第五話 本当は怖い生贄物語
Uは作家志望者だった。自己肯定感も低く、ブスで貧乏だったし、エンタメ業界で一発逆転しようと思った。つまり金の為。別に作品に愛はなく、マーケティングなどで乗り越えられると甘く見ていた。
そう、甘く見ていたのだ。そうそう小手先テクニックで成功などしない。エンタメ業界は人手不足はない。掃いて捨てるほどに志望者がいて、自費出版の詐欺もあるぐらい。
そんな折、Uは書店で引き寄せに法則の本を見つけた。良いイメージをしていると幸運が引き寄せられるという。
これに飛びついたUはせっせと良いイメージングをしていた。
そんな時だった。目の前に悪魔が現れた。本当に漫画みたいな姿の悪魔だったが、不思議と怖くはない。
『U、呼んだ? ねえ、僕と契約しない? 願いを叶えてあげるよ』
いつもだったら甘い話などお断りだ。それでも今はまともな判断力などなかった。欲に囚われていた。もう後がないような気がしていた。
◇◇◇
F実はWEB小説や女性向けライトノベルがやたらと好きだった。大学生で比較的暇という事もあり、今日もWEB小説サイトを見ていたが。
「最近、生贄になった少女が鬼や龍神に愛される話多くね? しかも生贄になる事が名誉、鬼や龍神は生贄にしないで溺愛っていう流れが一緒なのはなぜ?」
異世界転生、ざまぁ、追放、悪役令嬢はテンプレとはいえ、そこまでの類似性はない。
このテンプレの起源は一体なんなのか。試しに「生贄」というザックリとした言葉で検索したら、なぜか陰謀論サイトに迷い込んでしまう。
陰謀論サイトでは、古代、聖書の時代、モレクという悪魔が子供の生贄を要求し、人々に崇拝させていた事が語られていた。
また、そういった生贄文化は世界各国にあり、聖書でいう悪魔が国の文化に合わせて化けているという考察もされていた。日本では龍神、蛇神などと呼ばれる存在が聖書でいう悪魔なのだという。
生贄の風習がある土地では必ず偶像崇拝もされ、生贄になる事が名誉で、自ら進んで生贄になるという事も書いてあった。なぜ世界各地で生贄文化があるのか。陰謀論風の考察だったが。
「いや、何この陰謀論……」
カトリック教会でも神父の幼児虐待が問題になっており、それは生贄儀式のようだとも。カトリック教会はキリスト教ではあるが、マリアを拝んだり、実質的に偶像崇拝が行われているとか。
これは因習村など特殊なケースで行われている事ではなく、現代も悪魔崇拝者達によって行われているという。アメリカでも子供の誘拐が多く、人身売買が社会問題になっているが、生贄も関連しているという。陰謀論界隈では某テーマパークでも子供が消えている噂も多いらしい。
「いやいや、単なる陰謀論でしょ?」
そうは思うが、ライトノベルでの生贄ブームとこれって何?
聖書では子供を捧げよと神から命令を受け、寸前で止められたエピソードもあるらしい。これを悪魔が真似(悪用)したのが生贄文化の起源だと陰謀論サイトでは主張されていたが。
そういえば悪魔がヒーローの生贄モノは、あまり見た事はない。それが逆に悪魔が隠蔽しているような気もし、F実はゾクゾクしていた。
◇◇◇
悪魔と契約したUだったが、ポジティブ思考もイメージングも何もしていなかった。
ただ、悪魔の言う通りにしたら、勝手に願いが叶った。
最近は生贄モノを書けと命令されたので、素直に言う事を聞いたら、すぐに書籍化、コミカライズ、重版と決まり、チョロいぐらい。これが現実世界のチートなのか。
今度は聖女が悪魔を召喚し、ラブラブになるという物語も書けという。すぐに悪魔の言う通りにした。
「なんで生贄モノでは悪魔がヒーローじゃないのよ?」
『いや、色々こっちも悪魔のイメージ良くしたし、聖書の生贄儀式がガチだってバレたら困るのよ』
「は? ガチだった!?」
『いやいや、今の冗談! 悪魔がヒーローのエンタメには聖女とのラブストーリー、生贄モノは鬼or龍神だよね。そっちの方が日本文化的に色々都合がいいって言うか?』
悪魔の言う事は良くわからなかったが、願いが叶うなら何でもいいか。
そうは思っていたが、最近はなぜかトラブルも相次ぎ、思った以上に幸福感がない。なぜだろう?
◇◇◇
『いや、本当にUは愚かだね。神と天使側がわざわざ不幸を起こしているのに、何にも気づいちゃいないね……』
そんなUを見ながら、悪魔はゲラゲラ笑いそうになっていた。
『だから引き寄せの法則なんて嘘なのよな。願いが叶った方がかえってヤバすぎて。願いが叶っていない皆様、おめでとう。あなたは神に愛されているかもね?』
そうは言ってもUは徹底的に自分の支配下に置く事を決めた。
Uの作品を読んだ読者からエネルギーを吸い取り、さらにUの願いを叶える。
Uは大喜びだったが、世の中には知らなくてもいい事がある。Uもこの真相は知らなくてもいいはずだ。
◇◇◇
「やっぱり最近の娯楽、なんか変じゃない? 生贄とか、龍神とか鬼とか、昔はあんまりなかった気がするんだけど……」
F実は子供の頃に読んでいた文庫本などを思い出しながら、妙な違和感。友情や家族を描いた作品が異様に減っているような? 溺愛も愛なのかよく分からない。娯楽の中でも、人間の欲望が肯定され、愛が冷めている気がする。
何か、神様みたいな存在がこの違和感の正体を教えてくれているような気もしたが……。
「まさか世界が終わるサイン?」
いや、それは考えすぎか。それでも頭の中は「世も末」という言葉が浮かんでは消えていた。