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マナイズム・レクイエム ~Miserable Daemon~  作者: 織坂一
2.魔王救済のために少女は箱舟で魔王を死に導く
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事態急変



「……んで、ルタ嬢さん。なんで俺の頭を枕にして寝てるんですかねぇ」



2人が寝台列車に乗り込んで30分が経った頃のこと。

突如ルタが眠いと言い出し、なら横になれとシックが勧めるも、今やシックの頭はルタの枕と化していた。


しかし、これだけならばまだ文句はない。いや、文句を言いたいが別に相手は女性ゆえにむしろこれはラッキーチャンスだ。


ただ、気になるのは自身の手に指を絡ませているのが気になるだけ。

無防備に寝息を立てるルタだが、シックはルタのことが心配になる。

昼間の貞操観念云々もそうだし、いくら人を信用しすぎ――と言うより、自分を曝しすぎではないかと不安で仕方ない。


他人に自身の本性を見せるなど、それこそ集団生活を平穏に送る上では時に致命傷となる。

その危険性を一言で説明するならば、シックが自らを『デーモン』であることを明かすようなものだ。


人の本音は自身の印象を下げたり、後々揉め事など起きた際に不利になることが多い。

だからこそ隠しておくのが普通だが、ルタはそうじゃない。

シックを必要としていること以外は読めないが、今読めている部分だけでも十分自分を曝し過ぎているのだ。

まるで、自分を信用出来ると言わんばかりに。



「……つい、半日前に会った男のどこを信用出来るんだか」



思わずそう本音を口にしてしまえば、頭上から唸り声が聞こえ、一瞬だけ頭上に重みが増す。



「何分経った?」


「多分30分ぐらい。もう少し寝てていいぜ、俺はまだ眠くねぇから」



どうやらルタは目を覚ましたようで、シックの気遣いに欠伸1つ返すと「いいよ」と呟く。



「俺もこれで十分だから。つか、もう気の抜けない旅が始まってるんだから、少しは危機感持てよ」



お前がそれを言うかと一瞬シックは呆れるも、溜息を吐いてはこう返す。



「はいはい、分かってますよ。じゃあお前も起きて下さい」


「うん」



そう言うとルタはようやくシックを開放し、2人して一拍空白を置いた。そして。



「「あのさ」」



と声を合わせた瞬間、後方から派手な爆発音が響く。



「——なんだッ!?」



ルタは爆発音を聞いて、即座に後方の様子を見ようと席を立つが、刹那シックの鼻腔を死の匂いが燻ぶった。



「屈め、ルタッ! 銃弾が撃ち込まれるぞ!」


「え?」



瞬間、黒い爆炎を鈍い鉛色が突き破る。

シックはすぐさまルタの頭を抱え込んで、姿勢を低くする。しかし同時に前方のドアが何者かによって突き破られた。



「御用だ! シック・ディスコードはどこにいる!?」


「ちっ、『義賊(ロークス)』の奴らかよ」



2人は息を潜めるが、既に『義賊(ロークス)』の人間2人は列車内に乗り込んでいる。

このまま息を潜めていても見つかるだけだし、彼らが散弾銃を装備している以上、下手に動けばいつ撃ち抜かれるかも不明だ。


なら――と思い、シックはルタを開放して両手を挙げては立ち上がる。



「はいはい、ここにいますよっと。だから、もうそんな物騒なもんを撃つんじゃねぇ」


「貴様か、シック・ディスコードは」


「そうさ。んで? お前さん達は『義賊(ロークス)』の連中かい?」


「無論」



すると、前方後方から数多の銃弾がシックの頭を撃ち抜く。

ルタは驚いて振り向くが、そこには乗客に扮した『義賊(ロークス)』の人間と思わしき女性が同じく散散弾銃を構えており、銃口からは硝煙の匂いが漂う。


だが、ここでルタはシックを庇うような真似をしない。

何故なら、ここまでに来る道中にこんな話をしていたからだ。



「そういえば、お前って死ねないって言ってた割に『デューラ』の首都でのときは抵抗したんだよね? なんで?」



そうルタがシックに尋ねると、シックは目を丸くして吹き出した。



「当たり前だろ。肉を削がれたり頭を撃ち抜かれるのは、物凄い痛ぇんだ。痛い思いをしたくないから、こっちも抵抗してんだ。それに、死ねないからこそ痛みがより苦しい」



なにせ、不死者ならばなにをしても死なないだろうから。

そう言って、何度シックは四肢を千切られたことか。


なにより死と言う終わりがないから、一時的に意識を失ったまま痛みと離別出来る訳でもない。

死にはしないくせに怪我を負えば、回復に時間がかかる。それもあまりに不快だ。


本来『デューラ』の首都で『カレンデュラ』と戦った際に負った傷は、完治まで20年ほど必要だ。

しかし、まだ2年しか経ってない今、傷は表面上に見えていないだけである。


既にシックの内臓はボロボロであり、皮膚の下はもう乱雑にかき混ぜられた粘着性のある泥の塊に等しい。

そして昨晩、『カレンデュラ』との戦いでさらに傷を負って、今も頭に容赦なく銃弾を撃ち込まれた。

このダメージが蓄積されるとどうなるか。その危険性もまたシックはルタに伝えていた。



「ちなみに受けたダメージが一定数を越えると、俺は自我を失って暴走に陥る。不死者だからと言って、便利な訳じゃないんだぜ?」



そう苦く笑う姿があまりにも寂しく、ルタはあのとき泣きそうになった。

しかも今、事態は最悪である。

傍目から見ればシックは死んだと取れるだろうが、昨日でのカジノの一件が『義賊(ロークス)』の上層部に伝わっていたら厄介だ。


それに、『デューラ』の首都でのことを思い返せば、この程度で『デーモン』が死ぬはずがないと誰もが考えるだろう。だから、これだけでは済まされない。

事態は激化する。しかし、自分にはなにも出来ないと事態を悟った瞬間、シックはルタへこう告げた。



「今からこの列車は『カレンデュラ』の連中が襲ってくる。下手に動きゃ、列車は切り分けたケーキみてぇになるだろうな。だから、列車が停止したらそのときは――……」



刹那、シックの言葉を遮るように爆音が響いて列車が揺れる。

今にも線路から滑車が外れそうな中、列車はなにかによって固定された。しかし、列車が無事だと証明された瞬間に、外から車窓の硝子を突き破って雪崩れ込んできたのは銀色の鎧を纏った少女達。


一方、頭蓋が顎しか残っていないシックの顔面は徐々に再生されていく。そんな中でシックは悪態を吐いた。



「……やっぱりな。お前さん達、昨日の一件で『カレンデュラ』の仮面の破片を回収してたのか。確かにそれらを使えば増援信号は出るしな」



そう言うと、シックは窓から脱出し、そのまま線路の外へと出た。



「とりあえず時間だけ稼ぐ! 隙が出来たら、お前もこっちに来い!」


「分かった!」



2人が目配せした後、シックは懐から拳銃を抜き、列車内にいる『義賊(ロークス)』の一員達を目掛けて発砲する。



「俺を殺すんならさっさと出てこい! 安心しろ、『カレンデュラ』達はお前達を殺しやしねぇ! むしろ手助けしてくれるだろうから、さっさとこっちに来いやッ!」



さらに3発弾丸が撃ち込まれるが、『義賊(ロークス)』の一員達は回避したことで頭を撃ち抜かれることを避けた。そして、シックの思惑通り、2人は列車の外へと出た。


その様子を見て、ルタの安全を確認すると、シックは『カレンデュラ』との交戦を開始する。

ルタも一瞬、自身の命の危機かと気が張り詰められたが、少し心を落ち着かせようと息を吐いた瞬間だった。



「え?」



突如首裏に痛みを感じ、背後を見て見れば白衣を着た男がルタの首になにかを打っていた。

薬剤がルタの体内に注入された瞬間、ルタの心臓は大きく跳ねる。

そして、意識を失いかけると同時に、ルタの背後に立つ白衣の男は笑う。



「『デーモン』は実に愚かですねぇ。見通しも甘いし、共通の敵がいれば攻め込む方法など限られると決め込んでいるだなんて。確かに神の使徒は人間を重宝して守りますが、『義賊』(われわれ)にとって人間の価値はないようなものなんでね」



そんな静かな嘲笑に、シックは当然気づかない。

こうして、事態は最悪な方向へ向かっていく。

つい数時間前に立案されたばかりの、たった1つの『魔王討伐』の策によって。



やっぱり静かな列車の旅なんてものは存在しませんでしたね。

本当この場でのカミングアウトで申し訳ないんですが、『デーモン』ってある意味弱点ばっかです。


ただ今のところは蓄積したダメージや怒りのボルテージが上がらない限り、物語冒頭のような悲劇はおきません。

でもそのコントロールが難しいので、シックは「ついやっちゃったんだ☆」と問題行動ばかりを起こしている訳です。しっかりしろ。


なんだかルタが命の危機迎えてるんですけど、ちょっとごめんね。次は戦闘ターンだから。

後、なんでシックが事態を予知出来たかというと、彼もソフィア同様未来視持ちだからです。それについてはまた後程。




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