表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

第六話 願いを叶える為には生贄が必要です

「なんと、私が会社経営で成功できたのも、引き寄せの法則のおかげなんです。ポジティブの波動を持ち続け、イメージングするだけで、すでに叶ったかのように感謝して行動し……」


 会社経営者のSは自宅で動画を収録していた。広く、綺麗なタワーマンションの最上階の部屋は、動画の背景となり、Sが成功した証拠を物語っていた。


 笑顔で動画を収録していたが、内心は楽しくない。


 契約している悪魔に命令されてやっている事だからだ。


 悪魔というファンタジーな存在だったが、あいつの言う通りにすると成功するから止められない。内心はビクビクしつつも、辞める機会を完璧に失っていた。


 動画で語る引き寄せの法則は嘘だろう。動画のコメントでは叶わない者からコメントがくる。再現性なしだと。


「このアンチコメント、すごく面倒だわ」

『だったら、悪口言うと波動が落ちて地獄に落ちるという動画を作れ』

「そんなんで効果あるか?」


 半信半疑だったが、悪魔の言う通りにしたら願い通りになった。


 こうしてSは全く逆らえなくなっていた、ある日。


 株が暴落し、財産の全てを失ってしまった。タワーマンションにも住めず、家賃六万のボロアパートに追放。


 他、さまざまな支払いもあり、頭を抱えていた時。


 悪魔を呼んだ。いつもは勝手に来ていたが、今はどうしようもない。


「困った。お金がどうしても足りない」


 土下座をし、床に這いつくばっているSに悪魔は仁王立ちし、せせら笑う。


『助けてやろう。その代わり、赤ん坊を私に捧げよ』

「は? 赤ん坊?」

『生贄だ。買い物にはお金が必要だろ? 願いにも代償が必要だよね?』


 ◇◇◇


 悪魔は契約している人間、Sを順調に支配していた。


 時には義褒美をあげ、いい感じに奴隷にしていたが、神側の介入があった。


 なんとSの財産を取り上げ、窮地に追い込んでいた。


 世間一般的には悪い事。不運な事でもあろうが、こうでもしないと人間は神を求めない。悔い改めない。


 それにSの罪み積み重なっていたので、そろそろ刈り取りが来るとは思っていたが。


『ムカつくな! いい感じにSを支配下に置いていたのに邪魔すんな!』


 悪魔は地団駄を踏む。ここはご褒美を与えてSのを騙そうかと思ったが、パワー切れ。


 悪魔は人間の命、魂、時間、心、感情などを材料にしないと何もできない。これが神から決められた事で、勝手に人を殺したり、災害を起こす事も許されていなかった。神からの命令は絶対に逆らえない。それ故に人間を相手にするしかない。正確に言えば自ら進んで悪魔を選んだ人間だけだが(無理矢理人間を従わせるのも神から許されていないので出来ない)。


 偶像は人間からの崇拝がないと存在意義を失う。アイドルや推しもそうだろう。悪魔もこの点は同じだった。


『よし、そろそろ生贄を捧げさせるか。人を食うのが一番美味しいからねぇ』


 ◇◇◇


 Sは困っていた。


 悪魔からは人間の生贄を要求されたが、そんなものは……。


 要するに赤ん坊を生贄にし殺せって事か。ついつい道行く親子連れを見てしまう。このまま無理矢理誘拐すれば……。


 家族がいる赤ん坊を誘拐するにはリスキーだ。虐待やネグレクト被害の子供を見つけないと……。


 まともな判断など出来ないとSは思っていたが、悪知恵は回るようだった。


 ◇◇◇


 Uはラノベ作家だ。悪魔と契約して願いを叶えてもらった。最初は引き寄せの法則を使っていたが、そんなものは全部まやかしだと気づく。要は悪魔に好かれる事が成功の秘訣らしい。


 それに気づいたUは積極的に悪魔を喜ばせる作品を書いていた。


 今は「蛇神の生贄花嫁」という話を作っていた。これも悪魔の入れ知恵。生贄になった没落令嬢が蛇神になぜか溺愛されるという内容だった。


「それにしても何で蛇神なんだ? そういえば蛇ってアダムとイブに誘惑した動物だけど、何か関係あるのかね?」


 そんな事を呟きつつ、原稿を仕上げた。数ヶ月後には店頭にこの作品も並ぶ。


 Uはさっそく自分の新作を見に書店へ向かう。人気イラストレーターに書いて貰った蛇神はとてもイケメンに表現され、きっと表紙だけでも買ってくれる読書が多いだろう。


 その途中だった。


 書店の近くに児童養護施設があったが、怪しい人影を見かけた。


「うん? 誰? まあ、いいか」


 後日、この施設で誘拐事件があった事はUは知らない。例の蛇神のイラストを見ながら、うっとりと目を細めていた。


 ◇◇◇


 Sは悪魔の言う通りにし、赤ん坊を誘拐し、生贄として捧げていた。


 警察にバレそうだったが、また新たの生贄を捧げると、不思議と捜査の手が伸びてくる事もなかった。


 人の欲望は尽きないものだ。


 Sはこうして生贄を捧げ続けていたが、まだまだ金が足りない気がする。名誉欲も満たされない。願いが全部叶っているにに何故だ?


 そのうち捧げる生贄も尽きるかもしれない。


「なあ、悪魔。その時になったらどうすれば良いか?」

『そうだな、事故や戦争を起こして大量生贄を捧げて貰おうか』

「もしかして戦争もお前が糸引いていたんか?」

『ご名答! 戦争って規模が大きい生贄儀式なんだよね。俺らと契約している支配者層が生贄が足りなくなると起こすんだわ』


 悪魔は蛇のように舌を出し、笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ