レバニラ
子どもの時は食べられなかったけど、大人になって食べられるようになったものがある人は結構いるのではないか。
佐和子にとってそれはレバーだった。
豚も鳥も駄目だった。
血生臭くてぱさぱさしたところが嫌だった。
でも、いつの間にか食べられるようになった。
最初は焼き鳥のレバーで独特な風味になれて、一個しか食べられなかったのが二個三個と増えていき平気になった。豚のほうは家を出てからだった。
大学にあがって独り暮らし。
たまに手をぬきたいときに近くのスーパーで総菜を買った。
その中の一つがレバニラだった。安くて量があったのが理由だった。食べてからなぜ今まで私はレバニラを食べてこなかったのだろうと後悔した。
ぷりぷりのレバーに油をすってシナシナになったニラ。
中華料理ではサッと油で高温で火を通すから動物の内臓も臭くなくなるらしい、と以前ラジオで聞いた。それは本当なのかもしれないと思いながらガツガツ食べた。
その内、自分で作るようになった。
手のひらサイズのレバーの塊を買って、血抜きや臭みを抑えるために牛乳につけたり、片栗粉でよく洗ったりして、ごま油で炒めた。IHコンロだったから油もの用の高音にセットして。
でも、やっぱりスーパーで食べたりお店で食べるものには負けてしまった。触感はいいのだが、味の複雑さが劣るような気がした。
四谷にある中華屋さんのレバニラに舌が慣れてしまったのはいけないのかもしれない。
その店はボロボロでいつでも座れる店なのだが、油炒めや煮込みがとても美味しい。レバニラもスーパーのものとは比べ物にならないほど美味い。
しかし、佐和子にはそれ以上に気になっているレバニラがあった。
それは母が作ったレバニラだった。
佐和子の両親は食べ物の好き嫌いで子どもを叱らない人たちだった。曰く、他にも食べるものがあるのだから、という理由らしい。だから、夕飯がレバニラのときは佐和子が食べられるように餃子とか他のおかずも並んでいた。
そして佐和子がレバニラを食べられるようになったのは家を出てから。母親の手作りの味は知らなかった。帰省するときにリクエストしてもいいと思うが、なんとなく言い出せなかった。
次に帰るときは思い切ってお願いしてみようか。
毎回、そう思いながら休暇を待っている。