15.精神科医side
中々興味深い子が患者になったものだと思いカルテを閉じた。
中島里香。
私の新しい患者。
精神疾患、精神異常、心の病気。
警察は彼女を「心神喪失によるもの」として立件した。
親に愛されなかったため、心の均衡が崩れているのだと。
学生時代の問題の数々が何よりの証拠だと。
彼女の弁護士も、それを全面的に推し進めて裁判に望んだ。
ただし、私の目には彼女は正常に見えた。
医者であるからこそ分かる。彼女はまともだと……。少し人より解釈の仕方が違うだけ。異常でもなんでもない。多少、人より頭が良い子。
彼女に悪意はない。
「面白そうだったから」と言ったのは本当だろう。
薬の売買も「お金になるから」といった単純なものが動機。
火遊びにいしては危ない橋を渡っている。
それでも彼女なりの考えがあるのも確かだった。
今回はたまたま全てが一気に重なり合ったからこそ、彼女は警察病院に入れられただけ。
これが一つだけだったなら、彼女はここには居なかったはず。それは彼女自身が一番よく理解しているはず。
きっと「運が悪かった」としか思っていない。
何が悪かったのかもあまり理解していない。
彼女が法に触れたのは「薬を売買した」事実だけ。
他の事は、道徳に反していても法に反した訳じゃない。
それは彼女の中で罪ではない。
あれだけの人達を不幸にしても平然としていられる精神。
それを人は異常だというのだろう。
随分、放任主義のもとで育ったものだと報告書を読んで感心した。
ここまで親子関係が希薄というのは珍しい。
全くないとは言い切れないけれど、実際に起きた例を見たのは始めてだった。
本当に興味深い。
是非、論文で発表したいものだと思う。




