3.聖女村に到着
『運の良い神官だなぁ』
『エリートね』
『でも、なんか』
『『『なぁ』』』
『『『ねぇ』』』
『『『地味だな』』』
『『『平凡ね~』』』
地味で平凡で悪かったな。
キィーと音を立て扉が開き、中から薄い桜色の髪の毛と瞳の少女、いや若い聖女が出てきた。ジャックに集まっていた視線が彼女に移る。集まる視線をものともせず穏やかな笑みを浮かべた彼女はジャックの前に進み出る。
「案内を仰せつかりました新人聖女のリヤと申します。聖女村支部に赴任されるジャック殿ですね?どうぞお入りください」
返事をしようとしたが緊張から声が出ず、頷いた後彼女に続いて村に足を踏み入れる。村に入るには色々と手続きやらなんちゃらが必要だが事前に済ませてある。村から弾かれることなく受け入れられた現実に密かに感動するジャック。
「あーあ、入っちゃったぁ」
「聖女様自らお出迎えされるなんてお優しいわぁ」
「相変わらず扉が開いても中は見えないわねぇ」
そんな声が開かれた扉の方から聞こえてくるが、ジャックは目の前の光景に息を呑みながら立ち竦む。
本来扉が開こうが塀をよじ登ろうが中に入ることも中を見ることもできない。なぜならここには強力な結界装置や聖女たちによる特殊な結界が張られているから。
この中に足を踏み入れることが許されるのは聖女と神官長と聖女村支部に勤める神官のみ。ジャックはその秘密の園に足を踏み入れることができたのだ。
異動が決まり、この日を心待ちにした日々。
胸躍る瞬間。
のはずがジャックは自分が今見ている光景が信じられなくてパチパチと何度も瞬きを繰り返す。だが何度瞬きをしようともそれは変わらない。
――街だ。
村っていうより、街だ。ドレスの店、アクセサリーの店、カフェ、美味しそうな香りが漂って来る飲食店、本屋、雑貨屋等々。地面には石畳が敷き詰められている。
いや、あの、なんていうか……おしゃれで素敵な街並みですね。なんか思っていたのと違う。もっとこう村という感じで皆で畑を耕したり、力を合わせて生活をしている感じと言うか…もっと質素な感じかと…………。
「な……なんか女性が好みそうな感じです…………ね?」
「私達聖女は皆女性ですからね。オシャレ大好き、可愛いもの大好き、美しいもの大好き、高価な美しいアクセサリー大好きです」
「はあ……?」
そうだ、聖女だって女性だ。
いや――――――
だが、聖女だぞ?
ああ、きっと目で楽しむだけだ。
うん、普通に素敵なドレスを着ていらっしゃる。
あちらの宝石店では煌めくルビーの取り合いをしていらっしゃる。
うん、うん、うん…………
「って、聖女ともあろうものが不謹慎でしょう!?」
思わず叫んだジャックに案内をしていたリヤは目をパチクリさせる。
「え…と…不謹慎…………ですか?」
「ええ!だってあなたたちは聖女なんですよ!?装いは質素ながらも清潔感のあるものを身に着け、アクセサリーなどの贅沢などしません!食べ物だって困窮している民がいるのですから質素な食事をするものでしょう!?」
「そ、そんなこと言われても……」
ジャックの剣幕に涙目になるリヤ。近くにいた聖女たちが足を踏み出そうとして止めた。類稀な美貌を持つ3人の女性が近づいてくるのに気づいたからだ。
「リヤ、お疲れ様。ありがとう」
「アリーシャ先輩、あの人変ですよ!」
微笑みながらうんうんと頷く美女アリーシャ。
「リヤ、疲れた時は美味しいものを食べるに限るわよ」
「わぁ!シェイラ先輩、ありがとうございます」
ちゃりんと小銭をリヤの手に乗せる美女シェイラ。
「リヤ、面倒な役割をさせてごめんねぇ」
「平等にくじ引きで決めたじゃないですか、リリア先輩!はっ!気をつけてください!神官の服着てますけど、この人野蛮人ですよ!」
リヤの頭をなでなでする美女リリア。
や、野蛮人……なんて失礼な。
そんなことを思っている間にリヤが小走りで去っていく。
ジャックは目の前に居並ぶ3人の聖女――いや、三聖女に視線を向ける。
1人目はアリーシャ――腰まで届く真っ直ぐな銀色の髪を持つ月の女神のような女性である。真っ白な透けるような肌に髪の毛と同じ銀色の瞳、すっと高い鼻筋に薄いピンク色の唇。見た目だけでなく、聖女としての力はズバ抜けていると言われている。
2人目はシェイラ――柔らかく緩やかなウェーブを描く長い薄めの金色の髪とやや垂れ目気味の金色の瞳を持つ女性。色気のある体付きながらもその空気感からか清らかさしか感じない。聖女としての力はアリーシャと同等と言われている。
3人目はリリア――2人に比べ少し短めの淡い水色の髪の毛とクリッとした瞳を持つ可愛らしい女性だ。身長は低く幼い顔立ちも相まって非常に愛らしく妖精のよう。彼女もまた2人と同等の聖女の力を持つと言われている。
結婚式でも見たが本当に美しい。彼女たちは白いローブを身に着け、薄化粧にノーアクセサリーだ。自然な美しさの彼女たちにほっとする。
彼女たちはやはり聖女の中の聖女である。
…………はっ!もしかして!ジャックの頭は閃いた。
「私、本日からこちらに異動になりましたジャックと申します!聖女村がこのような俗世に塗れた場所になっていることを気づかずにいた事、神官として謝罪致します。聖女の鏡のような三聖女様におかれましてはきっと心苦しく思われていらっしゃったことでしょう!すぐに上の者に掛け合い、皆様の心の安寧を取り戻すべく努めますので、ご安心くださいね!」
早口で捲し立ててしまったが大丈夫だっただろうか?
誰がこんなふうにしたかはわからないが、こんな堕落した場所で不安だったことだろう。どれだけの我慢をしてきただろうか。でもこれからは安心をしてください。私があなたたちを救います!
もしかして3人の誰かと恋……なんちゃって。
少々やましい気持ちを抱えながらも誇らしげに胸を張り三聖女にちらりと視線を向ける。
輝かんばかりの笑顔か?
涙ぐんで喜んでいるだろうか?
いずれにしても美しい光景がそこにあるだろう。
……………………………………
え、と…………………………
そこにあったのは
冷ややかで白けた3つの麗しい顔だった。