番外編短編・悪銭身につかず
「やっぱ宗教はないわー」
A子はそう思う。
引き寄せにハマり、酷い目にあったA子。引き寄せはキリスト教の聖書のパクリという事実もわかった。元々はキリスト教の異端グループから生まれた思想という事もわかり、牧師と会った事もある。
しかしキリスト教界隈のSNSを見たら、お互いを裁き、批判しあい、どうでもいい事で揉めていた。オンラインの牧師や宣教師なども迫害対象らしく、ボコボコに叩かれているのを見たら、A子はドン引き。
「やっぱ宗教ってヤバい。特にキリスト教は隣人愛とか言ってなかったの? 口ばっかりで実践できてないじゃん」
実際に会った事のある牧師はいい人だったが、オンラインのこの状況を見ていたら、やっぱり宗教は理解出来ない。
結果、A子は再び引き寄せの法則にハマった。お金持ちになったイメージングをしながら、投資で一千万をあっという間に稼ぐ。
最初は喜んでいたが、なぜか病気が怪我になり、結婚詐欺にもあい、一千万円はすぐに蒸発。
「そんな、バカな……」
困ったA子はアファメーションを試す。
「神様の奇跡が起きる」
そんなアファメーションを繰り返し、また投資で一千万円入ったが、同じようにトラブルが連発し、またスッカラカンになってしまった。
確かに入ってくる額は大きいが、すぐに蒸発してしまう。同じように引き寄せで大金を得た友人も似たような状況だった。
「牧師さん、どういう事ですかー」
結局、A子は牧師の所へ相談に行った。アラサーぐらいの学校の先生のような雰囲気の牧師だったが、かなり呆れていた。
「悪銭身につかず! 楽して手に入れたお金は絶対消える。聖書にも書いてある。イナゴが悪銭を食い尽くすのよ!」
「そんなー」
A子は心当たりがあり過ぎて反論できない。
「楽してギャンブルで稼げる金額なんてせいぜい最低生活費レベルの月十万ぐらいが上限だよ。そんなアファメーションとかで稼ぐのは悪銭!」
「だったらどうすればー」
A子は涙目で訴える。
「収入の十分の一を募金しなさい」
「え? そんなんでいいの?」
てっきり祈れとかクリスチャンになれとか言われると思ったが、かなり具体的な行動を示された。
「これは聖書にも根拠があり、十分の一の募金(献金)は神様を試していいルールなの。もちろん、これに限っては全人類、悪人にも平等に適応されているルールで、自称ユダヤ人達もそうやっているの」
「本当ですか?」
しかし、怪しげな雰囲気の「ユダヤ人の成功法則」といった本では、確かに収入の十分の一を募金しろというアドバイスがあった事を思い出す。
「心が伴ってなくてもいいんですか?」
「クリスチャンなら信仰心での献金が求められるけど。っていうか一度試してみればいいと思う」
そこまで言われたらA子も気になった。投資で入ってきた金の十分の一をシングルマザーの支援団体に募金し始めたところ……。
なぜかトラブルが収束し、少しずつだが、貯金出来るようになってきた。
「は? 本当にどういう事?」
通帳を見ながら背筋がぞっとする。募金をし始めた月から、貯金ができるようになってるんだが……。
「まあ、悪銭身につかずって事なんだろうね……」
A子は再びアファメーションをした。
「神様の奇跡が起きる」
ある意味、これは真実になったような……?