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45.晃司side

 十年後――



 漸くチャンスが巡って来た。

 ニューヨーク支社への転勤だ。



「え?無理に決まってるでしょ?私にだってお店があるんだもん。急にニューヨークに転勤するって言われても困るよ。『はい、そうでうすか』なんて言える訳ないじゃん」


 (陽向)に転勤の話をした答えがコレだ。


「俺に一人で行けって言うのか?」


「それ以外に方法はないでしょ?」


 あるだろ?方法が!

 俺についてくると言うハッキリとした答えが!!


「あ!でも遊びに行った時はニューヨーク案内してね!」


 何を言われたんだ?

 遊びに行った時だと?

 案内?

 旅行じゃないんだ!

 俺は仕事でニューヨークに行くんだ!!


 それをどうして理解しないんだ!!!


 

「え~~~っ!しょうがないじゃん。私のカフェは今じゃかなり有名なんだから」


「店なんか何処でも出せるだろ!」


 陽向は俺の言葉に逆に驚きを見せた。


「全然!違うよぉ~北海道だから意味があるんだもん。北海道の牧場と契約して生乳を使ったメニューを出してるし、チーズだって地元の物を仕入れてるのよ?」


「……そんなの何処でもいいだろ…‥」


「何言ってんの!北海道産のブランドに価値があるのよ!!」


「ニューヨークに店を持てばいい話だ!カフェなんて何処でも出来るだろう!!」


「だからニューヨークじゃ無理だって言ってるじゃんっ!」


「はぁっ?ムリな訳がないだろ!なんでだっ!?」


「だ・か・ら~~無理!」


「アメリカにだって牛はいる!!」


「不味い牛はいらない!」


「美味しい牛だっているだろ!!」


「バカなの!?日本の北海道産だって事に価値があるの!他じゃダメなのよ!ブランドイメージってもんがあるでしょ!?」


 俺達の話がどんどんヒートアップしていった。


 結局、俺は陽向を説得できなかった。


 仕方なく、俺は一人でニューヨークに旅立った。






 半年後、陽向は本当にニューヨークに観光目的でやってきた。

 嘘だろ?

 誰か嘘だって言ってくれ……。


 唖然とする俺に気付く事のない妻。

 楽しそうに観光案内を頼む妻。

「ここに行ってみたい」と当たり前のように言う妻。



 俺の事を心配する様子はなかった。

 一人暮らしとはいえ、身支度を疎かにはしていない。それでも普通は気にするものだろう!?心配するだろ?……それが全く無かった。陽向が分からない。

「次は友達も一緒に連れてくる」と言われた時は何と返事をしたのか覚えていない。

 ただ、上機嫌で帰っていく陽向を理解できなかった。



 この女はダメだ――そう思った。





 今になって思えば、違和感が沢山あった。

 結婚後、何度、陽向に苛立ったか分からない。

 付き合っていた時には感じ無かった何かを感じ始めた。

 最初は漸く結婚できた達成感の表れと流していた。

 だが、陽向が失敗するたびにイライラが募っていく。


 愛している女だというのに……。

 毎日がドロドロとへばりつくような気持ち悪さだった。


「なんで、こんなこともできないんだ?」「お前はバカなのか?」「俺達の会話が何故理解できないんだ!」と、俺は心の中で陽向を罵倒し続けてた。


 それは恋人だった頃には全く感じなかったモノだった。

 恋に浮かれていた俺は気付かなかったのだ。


 もっと気にするべきだった。

 もっと早く気づくべきだった。


 生活を共にする上で何が大事なのか。

 可愛い恋人が最高の妻になるとは限らない。

 見落としてはならなかったんだ。

 それを俺は見落としてしまった――だからこうなった。



 ははっ。

 早く気付くべきだった。

 この女(陽向)は人の表面でしか判断できないんだと。

 人間には表と裏がある。

 その裏を理解しない、できない、分からない。取り繕う事も出来ないから「身勝手な女」と思われる。


 愛情深い女だ。

 それに嘘はない。

 だがその愛情は「自分優先」の上で成り立っていた。





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