第11話 事件のおさらい
───グレイ・キングズリーから監視を受けている。
そんな相談をしてきたマリーに「実は私と彼は付き合っている」と言えば、目を見開いて驚かれた。
「だから私のことを監視…………じゃなくて睨んでいたのね!エニスを取られたからって!」
素直に勘違いするマリーに居た堪れなくなるが、私は黙って頷く。
これでマリーが彼を怪しむことはないし、調査で二人きりになったとしても周囲にそう誤魔化せば自然に見えるだろう。
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マリーが宿舎へ帰った放課後。
人気のない旧校舎の、比較的綺麗に整えられた空き教室にて。
私はグレイから今回の事件の全容について話を聞いていた。
「───マリー・ギャザウェルの証言と他生徒達の証言を照らし合わせ、男子生徒達の様子が変わり始めたのは、8月に行われた学園主催の舞踏会の、翌日からであることが判明した」
教壇を背に話すグレイの言葉を静かに聞く。
「その舞踏会では、呪物の手荷物検査が衛兵によって行われていたらしい。だから《魅了の魔石》を持ち込むのは難しいのだが………何らかの方法で舞踏会で付け替えらえれた可能性が高い」
もちろんそれはマリーが冤罪であったら、の話だ。
むしろ舞踏会でマリーのブローチが《魅了の魔石》のブローチと付け替わることができない証明がされてしまったら、彼女が真犯人という可能性が高まる。
念のため「舞踏会前にマリーが何らかの方法で《魅了の魔石》を手にしていた可能性も調査しているんですよね?」と確認すれば、グレイは当たり前だと言った様子で頷いた。
そして彼は続ける。
「これまでギャザウェル嬢はブローチを肌身離さず衣服に付けていたのだが、この時だけはショールに付けていたそうだ。
ドレスが無いということでセレスティア嬢から借りており、それをブローチの針で穴をあけることはできないと、自前のショールに飾ったらしい」
去年学園にいなかったため分からないが、話を聞いている限るセレスティアとマリーの仲が良いことが伺えた。
原作とは違う関係性にまたも首を傾げてしまう。
「主な容疑者は、舞踏会で彼女のエスコート役をしたアーサー・ホークウッド。そしてパトリック殿下とセレスティア・リュベル嬢だ」
パトリック王子やセレスティアによって舞踏会に招待されたマリーは、最初はドレスの他にエスコート役もいないと言って断ったみたいだが、婚約者や恋人の影がないアーサー・ホークウッドを王子によって紹介されたらしい。
王立騎士団団長の子息、ホークウッド伯爵家の長子──アーサー・ホークウッド。
原作でも登場していたキャラクターで、燃えるような赤髪の青年だ。
「エスコートで常に横にいたアーサーに、彼と踊る際にショールが邪魔になるからと預かったパトリック王子。
そして舞踏会の中庭でセレスティアと二人きりになった時、ギャザウェル嬢は彼女にショールをかけたそうだ」
錚々たる面々に流石にマリーみたいに自白剤は盛れないなと苦笑する。
「もちろん他にも怪しい奴はいる。だが、この三人には王家の血が混じっており、《魅了の魔石》を地下の間から入手することができるだろう。またギャザウェル嬢のブローチを付け替えるチャンスもある」
「ちなみに手荷物検査の衛兵や会場にいた給仕達の調査は………」
「それは調査機関がやっている。俺達は学園の生徒だけの調査で問題ない」
その言葉に「そうだよね」と納得する。
そこまでの広範囲になれば、流石に私達だけじゃ手に余るだろう。
しかしそこでふと思う。
あれ、原作の小説に初夏の舞踏会だなんてイベントあったっけ………?
この『悪役令嬢は優雅に微笑む』は元々Webサイトに投稿されていた作品だ。
そこで書籍やアニメなどの媒体に展開されていくのだが………私はWeb版しか読んでいないため、もしかしたら書籍やアニメの番外編やスピンオフでそういった展開があったのかもしれない。
そう思うとセレスティアとマリーが仲が良かったり、マリーの性格が違うのは、この世界が様々な媒体によってマルチバース化されたIFの世界からかもしれないと、ぼんやりと思った。
(実際にどうなのかは分からないけど………こんなことになるならもっとチェックしておくべきだったなあ)
書籍も読んでおくべきだったと内心項垂れる。
そして気を取り直してグレイに言う。
「まずはセレスティア様からは何かお話を聞きたいですよね」
休学中のパトリックはもちろんのこと。
アーサー・ホークウッドは王立学園とは別に騎士養成所にもに籍を置いているため忙しい。
なので話を聞くのは、同じクラスのセレスティアからが妥当だろう。
問題は彼女の周りにお友達の令嬢がたくさんいて、気軽に声をかけられないという点だ。
するとグレイが口を開く。
「セレスティア嬢については問題ない。すでに場は整えられている」
「へ?」
そしてグレイの制服の懐から一通の封筒が取り出された。
───それは、茶会の招待状だった。
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