28.浅田理事長side
「俺もお前や大場の事を笑える立場じゃないが、俺達の世代はまだマシだったぜ。まあ、俺達が原因の世代でもあるがな……ハハハ。特にここ数年は浅成学園の生徒の恋愛のいざこざは酷いもんだ。俺の病院が今回の件を冷静に対処できたのは、もう何十回と対処してきたからだ。生徒同士の傷害、中絶、淫行。俺の病院の顧客は学園のOBやOGが大半だ。その関係で俺は学園の不祥事をお前以上に知ってるんだよ。お前が思っている以上の酷さだってこともな」
「すまん……」
「謝るなよ。お前が知らないのも無理ない事だ。だけどな、もっと面白い話しを教えてやろうか?」
岸はジト目で悪戯小僧のようにニタアと笑っている。…………絶対に聞けば後悔するやつだ。
「お前さ、ガチのマジで聞いた話だから他人事じゃないから気を付けろよ?」
「っ!」
俺は聞きたくないと両耳に手をかぶせたい衝動に駆られるが我慢する。
「伊集院家の令嬢が再婚して子供が出来たらしい。で、再婚相手がどっかの国の貴族出身らしい」
「……は?」
「驚くよな。鈴木の元奥さん、子供が出来たんだ。あれだけ『石女』やら『子供の産めない女』やら言ってたってのにな。鈴木の言葉を鵜呑みにした結果がコレだ。ざまあないな!」
「……」
ちょっと何を言ってるかワカラナイ。
いや、突然「伊集院家の令嬢が再婚した」とか「子供ができた」とか……なんだよ、それ。
子供ができないから離婚したんだろ!?
だから離婚の時に俺達は色々と手伝ったんだ!それが間違いだと!?
「因みに、鈴木の元奥さんの件も社交界では有名だ。当時のフェイクニュースも合わせて俺達を名指して非難している。まともな親なら浅成学園に子供を入学させようなんて思わないんじゃないか?それはそうだろうな。何の瑕疵もない名家の令嬢を寄ってたかって『使えない石女』呼ばわりしている人間達の母校に我が子を入れる親はいないさ。しかも偽の噂を流した事もいつの間にかバレているしな」
「……」
「浅成学園の卒業生は社交界で疎外されてるんだよ。一見そうとは分からないようにな。だから気付いてる奴は少ない。あからさまにされてる訳じゃない分、認識しづらいときてる」
苦笑する岸は、まるで疲れたサラリーマンのように見えた。
何一つ知らなかった俺は岸の話しを黙って聞くしかなく、久しぶりの友人との酒は今までになく苦かった。
ここまで話されて何も感じないわけがない。
勿論、岸の話しを全部鵜呑みにするには現実感がなかった。それでも調べないわけにはいかない。知らなかった頃とは違う。
俺はその道のプロに依頼した。
そして数週間後。
俺は、現実を知った。
今まで知らなかった現実。いや、違う。知ろうとしなかった現実を目の前に突き出された瞬間だった。




