5.安藤玲子side
「つまり、秀一。貴男は玲子ちゃんという素晴らしい妻がいながら、浮気して相手の女性を孕ませた。ということね。自分が浮気していながらまるで被害者のように振る舞ったと、そういうことよね?」
「か、母さん……」
「あら、違うの?秀一が浮気した女性の元に居る間、鈴木グループの専務夫人がわざわざ玲子ちゃんと一の暮らすマンションに連日訪問。秀一、貴男、玲子ちゃんに言ったそうね『専務夫妻に言いつけてやる』って。それは専務夫妻に掛け合って玲子ちゃんに圧力をかけるって事だったのよね?だから専務夫人が毎日来てたんでしょう?玲子ちゃんが迷惑してるっていうのに、訳の分からない戯言をほざいて言いたい事だけ言って、玲子ちゃんが用意したお茶とお茶受けを好きなだけ飲み食いして帰る始末。随分と御立派な専務夫人だわねぇ」
義母は嫌味交じりで秀一を追い詰めていった。
終始笑顔なのに目が全然笑ってない。漂うオーラもどす黒い気がする。
「で、でも……香織は俺がついてないとダメなんだ。お腹だってこれからドンドン大きくなってくし……」
「そんなの関係ないわね」
「母さん!生まれてくる子供には罪はないだろう?!」
「随分、自分に都合の良い事を言っているけど、秀一。貴男、一の事忘れてない?貴男には今年四歳になる息子がいるのよ?一の事はどうでもいいわけ?」
「でもっ!」
「でもも鴨もないわよ。貴男がどうしても玲子ちゃんと別れて浮気女と結婚するっていうなら、こっちにだって考えがあるわ」
「母さん?!考えって何だよ!?」
「決まっているでしょう。貴男と縁を切るのよ、秀一。今後一切、家の敷居を跨ぐ事は許さないし、財産も渡さない」
「なっ!」
「何を驚くの?当然でしょう?」
「俺は一人息子だ!」
「だから何?」
「財産を受け継ぐ権利がある!」
「私達にも財産を譲る渡す権利があるわ」
「そ、そんなこと言ってていいのか?!老後の面倒みてやんないぞ!!」
「結構よ。息子に老後の世話になろうだなんて思ってもいないわよ」
「母さん?!」
「秀一、お父さんだってそれに賛成しているわよ?」
「なッ?!父さんが?」
もう言葉も無い秀一だった。
そもそも彼は本気で自分の両親の面倒を見る気だったのか疑問だわ。
だって、義実家は仙台にあるのよ?
いつ帰るのよ?マンション購入してローンだってまだ払い続けてるっていうのに……。それともマンションは息子にあげて、私達だけ仙台に戻るって考えだったの?私はてっきり、義両親が寝たきりになったら老人ホームに入れるのだとばかり思ってた。私としては出来る限り仙台の家でお世話したかったけど、前にその話しをしたら義両親から「そんなことする必要はない」って拒否されたし。
まぁ、義両親の場合、老後の心配なんていらないでしょうね。
マンションやアパートを経営してるし。まだまだ若い二人は現役でバリバリ仕事をしてる。義父は大学教授だし、義母は人気の翻訳家。お金に困る事はない。その前に、秀一。あんたマンションの頭金を義両親に出してもらったの忘れたの?貯金ないって言って泣きついたよね?私は寝耳に水でビックリだったし、そうまでして購入する事ないって言ったのに「出世したんだから」っていう訳の分からない理由で買ったんだよね?その事ももう忘れたの?それとも秀一の中では無かった事になってるの?
そういった過去のあれやこれやが多々あるから、義両親が「秀一じゃなくて一に財産を残そう」って言い始めてたし、理にかなっていたから反論できなかった。今思うと、反論しなくて正解。反論する材料もなかったしね。笑ってごまかすのに精一杯だった。




