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22.浅田理事長side

「もうやめて!!」


 女子生徒の母親が叫んだ。

 まるで悲鳴のような叫びだった。


 母親の隣に座っている女子生徒の父親。

 彼の顔も血の気が引いている。


 他の者達――俺を含めた校長、担任教師二人も同様だ。


 どう言葉にすればいいのか分からない――というよりも頭が理解する事を拒否していた。


「めぐ……どう…して……どう…………」


 母親の錯乱ぶり驚いたのか女子生徒は話しについていけていないのか唖然としながら呟くように「お母さん……?」と声を漏らす。


 女子生徒の母親は、まるで糸の切れた人形の様に膝から崩れ落ちると泣きはじめた。


「お母さん!?」


 母親が急におかしくなり、その事に驚き女子生徒は混乱したのだろう。

 彼女は席から立ちあがると母親に近寄り、その肩を揺すりはじめる。「お母さん」と何度も繰り返しているが、母親には聞こえていないのか泣き続けたままだ。


「どうして……?何で……?実の兄妹……?」


 ブツブツと繰り返し、瞬きすらせずに女子生徒の顔をジッと見ている母親。

 そんな異様な母親の側にいるのが怖かったのだろう。女子生徒は母親から離れようと後ずさる。

 椅子を引きずる音を立てながら下がる女子生徒の動きに母親が反応し、口を開きながら両手で女子生徒の両腕を摑んだ。


「何で逃げるのよ!!めぐちゃん!!なんで!?なんで実の兄と関係を持ったの!?」


「は?あ、あに?……え?……久志が……?そ、そんな訳ないじゃない。だ、だって私はお父さんとお母さんの子でしょ?……え……?」


 女子生徒は周囲に助けを求めて周りを見るが、誰も答えようとしない。

 答えられないのだ。だがそれは女子生徒にとって肯定と同じ意味を持っていた。俺だけじゃない。彼女の腹部に注視したのは。


「いやああああぁぁあああぁぁぁあああああああぁぁぁ!!!!」


 母親は発狂したかのように叫びだす。

 もう後は滅茶苦茶だった。

 室内の異常事態に気付いた他の教師達がドアを開けて入って来る。彼らは母親と女子生徒を引き離すと、泣き叫ぶ母親と放心状態の女子生徒を無理やりに抱え退室していった。


 室内に静寂が戻った。

 だが空気は最悪だ。


 誰も動けない。


 そんな中で、やはりと言うか口を開いたのは大場夫人だった。


「静かになりましたね」


 緊迫した空気に似つかわしくない穏やかな声は、大きくはないものの室内に響いた。

 この場を支配している声はどこまでも優しく聞こえた。


「そういえば、この学校で二十年程前によく似た現象があったみたいですね」


 断罪はまだ終わらなかった。

 寧ろ、ここからが本番だと誰が気付いただろうか。少なくとも此処にいる人間は誰一人として思いもしなかった筈だ。

 



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