27.浅田理事長side
「大場、結局、奥さんと離婚したそうだ」
「そうか……」
だろうな。
あの後、大場家ではどんな修羅場になったのか想像できない。きっと俺が考えつくような幼稚な修羅場ではない。とんでもない惨劇が起きたのか、それかもっと恐ろしいナニカが起こったに違いない。
「二人の子供の親権も奥さんが取ったみたいだ」
「そうか……」
「養育費と慰謝料を一括で支払わされたらしい」
「はは……」
気の毒だが、奴の自業自得としか言いようがない。
「他に子供がいるから寂しくはないだろう」
「…………なあ、岸」
「なんだ?」
「お前は知ってたのか?大場の件」
「よそに息子が居るのは噂程度なら知ってたさ。ただ、娘までいたのには驚いた。捨てた女が産んでたとはな」
噂になってたのか。
俺はそれさえも知らなかった。…………情けない。
「この分だと他の奴らも似たような感じだろうぜ」
「え?」
「別れた女がコッソリと子供を産んでたかもしれない事だよ」
「ああ……そうかもな……」
酒が不味くなる会話だが、素面では出来ない。
岸には世話になったからな。
持つべきものは友だ。
まあ、岸が実家の大病院を継いでいたお陰で今回の一件が表沙汰になる事はない。
女子生徒の中絶だってそうだ。OBの経営する病院なら口は堅い。
「岸、ありがとな」
「何だ?急に」
「いや、ちゃんと礼を言ってなかったと思ってさ」
「気にするな。ま、お前が知らなかったのも仕方ないことだ。浅成学園は男漁りをする学校って事で相当に有名だ。男の方にしたって女をとっかえひっかえ楽しんでるって評判だからな」
「……どういうことだ?」
「それも知らないか。そうだな。浅成学園の卒業生には情報が入らないようにしてるからな。知らないのは浅田、お前だけじゃない」
「……岸……?」
「社交界の連中は俺達の耳に入らないように徹底してんだよ」
「どうして……そんなことを?」
「決まっているだろ。俺達を笑い者にしてるんだよ。金目当ての馬鹿な女に篭絡されるアホと、クズ男に弄ばれて捨てられて悲劇ぶる女を見て笑っていやがる。若気の至り、若さゆえの過ち、その見本市だと社交界じゃ有名だ」
「…………」
岸には俺が知らない事実がまだまだ沢山あるようだ。
俺はただ驚いて聞くことしかできないでいる。
「目先の効く人間は学園在籍中にさっさと逃げ去ってる。もっと賢い連中なら海外逃亡だ。俺達と同じ穴の狢の筈の高梨が日本に戻ってこないのもそのせいだろう」
返す言葉がなかった。高梨が日本に戻ってこない理由は浅成学園が原因だったのか……。
俺の知らないところで、いや俺が知ろうとしないだけで、様々な事が起き続けていたんだ。愕然とする俺に気付いているだろうに、岸は話し続けた。




