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24 ショコラオランジュは甘くて苦い


 食堂で注文したバスケットを待ちながら、瞳花は類に言った。


「大丈夫なんですか? ずっと二人きりにしておいて」


 少し怒ったような口調だ。


「大丈夫でしょう? あいつの存在自体が番犬のようなものなんだから」

「そうじゃなくて。彼だって男の子ですから」


 中学生にそう言われて類は少しうろたえた。

 志騎にキスしたことを思いだしたからだ。

 そういえばあいつは女の子からキスされてもほとんど動じていなかった。

 あの様子だと絶対に初めてじゃない。


 まさか、あの状態で朔良に手を出すとか、そんなことは……。


「先輩、なに赤くなってるんですか?」


 今日の瞳花は鋭い。


「いやいや。確かにちょっと手が早そうだけど、あれでも英雄。仕事とプライベートは……」


 どうかな? 少し、自信がなかった。


「彼とキスしたんですって?」


 ギクっとして類はあからさまに狼狽する。


「本当のようですね。その指輪も彼からですか?」

「あ、これはこういう……」


 瞳花の目の前に猫花火を出す。

 瞳花はポカンとして類を仰いだ。


「これって、衝撃緩衝魔法ですか? 巧いものですね」

「うん。これで朔良が怪我しないように支えてくれって」

「あらやだ。そう言われると少し辛いものがありますわね?」


 類は首をすくめた。


「うーん。まあねー……。でもさ、あいつがめっちゃ大切にしてる朔良のこと、私に頼んでくれたわけじゃん? それってやっぱ、嬉しいわけよ」

「確かに、その気持ちもわかります。複雑ですね」


 瞳花はバリスタのお姉さんに、ホイップショコラオランジュを注文した。


「だけど、傷だらけで朔良護りに帰ってきたとこ見ると、それもまた打ちのめされるっていうか……」

「先輩。絆っていう字は糸を半分ずつって書くんですよ。彼らの糸の反対側は、別の人が握ることはできないんじゃないでしょうか? きっとその糸は赤いんでしょうし」


 そんなことは瞳花に言われるまでもなく類にもわかっていた。

 海藤亮太との戦いのとき、朔良の視た最悪の未来を志騎が打ち壊したのを目の当たりにしたら嫌でも思い知ってしまう。


「副官を亡くされたのですね」

「うん。ちょっとだけ会ったことあるけど、イイヤツっぽかった」

「ご存じですか? あの方の副官は全て就任半年以内に亡くなっているのですよ」


「半年?」


「どんな最前線よりも危険な場所、だそうです。まあ、圧倒的な戦力差なのでしょうね……。魔王とか、死神とか言われてるのは、そういういことなのかもしれません」

「瞳花……」


 黒髪の少女は、パッと笑顔になった。


「なんて……。それでも彼は素敵ですけどね」


 それは全面的に同意だ。


「で、彼のドリンクも、それなの?」


 類は、できあがったホイップクリームのたっぷり乗ったショコラオランジュを見た。


「はい。もちろんです」


 瞳花は自信たっぷりに言い切った。


「いっしょに食べれば何だって美味しいんですから。悔しいですけど、あれはラブラブです」

「あんた、地味に嫌がらせ体質だよね?」


「そんなことはありません。疲れた時には甘いもの。ココアには怪我の治癒を促進させる作用があることが医学的に証明されています」

「そうかもしれないけど……」

「ちゃっちゃと持って行って下さい。存在感アピールしないと、入る隙間なくなっちゃいますよ?」


 瞳花はバスケットを重ねて類の手に手渡す。

 強引に追い立てられて、類はバスケットを抱えて部屋へ戻った。



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