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5.茶番①

 冷静になったジャックは己の言動を反省した。確かにちょっと聖女というものに幻想を抱いていたのは事実。彼女たちがどんな性格であれ仕事は真面目にこなしていることも事実。


 再度目の前に現れ謝罪する彼に三聖女たちは嫌悪感をあらわにすることもなく、猫を被るでもなく、恐らく平常運転と思われる態度でジャックに対応してくれた。


 あんたの先輩たちも最初はあんな感じだったわよ、と。大泣きしながら走り去ってった方もいたわよ?と。神官は皆同類だよぉ、と。とても楽しそうに笑う彼女たち。あのような態度を取られるのは珍しいことでもないよう。


 そして言われる不穏な言葉。


『どうせあんたもすぐに慣れるわよ』


 いやいや、慣れないだろうと思ったが。


 というよりも慣れたくない。


 クスクスと笑うと三聖女は言った。


『『『きっと私たちと同類だもん』』』


 と。





~~~~~~~~~~




 慣れるわけなし、と思ったものの――


 目の前で繰り広げられるキャットファイトも、男性同士が睦み合う本を買わされることも読まされることも、彼女たちのドレスの着替えを手伝わされることも、荷物持ちさせられることも慣れてしまった私はいかがなものなのだろう。


 そう思いながらケンカを止めようと2人の聖女の間に入っていくジャックから少々離れた場所で三聖女の1人が歓喜の悲鳴を上げていた。


「いよっしゃー!終わったー!」


 両手を上に挙げて体を伸ばしながら叫ぶ美女。隣の隣の国に穢れ祓いと結婚式の立ち会い、その他諸々のお願いを終えて無事に戻ってきたアリーシャだ。


「あ、アリーシャ。お帰り~」


「お疲れ様~」


 アリーシャを迎えるのは大の仲良しシェイラとリリアだ。今彼女たちは聖女村にあるカフェにいる。昔聖女をしていたおばさ……お姉様が作るショートケーキが絶品の店だ。


 大きめの窓がつけられ暖かい日差しが降り注ぐ彼女たちお気に入りのお話場の一つである。


「本当にお疲れちゃんだよ。顔も心も。ホント浮かべたくもない聖女スマイルを何時間浮かべてたんだか」


 椅子に腰掛けながらぶつぶつと文句を垂れるアリーシャに2人はクスクスと笑う。


「あらあら、性悪で高慢ちきな公爵令嬢と婚約していた王様と王様の婚約者からの嫌がらせに怯まず、権力者たちにも怯まずに王を愛し続けて家臣たちの心まで揺り動かし、真実の愛で王と結ばれた男爵家出身の侍女との結婚の立ち会いでしょ?」


「そうよ。ごちゃごちゃと長いわよね」


「悪者は退治されて正義、いや……愛の勝利だってぇ?めちゃくちゃお祭り騒ぎなんでしょぉ?悪は滅び、愛万歳の美しい物語の締めくくりの結婚式に聖女様の登場。今あの国で1番憧れの下剋上物語。女性の夢満載の結婚式を見られるなんて羨ましいぃ」


 ニヤニヤとニヤつきながらアリーシャを見る2人に彼女は呆れたように肩を竦める。


「んなわけないでしょ」


「「知ってるー」」


 あはははと笑う2人を恨めしそうに軽く睨んだアリーシャの元に注文していたショコラと紅茶が届く。それらを口にするアリーシャにリリアは顔を近づける。


「ねぇ、ねぇ、アリーシャ~~~~~。詳しいこと教えてよぉ」


「えー守秘義務があるじゃない」


「いやだわアリーシャ。そんなの私たちにはあってないようなものじゃない。あなただって話したくてウズウズしてるくせに」


「あ、バレバレ?」


 うんうんと頷く2人。


「だってぇ」


「公爵令嬢との結婚式のはずが、お相手変更」


「幸せな結婚の裏にぃ」


「何か有るに決まっているわよね」


 見事なコンビネーションで言葉を交互に紡ぐリリアとシェイラ。アリーシャはこほん、と軽く咳払いをするとにやりと笑い口を開く。


「あなたたちも知っての通り私の今回の任務は隣国の隣国の王と婚約者である公爵令嬢との結婚式の立ち会いだったはずなんだけど――」



 そうもともとはそのつもりで行ったのだ。



~~~~~~~~~~



 私は今目の前で何を見せられているのだろうか。


 隣国の隣国バッカス国王宮内にて最上級の来賓室にアリーシャはお供の神官たちと共にいた。目の前には王であるライル・バッカスと婚約者のルカミア・ルー公爵令嬢そしてその父である公爵とその他がいた。それだけ聞けば普通の光景だと思う。


 が、違う。


 ライルは平手打ちをされ床に倒れ込むルカミアを憎々しげに睨みつけている。ライルの背には格好も態度もブリブリとした令嬢がしがみついている。


「ルカミア!お前俺の愛しいブリリアンを手に掛けようとしただろう!嫌がらせだけならまだしも、人の命をなんだと思っているんだ!?公爵令嬢だろうと男爵家出身の侍女だろうと命の価値は同じなんだぞ!」


 そう言い終えた王は決まったとばかりに鼻を膨らませ頬を紅潮させている。セリフから考えればかっこいいと思うところかもしれないが、不思議なことに不快な印象である。


 失礼ながら顔が中の上あたりだからかもしれない。いや、なんか超かっこいい俺が超絶かっこいいこと言ってやって、ヤバいだろ的な空気が漏れ出ているからかもしれない。


 それにしても王の側にいる娘の名前がブリリアン。見た目も態度もブリブリしていて更に名前までとは……。思わずブリブリ様と呼んでしまいそうだから気をつけねば。


「そう思いませんか!?アリーシャ聖女様!」


 いや、私関係ないんだけど。というかそもそも全然話が見えてこない。こちらにお入りくださいと言われて入室した途端美しい令嬢が王に頬を張られて倒れた場面だったのだから。


 とはいうものの、無視はできない。


「真に人の命は大切にするべきでございますね。あと女性の顔とか、女性の顔とか、女性の顔とか!……大丈夫でございますかルー公爵令嬢?ああ!美しいお顔が赤らんで……お労しい」


 すっと彼女のそばに近寄り膝をつき、そっと赤らんだ頬に手を添えると瞬く間に赤みが消えた。


 おおっ、と軽いざわめきの声。

 

 波打つ長い黒髪と涙が浮かぶ黒い瞳を持つ美しき女性―ルカミアは目を見開くとありがとうございますと呟いた。その言葉を受け浮かべたアリーシャの笑みに周囲の者は見惚れ、時間が一瞬止まった。





「んんっ!」



 動き出したのはわざとらしい咳払いが聞こえたから。




 そちらに視線が集まる。




 ピンク色の瞳を持ち、同じくピンク色の髪の毛をでっかいピンク色のリボンでツインテールにし、リボンだらけの目が痛い程のド派手なショッキングピンク色のドレスを着た女性――ブリブリ……ではなくブリリアンがそこにいた。


 





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