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12.とある弁護士side

 招かざる客がやってきた。

 昔の友人。いや、元友人だ。


 よくもまぁ、私の前に姿を現せたものだ。この図々しさは若い頃から変わっていないらしい。


「それで?用件はなんだ?」


 私は苛立ちを隠す事なく問う。

 しかし、目の前の人物は全く気にする様子もなく答えた。


「冷たいじゃないか。友人との久々の再会なんだ、もっと喜んでくれてもいいのではないか?」


 白々しいにも程がある言葉。誰が喜べるものか。こいつは私の大切なものを傷付けたのだから。

 私は感情を抑えながら言う。


「なにが友人だ。ふざけたこと抜かすと、殺すぞ。お前が私になにをしたのか忘れたわけじゃないだろう」


「……」


「都合が悪くなると黙る癖も相変わらずだな。用がないなら帰れ」


「…………妻とは別れた」


「そうか」


「息子の晃司はもうダメだ。精神病院に通わせているが、最近は暴れまわるばかりだ。私が何をしてもダメだった」


「それは気の毒に」


 この男は何を言っているんだ。そんな事で、私を呼びつけたのか?ふざけているのか?

 だいたい息子が精神的におかしくなったから、なんだというんだ。

 私は医者ではない。そんな相談に乗る気はないし、話を聞くつもりもない。

 そんな私の心中を察してか、目の前の男は言った。


「晃司では鈴木家の復興は無理だ。あれは完全に壊れてしまっている。……甘やかして育てたつもりはないが……挫折を知らなかったせいで心が折れたままだ。あれでは、なにもできない。……裁判所でお前のところの若い弁護士を見た。いや、見たというより相手側の弁護士だった。…………息子に、晃司に似ていた。若いのに随分威圧感を感じた。よほど優秀な弁護士なのだろうな」


「私のところのホープだ」


「法曹界のプリンスだと噂になっているのを知った。……私の子だろう?」


 やはり、この話か。

 くだらない。実にくだらなさすぎる。


「お前の子じゃない。妹夫婦の息子だ」


「妹……夫妻……?彼女は結婚したのか?あの子は……私の子なのに……?」


 どこまでも図々しい男だ。

 お前のせいで妹がどれほど苦しんだか分かっているのか?それなのに、まるで他人事のような物言いをする。

 ああ、吐き気がする。


「当たり前だろ。産まれてくる子供には父親が必要だったんだ。結納まで交わした婚約者がある日突然『婚約をなかったことにしてくれ』と一方的に破棄してきた時、妹はお前の子供を妊娠していた。お前、その時なんて言ったか覚えているか?『俺の子供とは限らない』と言い放ったんだ。その後すぐにお前は銀行の頭取の娘と婚約した。そのことも忘れたか?それとも自分の都合の悪いことは忘れてしまったか?」


「……そ、れは……」


 この男は本当に昔からクズだ。最低の人間だ。

 元々妹と婚約したのだってうちの家が旧家だったからだ。

 旧家といっても元華族でもなんでもない。地方の旧家だ。

 それでも地元の名士であった田上家を、こいつとその父親は自分達の会社を大きくしたいという理由だけで結ばれたものだ。

 地方の旧家の娘よりも大手銀行の頭取の娘を選んだ。それだけの話だ。

 結局、この男は自分の出世のために妹の人生をめちゃくちゃにした挙げ句、銀行頭取の娘と結婚するために妹と胎の子を切り捨てた。




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― 新着の感想 ―
[一言] クズさは親譲りなのね。
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