだろう』と暴走して付き纏ってしまったんだ」


 隣で項垂れるアーサーに目を丸くする。

 《魅了の魔石》によってマリーに惚れた男子生徒達の、その後の対応は大きく分けて二つある。

 

 まず一つ目は《魅了の魔石》によって精神汚染がされていることを知らないものだから、マリーが陰で何かしているに違いないと怪しむ者。

 そして2つ目は自分がマリーに惚れていたことを認めず「片田舎の男爵令嬢に本気になるわけないだろう。ちょっと遊んだだけだ」と誤魔化す者だ。


 彼のようにマリーに対して罪悪感を抱くような者はほとんどいない。

 

「口で非難されることもあったが、彼女に頬を殴られたこともあった。他の生徒達はマリー・ギャザウェルが何らかの呪いをかけたに違いないと思っているが………そこまで嫌がっていた彼女が、異性を篭絡するような呪いをかけるだろうか」


 大抵の生徒がマリーを『加害者』と決めつける学園で、こういった考えをするアーサーに素直に驚く。

 

 ここは異世界だから日本とは価値観も違うし、ものの考え方も違う。

 おまけにこの学園には貴族達が通っているのだ。


 もちろん貴族という立場から仕方のないことではあるが───プライドの高い生徒達はまず自分の正当性を貫き通そうとする。

 その中で、アーサーは平民出の男爵令嬢の非難することなく疑おうとしている。

 

(…………アーサーって、こんなキャラだったっけ)

 

 原作においてアーサー・ホークウッドがマリーに篭絡されたのは、セレスティアを筆頭に高位貴族から不当に差別を受ける彼女に同情したのがきっかけである。


 もちろんそれはアーサーにそう思わせようとしたマリーの策略なのだけれど、去年のことがあり、反省し───自分なりに疑おうとする姿勢に一読者として感動してしまった。

 

 物語が終わった後の世界で、そこに生きている人の成長に不思議と眩く思えてしまう。


 ───でも、彼も容疑者であることには変わりないのだ。

 

「…………………ご自身の様子が変わったのは去年の夏頃なんですよね?確かその頃、学園主催の舞踏会が行われたとお聞きしたんですが、その時のマリーのエスコート役をホークウッド様が?」

「ああ、そうだが………。その舞踏会で初めてギャザウェル嬢に会ったが、その時はまあ、華奢な令嬢だなと思うくらいしか………」

「何かおかしなことはありませんでしたか?」

「いや、特には。だが、巡回していた衛兵の一人が親父の部下で、ギャザウェル嬢との仲を茶化されたくらいしか無いな」

 

 きょとんとした顔でそう言ってのけるアーサーに嘘をついている様子はなかった。

 彼が原作通りの人柄であるのなら、アーサー・ホークウッドは人を信じすぎるきらいのある正直者(・・・)

 

「……………彼女と二人きりになったタイミングはありますか?」

「無いぞ。常に周りに人がいたしな」

 

 だからといって、容疑者である彼のことを全面的に信用することはできなかった。


「……………ホークウッド様は、マリーが去年、本当にあのような騒動を起こしたのか気になるんですよね」

「ああ」

「私にはまだ分かりかねますが…………私も『お目付け役』として彼女を出来る限り見極めたいと思います」

 

 見極めたい、とか。


 なんて偉そうで、上から目線なんだろうと思う。

 けれど、マリーが本当はどんな子であるのか知りたいと思っているのは事実であった。


 するとその時、アーサーはしばらく黙り込んだ後、パッと顔を上げた。

 

「そうだよな。俺は今まで確証が持てず、同じクラスだというのにギャザウェル嬢を避けていた。けれどいつまでもこうしてい埒が開かない。───ハボット嬢、良かったら俺と一緒にギャザウェル嬢に聞きにいかないか!?」

「それは今は止めておいた方が良いかと………」

「何でだ!?」


 いや、何でだって。

 そりゃ、今のマリーのもとに去年めろめろに篭絡されていたアーサーがまとわり付けば周りはどう思うだろうか。


 あの女、また男を味方にして何か企んでるよと思われて、せっかく収まりつつあるいじめが激化する可能性がある。

 マリーのそばにいるお目付け役として、それだけは止めてほしかった。


 同じクラスで気にはなるだろうけど、事件が解決するまでは周囲を刺激しない方が良いだろう。


 調査の件は伏せてやんわりと伝えれば、アーサーは「確かにそれはそうだな。申し訳ない」と大人しくなった。

 

 そんな彼に素直な人だなと思いつつ、グレイに今日のことを何と話そうかと思案した。





 


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