Chapter 6 :断れない――けれど、断った誘い
「俺だけが成功したんだ。」
リオはそう言いながら、鋭い目でレンを見つめた。その声には重みと確信があった。
「俺は世界最強の男――ただの称号じゃない。
俺はこれまでに化学薬品を二本飲み、生き残った。
だが、代償は大きかった…体はボロボロだ。」
彼は一瞬だけ目を閉じ、苦い記憶を振り払うように息をついた。
「もちろん、誰にも言っていない。
真似して死ぬバカが出てくるからな。
でもお前は…違う。生き延びた。そこが重要なんだ。」
リオは真剣な眼差しで言葉を続けた。
「だから――特別な提案をしよう。」
静かに息を整え、口を開く。
「ファイターズに入れ。最上位のランクでな。」
数秒の沈黙――そして。
「断る。」
レンは感情のない声で、即答した。ためらいすらなかった。
リオの目がわずかに開かれる。予想外の反応だった。
(なに…?)
レンの心の声が響く。
(命を危険に晒すつもりはもうない。
ファイターになる夢は捨てた。
今はただ、生きること。それだけでいい。
妹のために――それだけだ。)
リオは引き下がらなかった。信じられないほどの金額が書かれた紙幣を出して見せた。
「じゃあ、これはどうだ?」
レンは一瞥すらせずに即答する。
「…断ると言った。」
リオは一瞬、言葉を失った。
「なぜだ?」と、苛立ち混じりの声で問いかける。
レンは顔を背けたまま、冷たく言った。
「関係ないだろ。」
そして、まだ回復していない体を引きずるように立ち上がり、後ろを振り返ることなくその場を後にした。
部屋に残されたのは、世界最強の男――リオ。
彼は呆然と立ち尽くしていた。