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第七話 人間は神様ではありません

 R子はスピリチュアルマニアだった。各種スピリチュアルセミナーを放浪中だが、そこで友達もできるし、別に願いが叶わなくても波動が上がればいいや♪というタイプだった。


 最近は田舎暮らしを目論んでいる。好きな事して田舎でのびのびと暮らせば波動が上がって幸せになれると信じて疑わない。


 今日もスピリチュアルセミナーで出会った仲間たちと、田舎で野菜作りに興じていた。


 これも波動を上げるためのもの。無添加、無農薬の田舎でとれた野菜を食べていれば、波動が上がって幸せになれるだろうと思う。


 引き寄せの法則でも波動を上げるのが鍵とあった。頑張って修行して自然派になって、波動をキラキラと上げていれば、きっと幸せになれる。白馬の王子様が迎えにきてくれる。こんな地味で冴えないアラサー女でも見てくれている人はいる。そう信じて疑っていなかった。


 自分の生き方も絶対に正しいと思っていたし、耳の痛い言葉や人間関係を断絶していけば、波動が上がって幸せになれると思っていた。


 仲間と共に畑仕事を終えると、農作業に使うスコップや軍手などが足りないことに気づき、R子は買いに行くことに。


「聖書に興味はありませんか?」


 しかし、その道の途中で宗教勧誘に捕まってしまう。ギデオン協会という所の聖書をもらう。


 無理矢理押し付けはられなかったが、スピリチュアルでは宗教は次元の低い旧時代のものだ。全ての宗教のソースは同じ、全部一つになるワンネスという考え方が一般的。それに頑張って波動を上げればアセンションして人間は神になれる。だから神がいる宗教は古くてダサいという。


 そうは言っても聖書は何か波動が高い気はした。


「本当のアセンションはイエス様が復活して天に登られた事です。人間は神になれません。私もあなたも」


 宗教の人はそんな事を言っていた。


 聖書は波動が高いと思ったが、人間は罪があるとか、修行で救われようとしているのはバカだとか、欲望のせいで願いが聞き入れられないとか、目に見えるものが無いと信じないとか耳の痛い事ばかり書いてる。


「やっぱり波動低いじゃん。ネガティブな気持ちになったわ、波動落ちる」


 という事で長年のスピリチュアル脳は染み込み、聖書を閉じた。


「やっぱり波動高くして一生懸命修行して次元上昇してアセンションしよう! 私たちは一人一人が神様だから!」


 そうポジティブに。波動が低い聖書は旧時代だ。


 と思っていたが、仲間たちで始めた田舎ぐらしや農業が上手く行かなくなってきた。


 仲間同士で不倫や浮気を始めるものもいて、なんとなく風気が乱れていた。なぜか自己中心的な仲間も増え、金の問題で揉め、あっという間にこの生活は終わった。


 当たり前だ。スピリチュアルでは一人一人が神様。そう思っている者同士で上手く行くはずがない。必ず衝突する。答えは人それぞれの神様な私たちに、不倫や泥棒を咎める言葉は無い。


「人それぞれの答えや幸せ」

「一人一人が神様」

「波動を高めてアセンションしよう」

「波動が低い者は即排除」

「自分で自分を救おう」


 そこに集団を維持できる正義はない。むしろ「悪」もどんどん肯定できてしまう。「悪」を許すのも優しい愛だと錯覚してしまう。自分の思考が絶対正しいと固執してしまう。それを咎める者もいない。


 自由なようで不自由。自分軸のようで、何のポリシーも芯もない。絶対的に頼れるものも自分だけ。自ずと世間から浮き孤立していく。そうなってしまうとコミュニティなど絶対に維持できない。


「は? もはや本当のアセンションはイエス・キリスト、つまり神だけの言葉だった?」


 田舎暮らしが失敗した今は、あの聖書を開いていた。


 人類みな罪人。


 失敗した今なら耳の痛い言葉も身に染みる。本当の愛は優しいだけじゃないのかもしれない。

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