Chapter 16 : 影に潜む追跡
彼は笑っていた。
だが、その目は――決して笑っていなかった。
“レン”。
階級最下位の新人ファイターに、なぜか注がれる上層部の視線。
そして、その不可解な行動に気づいた一人の男――“カイ”。
静かに、鋭く、影のように。
カイはその真相を暴くため、監視を開始する。
だが、レンもまた――疑念と不安に飲まれていた。
“誰かが、俺を見ている…?”
追う者と追われる者。
交錯する視線の先にあるのは、真実か、それとも罠か。
緊張が張り詰める夜、追跡劇が静かに始まる――。
ファイターズ本部の五階、カイは低い塀の上に座っていた。そこからは中央広場を見下ろすことができ、彼の青黒い髪が風に揺れていた。腕を頭の後ろに組み、リラックスした姿勢を取っていたが、その鋭い目はある一点を見つめていた。
(レン…誰と話していた?)
彼はレンがファイターズ1の本部から出てくるのを目撃し、さらにその後、リオと何かを囁き合う姿を見てしまった。
(ファイターズ5の新人が、あんな簡単にリオに近づけるはずがない…あり得ない。)
カイは静かにその場を降り、評価ファイルが保管されている秘密の資料室へと向かった。
数分後、普段は立ち入り禁止の部屋に忍び込んだカイは、レンのファイルを見つけ、素早く中身を確認した。
「…戦闘経験なし。元は化学工場の作業員。入隊して数日…それなのにリオと直接話してるだと?」
眉をひそめたカイは、勢いよくファイルを閉じた。
(何かがおかしい。レンが何かを隠しているのか、それとも…リオの方が異常なのか?)
ファイターズ本部の最上階。ここは関係者以外立ち入り禁止の区域。
その屋上に立つカイは、コンクリートの縁にもたれながら、再び遠くを見つめていた。
(レン…どこへ向かっている?)
レンが正門から出て、自宅方面へと歩いていく姿を捉え、カイは静かに微笑んだ。
「お前の秘密、今から暴いてやるよ…レン。」
そう呟いたカイは、まるで訓練された暗殺者のように軽やかに屋上から降り、建物の壁や配管を使って静かに地上へと着地した。
そのまま、レンの後を影のように追い始めた。
一方その頃、レンは足取りも重く歩きながら、深く考え込んでいた。
(リオがどうしてあそこまで知っていた?あの誘拐犯の声まで…あれがただの勘だとは思えない。まさか…リオが犯人?あるいは、関係者…?)
不安と疑念が彼の心を締めつけていた。
だが、レンは知らなかった。
その背後に、一つの影が静かに付きまとっていることを。
街中の人混みの中で一瞬だけ安心を覚えたものの、カイの追跡は完璧だった。
音もなく、姿もなく…まるで幽霊のように。
やがて住宅街に近づくにつれて、家々はまばらになり、街灯も減っていった。
あたりは静寂に包まれ、空気がぴたりと止まる。
その時だった。
レンは背後から近づく足音に気づいた。
立ち止まり、前を見据える。
(今の足音…誰かが後ろにいる?誘拐犯…か?)
彼は一度だけ唾を飲み込むと、何事もなかったように前へ進み、わざと細い路地に足を踏み入れた。
(ここに入れば、もし襲ってきても反撃できる。)
しかし——
カイはその罠にかからなかった。
レンの急な停止で彼に気づかれたと判断し、路地へは入らずにルートを変更する。
「…フッ、そんな単純な罠に引っかかるほどバカじゃないさ、レン。お前の考えは読みやすい。」
別ルートを通って前方へと進んだカイ。
その直後、レンが陰から飛び出すと、数メートル先に歩いている人影が目に入った。
青い髪。落ち着いた歩き方。どこか見覚えのある背中。
レンの体が固まる。
(この髪…どこかで…いや、まさか…俺をつけてたのは…)
心臓が高鳴り、混乱と緊張が交錯する。
(まさか、あいつが…犯人!?)
“見ている”のは、どちらなのか。
レンか、カイか――それとも、別の誰かか。
追跡の果てに待つのは、真実か裏切りか。
この夜の静けさが、嵐の始まりであることに
彼らはまだ、気づいていない。
次回――
「揺れる確信、交わる疑念」
物語は、より深く、より危険な領域へと進む。
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