35.兄の助言1
離婚して一年で鈴木家が表舞台から姿を消す事なんて想像していませんでした。
何なんでしょう?
急展開過ぎませんか?
鈴木家と共に潰れる事を考えれば当然の処置でしょうが……。
お兄様は私によく言ってましたわ。
そう、あれは私の婚約が決まった時の事――
『いいかい、桃子は将来鈴木家の社長夫人になる。そのために今から色々と勉強しなければならない。あちらの会社についてもそうだが、経済、経営学についても学ばなければならない』
お兄様が私のために言ってくださった事でした。
ですが、これは経営者になるための勉強です。嫁ぐ私はそこまでする必要はありませんでした。そもそも鈴木家が私に望んだ事は『そういうこと』ではありませんでしたし……。ただ、当時の私はその事に全く気が付くことができませんでしたわ。
『どうやら晃司君は“俺様キャラ”のようだ』
『お兄様?晃司様が“俺様キャラ”とはどういうことですか?』
『うん?桃子はアニメや漫画を見ないのかい?』
『まさか!大好きですわ!日本が世界に誇る文化ですもの!!』
『はは、それはよかった。“俺様キャラ”とは高飛車な物の言い方をしたりして何かと我がままなお坊ちゃまだ。それに設定上ではカリスマのリーダーだったりする事が多いね。親に反発しているのにそれを親に言えない。だから外でそれを発散するんだ。この場合、行動的で積極的だから、更に仲間や賛同者が多く出来る。厄介な事だ』
『厄介ですか?』
『ああ、もしもだ。もしも晃司君が桃子に対してパワハラ発言をしたとしても周りは「愛しているから素直になれない」「恥ずかしがっているんだ」と擁護する。桃子が本気で嫌がっていてもだ。晃司君は分かり易い“俺様ツンデレ”だからね』
『は、はい……?』
『つまりだ。ただの“俺様キャラ”ならまだしも“ツンデレ要素”まで入ったメンドクサイ人間だという事だよ。だからね、桃子は晃司君とは別の人脈を作らないといけない』
お兄様は心配性でした。
それは他家に嫁ぐ妹を思っての事でした。
思い返せば、その頃からでしょうか?私と同年代の貴族子女との交流が盛んになされたのは――
『桃子も、もう高校生か……。月日が経つのは早いものだ』
『お兄様、お年寄りみたいですわよ?』
『ははっ、ついね。そういえば晃司君も高校生だったかな?』
『はい。同じ歳ですから。それよりもお兄様、妹の婚約者の年齢くらい覚えておいてください』
『すまないね。どうでもいい事は忘れてしまうのは私の悪い癖だな。さて、それよりも今後の事を話そう』
『今後の事ですか?』
『そうだ。いいかい、桃子。思春期の男は、発情期の猿のような存在だ。迂闊に晃司君と二人っきりで会ってはいけないよ?何をされるか分かったものではないからね』
『お兄様……、それは暴論すぎます』
『いや、あの手の男は何をしでかすか分からないものだ。用心に越したことは――』
この頃のお兄様は何かと晃司君を目の敵にしておられましたわ。その事が私の婚約に関係ある事とは思えましたし……、それに私はお兄様のご忠告通り晃司君にはあまり関わりを持ちませんでした。とはいえ、互いに忙しい身です。しかも物理的な距離がありましたので気楽に会う事はなかったのです。
それが、まさかあんな事になるなんて……。




