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前編




 我が国の王太子殿下は、やる気がない。

 主に恋愛面に対して、驚くほどにやる気がない。

 だから、こうなったらしい。


 ――――カランカランカラン!


 司会者が全力で金色のハンドベルを鳴らしている。

 おーめでとうございます! 特別賞です! おめでとうございまーす! なんて叫んでいる――――。




 今日は年に一度、王族が主催する『未婚の男女を対象とした夜会』だった。いわゆる貴族たちの婚活パーティー。

 いつもは普通の招待状なのに、今回は『できる限りのご参加を』、『大変豪華な景品を用意しております』と書いてあった。

 十代の頃、何度か参加してみたけれど、焦げ茶色のショートヘアーと焦げ茶色の瞳という普通な見た目と、男爵家という貴族とはいうもののほぼ平民と変わりなく生きてきた私が参加しても、全くと言っていいほどに見向きもされない。


 すでに二十三歳。更に見向きもされないことこの上なしなので、今回も不参加を決め込もうとしていたけど、招待状の文言につられてしまった。

 王族主催で『大変豪華な景品』と銘打つということは、ガチで凄いんじゃ!?と。




 夜会が始まり、立食や歓談、ダンスなどが行われた。

 いつもどおりの夜会。

 絶賛婚約者募集中である、()()王太子殿下もいつもどおり渋々とご参加されていた。

 ちょっと違うのは、参加者がかなり多いこと。たぶん三百人近くいる。例年はその半分くらいらしい。


 殿下は今年で二八歳、そろそろ結婚か!?と言われているが、過去に隣国の姫君との……なんというか盛大な婚約破棄があり、結婚になんの希望も(いだ)けないとかなんとかゴシップ紙に書いてあった。


 壁の花となって会場内を眺めていたけど、モテてはいるんだよねぇ。ちょいちょいうら若き乙女な十代のご令嬢たちが突撃をかましてるし。

 見た目が功を奏している可能性は大きいと思う。

 サラサラの銀髪ロン毛は、どこのお姫様なの?ってくらいに輝いているし、瞳は遠くから見ても透き通った海のように青く輝いて見える。


 殿下は物凄く迷惑そうな顔してるけど、王族があそこまで顔に感情出すのって、どうなんだろう?

 驚くほどにご令嬢たちに伝わってないからいいのかな?


 国政面ではかなり優秀なお方らしく、陛下はだからこそ早めに跡取りをと願っているのだけど、王太子殿下が頑として首を縦に振らないのだとか。

 理由は、面倒くさい。

 …………って、まぁ、これもゴシップ紙に書いてあったんだけど。


「今宵の特別な夜会にご参加のお嬢様方! 入り口で渡されたカードを手元にご用意ください!」


 司会者が会場に響き渡るよう、聞き取りやすい声で何度か同じセリフを叫んでいた。

 

 ドレスの隠しポケットから、入り口で渡された金色のカードを見る。入場の際に、決まった相手や意中の人はいるかと聞かれた。どうやらそれによって景品が違うらしく、ここで虚偽を言うとなんだか大変なことになるとまで言われた。

 『決まった相手も恋する相手もいない』という、虚しい宣言を公衆面前でする羽目になったのを思い出し、危うくカードを握りつぶしそうになった。

 

「ピンクのカードを渡されたお嬢様方は、こちらにお並びください」


 想う相手がいると言った人たちは、ピンクのカードだった。

 景品は箱に入れられたくじを引いて抽選するらしい。

 何人かハズレが続き、『小当たり』が出た。景品は、私的には高価で中位貴族的には安価くらいのジュエリーセット。

 『中当たり』は、中級貴族には高価だと思えるジュエリーセット。

 『大当たり』は、王都で大人気の宝石商でフルオーダーしていいというものだった。金額的には上限があるものの、いやその金額に届くか?というくらいガバガバな金額設定だった。

 そして、『特別賞』は……まさかの、王妃殿下が結婚式の際に使っていたジュエリーセット。天文学的価値と金額。


 特別賞に当たった伯爵家のご令嬢は、叫ぶほどに喜び、感涙していた。

 宝石類の景品、ちょっと本気で羨ましかった。私も意中の相手がいるって言えばよかった。


「ではでは、本日のメインイベント! 金色のカードをお持ちのお嬢様は、こちらにお集まりください!」


 先程の景品を見ていたので、色めきだった乙女たちがワッと集まりだす。五十人くらいいそう。

 こういった会場で私はわりと上の年齢になるため、若い子たちにチャンスがあったほうがいいだろうと思い、そっと最後尾に並んだ。


「先程は、景品を伏せていましたが、今回は先にお見せしましょう!」


 会場が沸く。それはもう黄色い声で。男性陣もわりとザワッとしていた。

 それもそのはず。

 景品として()()したのは、名だたる貴公子たち八人。

 国一の財を成していると噂の伯爵家の次男や、侯爵家の嫡男、公爵家の三男、主要な役職についている武官と文官たちだ、と司会者が説明した。

 全員、顔面偏差値の凄いこと凄いこと、会場中がきゃあきゃあと乙女たちの騒ぎ声で満たされていた。


 ――――景品ってどういうこと?


 一日デート権とかだろうかと考えていたら、司会者の言葉に会場が大熱狂に包まれた。


「こちらの素敵な男性陣のお名前が書いてある紙を引けば――――結婚確約です!」


 ――――まじですか。


「あっ、もちろん全員、諸々の審査にはクリアされ、身綺麗な方々ですよ?」


 ちょっと笑ってしまった。

 しかしそれで結婚もなぁと思わなくもない。相手にも申し訳ない気がするし。性格とか致命的に合わなかったらどうするんだろう?

 頭の中に参加辞退という文字が浮かびかけた時だった。


「ハズレの方は、王城が責任をもってお見合いの斡旋を行います」


 ――――まじですか。


 両親が結婚しろ結婚しろとうるさいけど、地位的に相手探しに難航していたこと、そんなに興味がなかったこと、色々と重なって今まで放置していた問題が解決するのでは?となり、打算的に参加することにした。


 三十人過ぎたところで、景品の男性陣が半分になった。

 四十人近くが済んで、残り二人。

 私の番になっても残り二人。

 なんか気まずい。


 司会者が差し出す箱に、えいやっと手を入れると、わりと紙が入っていた。なんだ、結構残ってんじゃん! いでよ、ハズレ! ウェルカムお見合い! なーんて、願いながらクジを引いたのに。


 ――――カランカランカラン!


 司会者が全力で金色のハンドベルを鳴らしている。

 おーめでとうございます! 特別賞です! おめでとうございまーす! なんて叫んでいる。


 引いた紙の中には『アロイス王太子殿下』と書かれていた。


「最後の最後で特別賞が出ましたぁぁぁ! アロイス王太子殿下です! 王太子殿下の婚姻が決定いたしましたぁ!」


 会場が大歓声に包まれているが、待ってほしい。賞品と呼び込まれた男性陣の中に王太子殿下いなかったじゃん。


「殿下、ご登場お願いいたします!」


 王族を呼ぶには雑じゃなかろうかという呼びかけで、気だるそうな顔で現れた王太子殿下。

 私の前まで歩み寄ってこられ、すっと跪かれた。


「へ?」

「チョコレート色のご令嬢、お名前を伺っても?」


 ――――チョコレート色!?


「こ……コルベルト男爵家タチアナにございます」

「タチアナ嬢。末永くよろしく頼む」


 右手を取られ、手の甲にキスを落とされた。




 ◇◇◇◇◇




 あの夜会から一年。

 私の後ろには、ガッチリしっかりギュムムムと抱きついてくる背後霊……じゃなかった、王太子殿下がいる。


「やっと結婚式だな」


 衝撃的な出逢いから、私達は色々あった。

 本当に色々――――。

 



 結婚相手が抽選で決まるという衝撃の夜会の翌朝、王太子殿下御一行が我が家を訪れた。

 夜会の翌日は普通お昼くらいから訪問すべき、とかいう貴族的ルールがあったはずなんだけど。

 両親とともに出迎えサロンに案内した。

 ソファにどかっと座り、長い脚を組んで「タチアナ嬢と二人で話す。二人は退室を」と両親に言っていた。

 態度でかいな。いや、王太子だからそれでいいんだけど。

 

「タチアナ、すまないが私は君が求めるように君を愛することはないだろう」


 私がどう愛されたいのか知りもせず、謎の宣言をしてくる王太子殿下。この人は極度の人見知りか何かだろうか? それとも男色? あ、多分それだ。


「それは別に構いませんが。白い結婚は王太子殿下としては大丈夫でしょうか?」

「白……? いや、子は成すが」

「あ、そうなんですね。承知いたしました」

「…………ちょっといいか?」


 王太子殿下も私も怪訝な顔になった。




「……なんでそうなる」

「いえ、結婚したくなさそうだったもので」

「愛だ恋だと、頭にウジの涌いていそうなのが嫌だっただけだ」


 軽やかに失礼な人だな。

 ただ、思ったより話しやすそうではあるけど。


「取り敢えず伝えたかったのはそれだけだ」

「承知いたしました」


 結婚式は国を挙げて行うので早くとも一年後くらいになる、とのことだった。

 取り敢えず時間が惜しいので帰る、また一年後に、と言われて呆れ返ってしまった。

 ようやく、あれがなんのための抽選会だったのか、理解した。


 殿下は相手は誰でもよかったのだろう。

 ただ、誰かの推薦や紹介での婚姻になると、政治的なものが絡んでくる。他国の姫君の時のように国同士のなんやかんやで駄目になることもあるだろうし…………。

 あ、姫君を心から愛していて、それ以外はどうでも良くなったパターンを考えていなかった。


 なんとなく、お腹の中にモヤを抱えつつ、両親とともに颯爽と去っていく王太子殿下御一行を見送った。




読んでいただき、ありがとうございます!

後編はお昼ごろに投稿します。


ブクマや評価などしていただけますと、作者のモチベに繋がります。そして、笛路が小躍りしますヽ(=´▽`=)ノ

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