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第7話 夢という名の現実

 あらたが眠りにつき、夢の中のコテージを訪れる直後、現実では午前二時を回った頃だった。何が起きているのか、真実を確かめなければいけないと思う一方で、昨晩の凄惨な光景が瞼に焼き付き、なかなか寝付けないでいた。それでも最終的には寝不足になっていたことが手伝い、何とか眠りにつくことが出来た。


「皆さん、お早いですね」


 改がコテージから外に出るとすでに、雪緒ゆきお茉莉まつり、フェルナン、灰塚はいづかの四名が神妙な面持ちでテーブルを囲んでいた。菖蒲あやめ桃園ももぞのの姿は見えない。


「おはようございます、薄墨うすずみさん。私達も今さっき集まったばかりですよ。昨日の出来事は衝撃的でしたから」


 雪緒が気丈に微笑み、自分の隣に座るように改を手招きした。改が席につくと、雪緒は普段よりも改との距離を詰める。不安を感じているのか肩が微かに震えていた。


「薄墨くん。君は自分が眠りについたのが何時頃だったか覚えているか?」


 席につくなり、灰塚から確信を突くような言葉が投げかけられた。聞きたいことは山ほどあるが、今は流れに身を任せた方が良いだろうと判断し、改は素直に質問に答えた。


「午前二時を回っていたと思います」

「そうか。ならばここで一度締め切りとした方が良さそうだな」


 灰塚の言葉に、改意外の全員が頷いた。


「締め切りというのは?」


「昨日あのような出来事があったばかりだ。恐ろしくて今晩は眠らずに過ごす者がいてもおかしくはない。実際、紫さんと桃園さんはここにはいないようだ。全員を待っていては話しが進まないし、誰かもう一人到着するか、ある程度時間が経過するかしたら、話し合いを始めようということで意見がまとまっていた」


「その様子だと、ここにいる全員が現実にも存在していると考えてよろしいんですね?」


 その答えはすでに全員の共通認識となっており、一斉に頷く。

 改にとっては、この夢が現実の延長線上であると確信した瞬間だった。


「あまりにも現実離れした状況だが、そう判断する他ない。少なくともここにいる全員が、現実世界で朱雀すざく錬治れんじの訃報を耳にしている」

「フェルナンさんもすでに状況を把握しているんですね」


 前回の朱雀の遺体発見時、唯一不在だったフェルナン・ルージュに改が尋ねた。


「うん。僕の場合はみんなと逆で、現実で朱雀さんの訃報を聞いてから夢を見る形になったけどね。到着した時点で灰塚さんから状況を聞き、現場の様子も確認済みだ。認識は皆と共有しているよ」


 フェルナンはあまり顔色が優れない。直前に朱雀の遺体を確認したのでそれも当然だ。事前情報があったとはいえ、夢から飛び起きることがなかっただけ気丈だ。


「薄墨くんも到着したところで、そろそろ本題へと入ろうか」


 意見交換は灰塚主導で行われることとなった。他の人と比べて夢の中での交流が少なく、謎めいた部分が多い灰塚だが、その落ち着いた姿勢は進行役としては最適だ。


「先ずは、改めて状況を整理しておこう。前回我々が見た夢の中で、七号コテージの朱雀錬治さんが遺体となって発見された。第一発見者はしばさんで、その悲鳴を聞きつけた、私、薄墨くん、未咲みさきさん、藍沢あいざわさん、桃園さんの五人も駆けつけ、変わり果てた姿となった朱雀さんを目撃した。その先については何か覚えているか?」


「記憶はそこまでです。俺は朱雀さんの遺体に驚いて、そのまま夢から覚めました」

「私もよ。目覚めたら寝汗が酷くて……」


 改と茉莉の答えは同じだった。前回の夢はそこで途絶えている。


「やはりそうだったか。私の目からは、薄墨くんと藍沢さんの姿が突然消えたように映っていた。紫さんもほぼ同時だな。あれが意識が夢から現実へと戻った瞬間だったのだろう。未咲さんは消えるまでに少し時間があったから、同じ光景を見ていたね?」


「はい。私は薄墨さんや藍沢さんが消えたことに驚き、それから間もなく目覚めました。私の場合は朱雀さんのことはもちろん、薄墨さんや藍沢さんにも何かが起きたのではと、恐怖を感じた影響も大きそうです。この時点で灰塚さんは、まだこちらに留まっていましたよね?」


「驚いたのは私も同じだが職業柄、皆さんよりはこういった状況に慣れているので、現場検証を行っていた」

「職業というのは一体?」


 雪緒が尋ねる。あのような凄惨な現場で冷静でいられるというのは、一般人ではあまり考えられない。


「現実世界での私の職業は刑事だ。喜べたことではないが職業柄、遺体や凄惨な現場というものには耐性がある」


 灰塚の正体に誰もが納得し、同時に安心感が広がっていく。夢の中という現実離れした状況で、現実での肩書がどこまで通用するか未知数だが、犯罪捜査のプロがこの場にいてくれるというのは、それだけで心強い。


「ここには鑑識道具がないし、簡単な検死をするのが精一杯だったが、分かったことは最低でも死後数時間が経過していたこと。天井付近に多くの血が飛んでいることから、死因は頸動脈を切れたことによる失血死の可能性が高いこと。遺体は死後に首を切断され、あのような悪趣味な配置にされたと思われること。この三点だけだ」


「どう考えても、事故や自殺ではありませんよね?」


 恐る恐る改が尋ねた。事故で頸動脈を損傷するとは考えにくし、自殺だったとしたら大量出血した朱雀の遺体が倒れているだけで、首を切断された異様な姿で発見されることはない。間違いなく第三者が関与している。


「殺人と断定して先ず間違いない。それが夢の中で起きたというのが大きな問題だが」

「刑事さんだったら、現実での朱雀さんが亡くなった経緯について俺達より詳しいですよね。やはり現実でも同じような死に方を?」

「私自身は捜査に加わっていないが、ある程度の情報は得ているよ。捜査情報の漏洩はご法度なのだが、夢の中なのだから寝言だと割り切っておこう。皆さんも現実世界では決して口外しないように」


 警察官という職業柄、守秘義務の葛藤がつき纏うが、このような状況ではそれもやむを得ない。口約束ではあるが、灰塚の前置きに全員が頷いてくれた。


「実は、現実での朱雀さんの死に方は夢とは大きく異なる。結論から言うと彼の死因は心臓麻痺だ。事件性は低く、病死の可能性が高いと考えられている。朱雀さんは独り暮らしで、第一発見者は朱雀さんの弟。彼は朱雀さん会社の社員でもあり、朱雀さんが出社せず、連絡もつかないのを不審に思い自宅を訪ねたところ、ソファーから転がり落ちる形で亡くなっている朱雀さんを発見したようだ」


 思いかげぬ事実に、改と雪緒は困惑気味にお互いの顔を見合わせた。現実でもあの凄惨な光景が広がっていたわけではないことに安堵する一方で、状況が異なるチグハグさが気持ち悪かった。


「朱雀さんが亡くなったのは偶然ですか?」


「それがそうとも言い切れない。現実での朱雀さんの死亡推定時刻は昨夜の午後九時から午後十時までの間と推定される。大まかではあるが、これは夢の中での死亡推定時刻とも重なる。加えて朱雀さんの遺体は心臓麻痺を起こしたにも関わらず、胸を押さえて苦しむのではなく、首の頸動脈を両手で抑えるような形で、苦悶の表情を浮かべて亡くなっていったようだ。まるで傷口や、そこから溢れる出血を必死に止めようとしているようにな」


「つまり、直接の死因は異なるものの、夢と同時刻に、夢を彷彿とさせる姿で亡くなっていたと」


「そういうことだ。もう一点気になるのが、朱雀さんは三十二歳と若く、それでいて健康面にもかなり気を遣っていたという事実だ。持病はなく、前回受けた人間ドックの結果も極めて良好だった。もちろん、どんなに若くて健康な人間であっても、突然死のリスクはゼロではないだろうが、夢の中で死亡した途端にそれが起きたというのは、あまりにも偶然が過ぎる」


 誰もが困惑気味に近くの相手と顔を見合わせた。話を聞けば聞くほど、偶然とは思えない出来事が起きている。


「夢の中で殺されたから、現実の朱雀さんも亡くなった?」


 全員の頭を過った最悪な想像。最初に口にしたのは改だった。


「俄かには信じがたい出来事だが、こうして夢の中で交流していること自体がすでに特殊な状況だ。何が起きてもおかしくはない。我々も用心するに越したことはないだろう」


 現職の刑事である灰塚をもってしても、その可能性を否定することは出来なかった。夢の中の殺人など、SFかホラー小説の出来事だ。事実なら完全に警察の領分を越えている。


「あたし達にも、朱雀さんと同じようなことが起きる可能性があるということ?」


 茉莉が眼光鋭く灰塚に問う。彼女の中で何かのスイッチが入り、表情を引き締めた印象だ。


「何も分かっていない以上、その可能性も考慮して然るべきということだ。この世界での朱雀さんの死因が事故だったならまた話は変わってくるが、あれは間違いなく他殺だからな」

「この世界に、朱雀さんを殺した犯人が潜んでいると考えているのね」

「犯人。熟語通り、人の範疇に収まっていればいいがな」

「映画やゲームに登場するようなキラーや、人知を超えた怪物が存在する可能性かな?」


 最初に反応したのは、そういった方面の知識に明るいフェルナンだった。


「一番の懸念はそれだ。夢だからこそ何が起きるか分からない。現実での常識がまったく通用しない場合が最も危険だ。殺人鬼や怪物に襲われるなんて、悪夢の定番みたいな話しだしな」


 犯行が人為の範疇に留まっていれば、刑事としてまだ状況に対処出来るかもしれないが、人知を超えた怪物でも出現した日には、灰塚一人の手には余る。機動隊の出動を要請するレベルだが、生憎と夢の中に援軍は望めない。

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