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マナイズム・レクイエム ~Miserable Daemon~  作者: 織坂一
1.魔王討伐の悲願と魔王と少女の願い
2/19

一国が死の都と化した後の一波乱

今話から1章&1話となります。よろしくお願いします。



今この世界にいる外敵は、死をもたらす魔王——通称・『デーモン』に絞られる。


改暦2100年。人類は1000年のときを得て、不治の病や『ゴースト』という害獣被害を乗り越え、さらには紛争1つさえ起こさない平和な世界で生きていた。

しかし『デーモン』と言う死をもたらす存在が人間界へ顕現したことで、この世界に生きる者は日々死に怯えていた。


2年前『デューラ』と言う国にて、初めて人類は『デーモン』を捕縛に成功した。

『デーモン』の捕縛は偶発的なものだったとは言え、このとき『デューラ』で『デーモン』捕縛に尽力した者は讃えられた。


しかし同時に、『デーモン』捕縛に尽力した者は皆愚かであったと、世間から後ろ指を指されることとなる。

いいや、そもそも指を指される人間など存在していなかった。


『デーモン』は捕縛された2日後に収容所を破壊。同時に、収容所の責任者を諸共殺害した。

これだけならば、収容所の責任者並びに、捕縛に関わった者は皆ここまで批判にされることはなかっただろう。

問題なのは『デーモン』を怒らせたことで、『デューラ』と言う国を一瞬にして灰燼に帰せたことだ。


無論、天災以上に性質(たち)の悪い現実を、神が黙って見ているはずもなかった。


『デューラ』の壊滅と同時に、神の使徒である『カレンデュラ』が300体程、『デューラ』の収容所付近に投下された。

本来なら、後1日と半日後に神の使徒達は『デューラ』を訪れるはずだった。しかし、事前に『デューラ』に配置された個体が『デーモン』の罪業を展開する気配を察知したことがきっかけで、戦闘へと持ち込まれる。


そうして雪崩のように『デューラ』に大量の『カレンデュラ』は流れ込んで、『デーモン』を討伐せしめんと彼を襲う。


結果、『デーモン』は『カレンデュラ』300体を同時に相手したことで、一時半壊状態に陥った。

その後『デーモン』は一旦身を隠して息を潜めるが、この一件がきっかけでなんと人類は怯懦しながらも矛を取ることを誓う。


一国が滅んだことで『デーモン』への畏怖は増したが、それでも愛する友人や恋人、家族を無惨に殺された人類が黙っているはずもなかった。

それに人類が皆、『デーモン』による死の圧政に怯えていた中ではない。

中には『デーモン』に一泡吹かせてやろうと、様々な憶測を重ねた上で、魔王殺しを図る者もいた。


そこで人類は超人錬成を行うことで、魔王に抵抗することを試みる。

超人錬成を施した者は皆、病に罹らなければ死ぬことのない身体となった。

ただ1つ至らなかったのが、頭部や心臓といった急所を突かれれば、生命活動が維持出来ずに死ぬことぐらいだ。


だが、相手は一国を瞬時に廃墟と化した死の魔王。

どれだけ人体を改造しようが『デーモン』を討つことは叶わず、それは集と化しても同じこと。


しかし、人類側の利としてあるのは数だ。

『デューラ』が壊滅し、『カレンデュラ』と『デーモン』の間で戦闘が起こった際、近隣の国も少なからず被害を受けている。


被害を受けた国に住まう者からの目撃情報、そして全てが片付いた後に死の都と化した『デューラ』に調査員が送り込まれたことで、あの悲劇の真実と『デーモン』の足跡を入手することに成功。

その後に起こるのは、魔女裁判であった。


集でも叶わない相手に真っ向から向かっても意味がない。

ならば、害を成さないと見せかけては接触を試み、弱点を暴け出した後に囲んで殺せばいい話。

もちろん、普通の人間に『デーモン』をぶつければ『デーモン』を討てる可能性はゼロとなる。故に『デーモン』を仕留めるのは超人錬成を受けた人間といった構図だ。

そのためには、一体誰が『デーモン』なのかを割り出す必要がある。


『デーモン』と噂された男の風貌は、幸いにも燃えかけた調書に記されていた。

金髪で長い髪を後ろで括り、黒い瞳に、無精髭を生やし黒いジャケットを羽織った小柄な男だと。


その後、『デーモン』に似た人間は『デーモン』の嫌疑をかけられては鏖殺される。

人類が敵うことのない上位存在に抗った経緯としては滑稽だが、この魔女裁判は大陸中で行われた。


これら2年で起きたこの人類の抵抗劇を、人々は『魔王討伐』と呼んだ。

そして『魔王討伐』は現在も続いており、『デーモン』は息を殺しながらこの2年間逃亡生活を続けていた。


言うまでもないが、この2年の逃走生活は『デーモン』にとって正に地獄だった。

どこに行くも、自身と似た風貌の人間が『デーモン』と疑われて殺されていく。

だが、『デーモン』と渾名された男——シック・ディスコードはそんな凄惨な状況を目の当たりにしても、犠牲者となった人達を救うことなどしない。


ただ、殺される恐怖から逃げに逃げてこの2年間をやり過ごし、『魔王討伐』及び、神の使徒達の殲滅に頭を働かしたのだが。



「……結局、こう言った生活が1番なんだよなぁ」



シックは現在、カジノへと足を踏み入れていた。

カジノと言っても大都市にあるような大規模なものではなく、ただのこじんまりとした街にあるカジノだ。


一軒家3つぶん程の広さがあるカジノでは、各々が好きに賭け事を行うことで楽しんでいる。言ってしまえば非合法カジノだ。


おかげで掛け金は一発で削られるし、シック自身まだ2回しかブラックジャックに参加していないのに既に懐が寒い。

そしてつい15分前。シックは掛け金を全額失い、カジノの隅で1人虚しく紫煙を燻らせていた。


このように、シックは呑気に自身を人間と偽って娯楽を楽しんでいた。

無論、彼も2年前に傷を負わされたことに怒りや屈辱を抱かなかった訳ではない。だが、冷静に考えれば普通はこうだ。


もし、自分の家に殺人犯が乗り込んできたとしよう。そんなとき、罪に問われるのは殺人犯の方だ。

それは当然であり、例えこちらに危害を加える気がなくとも、危害を加える危険性がある人間を身近に置く馬鹿がどこにいると言うのか。


だからこそ、自身がどこに行っても排斥されるのも当然のこと。

例えこれこそ自身に科せられた枷だからと言って、それを盾に被害者ぶることさえ出来ないし、したくもない。


結局、死の魔王と呼ばれている男の本音などこんなにも矮小で情けのないものだ。

戦いなんて基本は御免であるし、なんなら女と酒と煙草で溺れる人生を送ることが彼の夢である。


しかし、人類の敵である彼がそんな人のような幸せを真っ当出来るかと言われれば(いな)

ゆえに、今のここ『アテカ』での平穏な生活が彼には幸せの上限に感じられた。


だが、この街も彼の身を脅かさないのかと思えば、それも(いな)

なんとか一服したことで気を紛らわせたシックは、一旦外の空気を吸おうと外に出ようとすれば、大柄な男3人と玄関にて鉢合う。


大柄な男達はその巨体に似合わぬぴっちりとした白と黒を基調にした軍服を纏い、ライフルを肩に下げている。


彼らはここにいる人間のように、単純に賭け事をしに来た訳ではない。

彼らはこの『アテカ』における『魔王討伐』集団・『義賊(ロークス)』の一員だ。


この『義賊(ロークス)』と言う『魔王討伐』集団はここ2年で勢力を広げ、ここ『アテカ』のような田舎街にも支部が設立されている。

『アテカ』の守護も兼任する彼らが非合法で運営しているカジノにやって来ると言うことは、彼らの用件は1つしかいない。



「静粛にしろ、秩序を乱す害虫共! 神の意向に則ってお前達の身柄を拘束させてもらう!」


「あーあ、言わんこっちゃない……」



カジノには静謐だけが満ちるが、シックはそのままこっそりカジノを後にしようとする。しかし、カジノの奥から若い女が人波を掻い潜って『義賊(ロークス)』達の前へとやって来た。



「あれ? あの姉ちゃん、確か酒場も運営してなかったか?」



シックは女の顔を見た瞬間、彼女がこの『アテカ』においてどのような立場の人間かを思い出す。

彼女——シンシア・ニージアは非合法カジノや酒場を運営するその裏で、慈善団体の責任者でもある。


このカジノ場も、ただのならず者達の溜まり場と言う訳でなく、カジノ側が設けた資金は全て孤児やホームレス達への支援に当てられているのだ。


そんな白も黒も混ざった場所ゆえにシックは心地よく過ごしていたが、白一色しか認めない連中がはたしてこちら側の言い分を聞くかと言えば(いな)

案の定シンシアは男達の前に立ち、自身の身分証を見せた。



「私はこの『アテカ』の慈善団体を運営する者です。ここで儲けた資金も、全て貧困層の皆様に寄付すると言うことは事前に国から許可を取っています。なのに、何故このような摘発するような真似をするのでしょうか?」



本当になぁ、なんてシックは呑気に彼女らの信念のぶつかり合いを見守る。

すると、『義賊(ロークス)』の隊員達はシンシアの主張を鼻で笑う。



「許可だと? そんなもの、今我々が却下した。例え裏で善意を計ろうが、汚いことをして儲けた金で生きていると子供達が知ったらどうする? 我々はそんな子供達の倫理を守るために動いているのだ」



この三流以下の見世物に、思わずシックは顔を苦虫を噛み潰したように歪める。

そしてこの大男達の目的は、あることないこと文句を付けることで、徴収金を搾れるだけ搾り取ることだと即座に理解した。


恐らく、こんな子供騙しのような横暴の真意はシンシアも理解している。

だが子供の倫理など真っ当な理由を盾にされてしまえば、シンシアは悔しそうに歯噛みすることしか出来ない。だが、彼女はここを引く気はないと彼らに立ち向かう。



「では、その倫理観だけで人が救えると? そんなことは出来ませんよね? そもそも、あなた方がいつまで経ってもあの魔王を斃せないから、孤児や貧困者が更に増えていくのです」


「……」



シンシアの言葉を聞いた瞬間、シックはそのまま玄関のドアへと手をかけてこの場を去ろうとする。

だが、シックの胸中は徐々に虚無感に侵され、視界が徐々に暗くなっていく。


暗澹の世界へ引きずり込まれた視界の先にあるのは、1人の青年の死体。

死体の奥にいるのは、黒い人型の“なにか”。

その黒い人型の“なにか”はシックの姿を捉えては、薄く微笑んでいる。



「おかえりなさい、■■■■」


「忘れるなよ、■■■■」



彼にとっての平穏と地獄が一重に重なった今、魔王はただの愚者に成り下がる。

こうして彼にとっての病が疼き出した今、彼にこの場を去ると言う選択肢は消え失せた。

シックはそのまま大男達の背後まで近寄ると、彼らの肩にトン、と軽く手を置く。



「まぁまぁ、待ちなよ義賊さん方。ここはシンシア姐さんの美しさに免じて見逃しておやり」


「なんだ? 貴様——……」



大男達が振り向いた瞬間、カジノ場に甲高い発砲音が3発程響く。

同時に、3人のうちの1人が頭を撃ち抜かれて、床に縫い付けられるように地に落ちた。



どうも皆様、こんばんは。織坂一です。

前回シックが一国を瞬時に滅ぼしてしまいましたが、これはその後の話となります。


若干、シックが常識人っぽく見えますが全然常識人ではありません。

それになんだか虚無って様子もおかしくなっていますが、はたして大丈夫なのかと思いきや……結論暴力!暴力は全てを解決する!


後、『魔王討伐』の詳細などに関してはこの1章が終わった後に解説していきますのでお待ちください。


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