25.浅田理事長side
「今回の一件がなくともいずれは大惨事になっていたでしょうね」
それだけ、最初の『シンデレラストーリー』は良くできた話しだった――――と、大場夫人は言う。そしてそれは、昔話ではない。過去にあった出来事で終わっていない、と言うのだ。
どういう意味だ?
大場夫人の話しを要約すると、二人の事件は何も珍しくないという事になる。
偶々、本当に、今回は、学園内で起こった。だからこそ大騒ぎに発展していただけで、同種の事件が起きていなかった訳ではない。只単に学園が把握していないだけの話しなのだと。生徒の間では、いたるところで日常的に事件の火種は燻っているのだという。
特待生は次のシンデレラを目指してこの学園に入学してくるケースが多く、通常は学生時代の思い出として終わるらしい。順調に交際を続けて結婚までこぎつけられる者は、やっぱり稀にしかいないのだそうだ。
「ですから一部の方々の間では有名ですのよ。普通の名家の子弟子女の家庭は学校の内部を気にしますから。小さな事件も放置して置きません」
この学園が如何に名家の間で「問題児が多く在籍していている学校として有名ですよ」と、大場夫人は言う。まるで怪談を話す様なおどろおどろしい口調だった。
運よく結婚した『現代のシンデレラガール達』の大半がこの学園の卒業者なのだと――
「学生時代はそれなりに祝福されるのでしょうね。何しろ、成功体験者がいますから。けれど世間の目というのは厳しい物です。好奇心でその人達の事を調べてみる者も少なくはありませんもの。そこに悪意があろうとなかろうとその人の行動が調べられSNSで話題になる。何故その学校を選んだのか、お付き合いする切っ掛けは何だろうと色々と憶測が飛ぶ物です」
本当に頭の良い、成功者の子弟は徹底的に素性を隠しますから、逆に好奇の目に晒されても対応する準備は整えている物なのですけどね――と、大場夫人は続けた。
つまりだ。
相手に婚約者や別に恋人がいた場合、例え交際期間が被っていなくともそれだけで非難の的になるのだそうだ。火の無いところに煙が立つとはこの事なのだろう。背筋に冷たい汗が伝わって行くのを覚えた。
これは氷山の一角に過ぎない。
女子生徒の母親。
大場に捨てられて子供を産んだ。その娘が実父の母校に入学して異母兄と知らずに関係をもった……。俺が知らないだけで他にも……。大場の奴だって隠し子の件は知らない筈だ。体の震えが止まらない。俺だって大場達と一緒に遊んでいた。
急に自分の過去の所業を思い返した。
早川の中学時代の友達だと紹介された女達。
それなりに付き合っていたが……別れ話なんてした記憶がなかった。いつの間にか連絡をしなくなってそれっきりだ。当時は別に気にしなかった。自然消滅なんてよくある事だったから。彼女も自然と離れて行ったものだとばかり……違うのか?
俺が考え事をしていた時に、今まで黙っていた女子生徒の父親が口を開いた。




