66.仲間入り
「お、おいお前ら!」
彼女たちに魅入っていたシェイラは父親の怒鳴り声にはっとする。
「その見た目……聖女だろ!?なんだ大人に向かってそんななめた口を聞きやがって!?これだからちょっと力のあるガキは常識知らずの生意気なガキになっちまうんだよ!」
彼女たちは怯えるわけもなくきょとんとしているが、背後にいた神官のこめかみがピクピクと動いている。
「見てみろシェイラ!こんなところで生活したらこんなやつらと同じクソ人間になってしまうぞ!誇り高き貴族の血を引く気高き人間性が汚れてしまうぞ!」
いや、どうしてそうなる。多少口が悪いのがなんだというのか。というかこの男のどこに気高き人間性があるのか。腐った人間性の誤りではないのか。
というよりも、ちらりと彼らを見る。
聖女たちはぷるぷると震え、笑いを堪えており、
神官は般若の形相をしていた。
バカバカしい言動に素直に笑い、貶されれば激怒してくれる人もいる。なんて……なんて羨ましいんだろう。
ちらりと父親を見る。なんで自分はこんなやつに執着していたんだろう。血の繋がりがなんだというのか。
注目する先が変わり緩まる父親の手の拘束。
するりと手を抜くと、離れる手と手。
「シェイラ!!!」
駆け出そうとするもののすぐに掴まれる腕。その拘束する手は骨が軋むほどに強いもので痛みに顔が歪む。
しかし、その目はあるものをはっきりと捉えて見開かれた。
「こ、こら!アリーシャ様!リリア様!」
神官の焦る声。
リリアが先に走り出し止まったかと思うとバレボールのレシーバーのように構えて身を屈める。
アリーシャが猛ダッシュし飛び上がり、リリアの手に足を乗せる。
リリアが踏ん張りそおれと手を振り上げる。
それと同時にぽぉーんときれいに飛ぶアリーシャ。
「おい、シェイラ聞いているのか!?」
あ、聞いていなかった。父親が何やら罵声を浴びせていたらしいが耳に入っていなかった。
「おい!何を笑ってるんだ!?」
気づかぬうちに笑っていたよう。
そりゃあ笑うでしょう?―――――
アリーシャが目的地――父親の顔面に到着し、曲げられた膝が父親の顔にヒットする。
―――――大嫌いな男の顔に強烈な一撃が入れば…ねぇ。
倒れる父親。そして腕を掴まれたままのシェイラも尻もちをつく。
「ああ!やったぁ!」
歓喜のやったぁではなく、やっちまったのやったぁの声を上げる神官。
おおーっとこちらはお褒めの拍手を送る人々。
「こんのロリコンがあ!気安く乙女の手に触るんじゃないわよ!」
「趣味趣向は自由だけど無理矢理はダメだよぉ!ロリコンおじさん!」
ロ、ロリコン……まだ言っている。
「プッ……」
自分の中では逆らえない偉大な相手もこの子達からしたらただのロリコンに成り果てるとは……思わず吹き出していた。
「?」
吹き出すシェイラの身体が何か温かいものに覆われた。シェイラは気づく。父親の手が離れていることに。父親が体格の良い男たちに押さえつけられていることに。
「大丈夫かい!?」
「怖かっただろう?」
「まったく!なんて父親なんだろうね」
「助けるのが遅くなって悪かったねぇ……。でも私たちもあんたが助けを求めないから手出しできなかったんだよ?貴族様に逆らうにはそれなりの理由がないと罰せられてしまうからねぇ」
女性たちから優しく抱擁されていることに気づいシェイラ。――あったかい。人に心配されるのも、温もりもこんなに温かいものだとは知らなかった。
気づけば涙が目から流れていた。
怖かったねーと背中をさすられ、次第に落ち着いていったシェイラは神官からお説教を食らう2人の聖女を見た。それに気づいた2人と視線が絡まる。
口を開こうとしたが、2人の聖女が1人の美しい聖女からゲンコツを喰らい視線を外したことで、閉口した。
~~~~~~~~~~
「「先程はお父君に失礼なことをして申し訳ありませんでした」」
「……え?」
手続きをし聖女村に入ったシェイラ。歓談スペースで詳しい説明がされるのを待っていると2人の美しい少女が現れ頭を下げた。
「お父様だとは思わなくて……美少女を狙うロリコンやろ……ジジ……んんっ!ロリコンさんだと思っちゃって」
「嫌がる美少女を愉しむロリコンさんだと思っちゃって」
そう言う2人の頭に再び現れた聖女からゴツンっとゲンコツが落とされる。
「おばば様、痛いっ!」
「おばば様、酷いっ!」
「お前たちは反省しているのかい!?」
眦を釣り上げるのは今は亡きノアだった。その後、何やらぎゃあぎゃあと言い争っていた3人だったが、はとシェイラがいたことに気づくと再び頭を下げた。
「「本当にごめんなさい」」
シェイラはふと疑問に思った。なんでこの子達は謝っているのだろう。あんなクズの為に。嫌がるシェイラを助けてくれたのに。
「どうして?どうしてあなたたちが謝るの?あなたたちは何も悪いことはしてないじゃない」
その疑問は自ずと口から出ていた。
「なんでって……言われても」
「ねぇ」
2人は困ったように顔を見合わせた後、少し戸惑いながら口を開く。
「いや、だって父親蹴られたら嫌じゃない?」
「クズだろうが、ロリコンだろうがやっぱりいい気分はしないかなぁと思ってぇ。今まで一緒にいたわけでしょぉ?それなりに家族の情とかあるかなぁと思ってぇ」
いや、別に父親はロリコンではないが。
「これからあなたここで一緒に暮らすんでしょ?初対面で父親蹴っちゃって印象悪いかもだけど……やっぱり仲良くしたいじゃん?」
「だから少しでもぉ印象良くしとこぉと思ってぇ」
少し照れくさそうに笑う2人になぜか目頭が熱くなる。ノアが2人にロリコンやめろと説教を食らってるうちに慌てて目の熱を冷ます。
「あの父……ううん、あいつは父親なんかじゃないの。血の繋がりはあるけどこれからは他人なの。だからあなたたちが気にすることなんて何もないから」
そう言うとあからさまにホッとする2人に口元が綻ぶのを感じた。
「あ!でも……」
次はあからさまに顔をぎくりと変える2人にニッと笑う。
「私も蹴りを入れてやりたかったわ!」
その言葉にきょとんとした後、
2人、いや3人は声を上げて笑った。




