第八話 アファメーションもイメージングもポジティブシンキングも全部無駄
R子はスピリチュアル沼にズブズブといたが、色々と失敗もあり、距離を置く事にした。
「アファメーションもイメージングもポジティブシンキングも全部無駄だった気がするね。なぜそんなメゾットが生まれたのかは謎だけど」
アファメーションはポジティブな言葉を言い、前向きになること。
イメージングもポジティブな事を想像する。ポジティブシンキングもその名前の通りの行い。
そんなメゾットもあるのも、願いが叶った周波数や波動になり、望むものが引き寄せられるというのが引き寄せの法則だった。書店やネットにはそんなメゾットがあらゆる方法で指南されていたが、元を辿れば同じような事しか言っていなかった。
そんなR子だったが、最近出世し、給料があがった。別に何の引き寄せメゾットもしていないが、収入アップは昔から考えていた事だった。
きっと収入が上がれば楽しいんだろう、ポジティブになれるんだろうと思っていたが、案外そうでもない。むしろ責任と労働時間が増え、仕事に憎しみさえ感じる。
「ああ、夢が叶う事って別にポジティブじゃなかったな。引き寄せの法則ますます嘘だわ。薄すっぺらい」
久々に休みが取れた日は、部屋の掃除をし、引き寄せ本やパワーストーンなど捨てていた。なぜか昔偶然もらった聖書は捨てられず、本棚に残した時だった。
『ねえ、R子ちゃん?』
目の前に悪魔がいた。本当に漫画みたいな典型的な悪魔だった。全く意味がわからないが、これでもR子はスピリチュアル沼にいた。普通に悪魔の存在を認知したが。
『君だけに本当の引き寄せの法則を教えてあげる』
悪魔は甘い誘惑もしてきて上手く追い出せない。
『引き寄せでいう、イメージングとか、アファメーションとかポジティブシンキングとか全部嘘だから。っていうかその聖書のパクリ』
「は!?」
それには驚いた。まさか聖書と引き寄せに共通点があったとは。
『我々悪魔は神になりたい。人に崇められたい。だから神がやってる事をパクった。という事でポジティブシンキングとか本当は神と共にしなきゃいけない事なんだが、一般の日本人がやっても全く意味ない』
「なにそれ、騙された!」
『そう、引き寄せの法則っていうのは聖書から神と信仰心を抜き、ご利益宗教にパッケージングしたもの。もちろん聖書でいう罪も言わない。ご利益宗教だから不倫や金銭欲も全肯定でね。そう、我々悪魔が神への私怨の元、人間を通して作らせたもんよ。チャネリングしてくるキリスト教異端連中に我々悪魔の思想を送ったのが一番の始まりだね』
そんな話を聞き、R子はイライラする。あれだけ一生懸命にやっていた引き寄せメゾットが、元を辿ると私怨だったなんて。
「でも、引き寄せで願いが叶った人いるよね。あれはなんなん?」
『あれは我々悪魔が契約し、人間に引き寄せを広めさせる事を対価に願いを叶えてやっているのさ。我々は人間に神を忘れさせる事が目的だからね。その仕事をしてくれたマージンってやつ。人間の言葉で言えばネズミ講やネットワークビジネスみたいな?』
「つまり紹介すれば紹介するほど儲かり、胴元が一番得をするピラミッド社会ね?」
『その通りさ。だから引き寄せは新規参入者が多ければ多いほど底辺が損するわけよ。金持ちがより得する株っぽくもあるね。という事でR子ちゃんも引き寄せの宣伝してくれね? その対価でもっと出世してあげる』
まるで悪魔は悪徳営業マンのよう。笑顔で甘い事を言っていたが、絶対裏がある。いう事を聞いたら騙されて酷い目に遭いそう。
だからといって1人で追い出せる?
困ったR子は聖書と目があう。適当にページを開き、聖書の言葉を言ってみた。
「信仰は望んでいる事がらを保証し、目に見えないものを確信させるものです。(ヘブル11章)」
そう言うと悪魔はその場で倒れ、ギャーギャー騒ぎながら家から出て行った。
「は? 何だったの? しかこの聖書のところ、引き寄せの法則に似てる。パクリっていうのも納得だ……。信仰っていう超重要なワードを意図的に抜いてる?」
引き寄せでは「すでに叶ったように確信して振る舞え」ともよく言われていた。それがどうしても出来なくて難しかった。だが「全知全能の神」という信じる対象があれば、そんなに難しい事ではなさそう。子供でも無邪気に信じれば出来そうだ。やっぱり信仰と神を抜いて薄めたものが引き寄せの法則???
しかし、悪魔が消えてホッとした。なぜかわからないが、聖書の言葉を見ていたら、心がじんわりとしてくる。
スピリチュアル界隈では金、男、名誉、不倫も全部肯定され、そこは息苦しいと感じていたからか。懐が広そうに見えるが、「波動が低い」人がコミュニティから追い出されたりしていた。
それにスピリチュアルは金がかかる。生活に困窮している人が救われないのは、差別的ではないか。本当に人々の救いになるなら誰でも平等に見られるよう無償公開するのが筋ではないか。スピリチュアルは「精神世界」と言っている割にはこの世と同じ資本主義的でピラミッド世界だったと気づいてしまう。
「まあ、願いも叶わなくてもいいよね。それが全てじゃない。コツコツ仕事して美味しいご飯食べれられれば、もういいかも? 足るを知った方がいいね」
欲も薄れてきた。今はそれで良い。願いが叶わなくても、もっと大事なものがありそうだ。