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第九話 魔女が教える周波数の真実

 引き寄せやスピリチュアルを勉強し続けていたA子。何十万円も掛けているのに、願いが叶わない。億万長者にも、結婚の夢も何もなっていない。


 周りは出世したり、結婚し、子供まで産まれているのに、この差は一体何なのだろう。


「どうしよう。引き寄せって何か怪しいなって思いながらも辞められないな」


 そうは言っても、引き寄せの法則のスピリチュアルリーダーのところへ相談に行けば、何でも肯定してくれた。不倫でも犯罪でも何でもOKという広い門が開かれている。人間の願望にマッチしたビジネスなのだろう。そう、ビジネス。頭では分かってうるのに辞められない。


 そんな時だった。


 引き寄せの法則のSNSを読み漁っていたら、自称・魔女という女のアカウントが気になった。イギリスで魔女修行してきた女らしく、「真・引き寄せの法則〜誰でも簡単に願いが叶う方法〜」というセッションも販売されていた。値段は一時間五万円。相場より二倍以上だ。それでも、願いが叶うのならと思った。さっそく金を振り込み、魔女の所へ。


 魔女に知らされた住所へ向かうと、人気がなく、周りは雑木林。変な鳥の声も聞こえるし、治安も悪そうな臭いがしてきたが、もうお金も払ったし、逃げられない。


「こんにちは。セッションの予約をしたA子です」


 その家の中も薄暗く、決して綺麗な所ではない。変なアロマの瓶が大量に並べてあり、他にもオカルトグッズが飾ってある。オカルトに詳しくないA子はどんなものか不明だが、決して百均やスーパーには売ってなさそう。


「こんにちは」


 現れたのは初老の女。全身黒づくめで確かに魔女っぽい雰囲気。声も低く色っぽいので、あまり老け込んでは見えない。


「ではセッションを始めます」


 魔女はそう言い、引き寄せの法則の真相を話し始めた。一言でいうと、引き寄せの法則は全部嘘なのだと。


「う、嘘……?」

「ええ。嘘よ。ポジティブシンキングやアファメーション、イメージングなど普通の人がやってもできない。まあ、純粋な子供か、神を信じている者が利他精神でやった場合、発動するかも」

「は、神?」

「人には願いを叶える力などない。人間にはエゴ、欲、自己中心、ワガママな思い、自己憐憫など悪いもんも一杯心にあるからね。もし、エゴで願った事が叶ったらどうなる? 世界が滅茶苦茶になるわ。だから人間には願いを叶える力などない。それが神が決めた物理法則というものよ」


 断言されてしまう。まさか魔女から「物理」なんて言葉がでるとは。


「こぼしたミルクは元に戻らない。割った卵は元に戻らない。悪い心がある人間の願いも叶わないって事ね。人間一人一人のこの悪心が、全ての悪の根源よ。ね、知ってる? 人間の努力だけでビジネスをやった場合、上限は年収二千五百万円ぐらいよ。あとは見えない力を借りないと」

「そんな……」


 信じられないが、A子が魔女の語り口に圧倒され、ろくに声も出ない。


「そうよ。引き寄せの法則みたいので願いを叶えたいのなら、見えな力を借りないと無理」


 魔女は歌うように言い、一冊の分厚い本を見せてきた。イギリスの魔女に教えてもらった魔導書だという。表紙はハリーポッターっぽいイラストが描かれ、見るからに怪しい雰囲気。


「見えない力を借りるのには、それと周波数を同調しなければならない」

「まさか引き寄せやスピリチュアルでいう周波数って、見えない力を呼ぶ為のもの?」

「ええ、叶った状態の周波数を維持する事じゃないわ。魔導書によると、周波数を合わせる方法は、呪文、儀式、生贄があるわ。何を選ぶ?」

「まさか、まさか……」


 A子は口をぱくぱくするだけで、何も言えない。引き寄せがこんなオカルト的なものだったとは。動画サイトやビジネス書でいう引き寄せって何だったのか。新規を掴む為に、よりカジュアルにしていたという事か? まるで詐欺ではないか。


 しかし、ここまで来て逃げられない。この中で一番マシな「呪文」を選ぶと、魔女はなぜかキリスト教の聖書を持ってきた。噂通りの分厚い鈍器本だったが、なぜここに?


「見えない存在は、キリストや聖書といった存在が大嫌いみたいね。この聖書の詩篇っていうところを逆さまに読んでいくと、見えない存在を呼び出せるわ。オリンピックで『最後の晩餐』が冒涜されたのも見えない存在への儀式なのよね」


 魔女に言われるがまま、一緒に聖書を逆から読んでいく。すると……。


 急に胸が苦しくなり、息ができない。魔女も苦しみ始め、二人ともろくに立っていられなくなった。


「はあ、はあ、何これ」


 魔女は倒れてしまい、意識がない。A子は胸を掻きむしるが、苦しくて仕方ない。


『ね、呼んだ?』


 しかも目の前には悪魔がいた。もしかしたら苦しみで幻覚を見ているのかもしれないが、どうにか目を見開く。やっぱり幻に見えないのだが。


『願いを叶えて欲しいなら、動物の死体を持ってきて? 赤ん坊の死体でもいい。生贄をよこせ!』


 見えない存在=悪魔?


 なんて事になってしまったのだろう。意識が消えかけたが、目の前にある聖書が目に入る。聖書の言葉を逆に言ったら悪魔が出てきた。なら、正しく口にしたら?


 A子は苦しみながらも、聖書の詩篇という所を口にした。


 わたしの魂をお守りください。

 わたしはあなたの慈しみに生きる者。

 あなたの僕をお救いください。

 あなたはわたしの神。わたしはあなたに依り頼む者(詩篇86)


 するとどうだろう。目の前にいた悪魔は急激に小さくなり、あっという間に消えていった。A子の胸の苦しみも消えた。


「な、何これ?」


 アファメーションではいくら何を言っても、現実の変化はなかったのに、これは一瞬だった。


「こ、怖いから!」


 A子はそう叫ぶと、聖書だけ持ち、魔女の家から逃げた。一目散に逃げた。


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