31.兄side
≪≫電話
鈴木家のバカ坊が女に狂ったのはどうでもいい。
こちらとしては終わった事だからだ。
それなのに鈴木家ときたら「もう一度チャンスを!」と言って付きまとってきた。
「あの家の者達は揃って愚か者揃いだ。恥と言う概念を知らないのか?それともウチの妹を馬鹿にしているのか?」
≪それぐらい後がないって事ですよ。社交界で爪弾きにされて、会社は落ち目状態。なりふり構ってられないんでしょう≫
「人の妹を都合の良い女扱いしようとしている奴らがどれだけ転落していこうとも一向に構わん。何故、復縁できるのかと思うのか……あの息子の親だけあって意味不明の思考回路だ」
≪まあまあ、落ち着いてください。それはアレですよ≫
「なんだ?」
≪お嬢様は長年自分の息子にベタ惚れだったから、まだイケると思っているんでしょう≫
「……離婚の話し合いの場で桃子の目を見なかったのか?汚物を見るような眼差しだったぞ?」
≪そういった都合の悪い事は忘れているんじゃないですか?それか、伊集院家の指示で離婚に承諾したとでも考えてそうな連中ですからね。伊集院家の許可があれば、と思っているんじゃないですか?≫
あの冷ややかな微笑みを見ておきながらそう考えられるとは……ポジティブと言うよりも気持ち悪いな。
「妹を蔑ろにし続ける浮気男と二度も結婚など悪夢でしかない。百歩譲って桃子があの男を愛していたとしても絶対に元サヤになる事だけはあり得ない。不幸になるのは目に見えているからな」
≪全くです。……それにしても≫
「なんだ?」
≪いえ、彼女も昔と違って随分変わったと思いましてね。鈴木晃司と早川陽向。この二人の関係を知り、その仲を妨害しなかっただけで此処まで変化する、など予想外でした≫
「まあな。嬉しい誤算だろう?」
≪はい、とっても≫
「まあ、前も最終的には奴らに引導を渡した形だったがね。それでも桃子が回復するまで数年が必要だった……」
≪自分の夫が浮気をしたんです。相手に対して怒るのは当然でしょうに……≫
「ああ、あの子も行き過ぎたところはあったにしても、彼らの行為が許される訳がない。泥沼の離婚劇を繰り広げた桃子は精神的に参ってしまった。私はね、あの連中が桃子に言ったセリフを今でも覚えているよ。決して忘れはしない。それは巻き戻った時間軸にいたとしてもだ」
前の時、妹はあの男と離婚したがらなかった。
幼い頃からの婚約者を心から愛していたからだ。