表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

第八話:高橋さんに黒いセクシーなニーハイストッキングを履いてもらって撮影する

 さて、翌週、約束の日。

 また、平日の午後。


 高橋さんのアパートに行って、ドアチャイムを鳴らす。

 なかなか出てこない。

 居ないのかなあと不安になった頃、ご本人様が出てきた。

 顔もすっぴん。

 でも、やはり美人ですなあ。


「こんにちは、佐藤です」

「……こんにちは」


 なんか元気ないな。

 憂鬱そうだ。

 そう言えば、この人、心の病だったな。

 精神薬を飲んでたもんな。


 俺は心の病ってよくわからないんだけどな。

 一応、メンタルヘルスの本は読んだのだが、いまいちピンとこなかった。


 ただし、大学時代に同級生で精神科に通っていた人がいた。なんだかいつもぼんやりとしていたなあ。顔に感情が現れない。なんかロボットみたいだった。結局、休学しちゃったっけ。外見ではよくわからなかったが、結構つらいものなんだろうか。高橋さんもどうも投げやりな感じが見られる。薬の影響だろうか。


 高橋さんが手を差し出す。


「買ってきたんでしょ、ストッキング。変態の佐藤さん」

「あ、はい。こちらでございます」


 ストッキングの入った袋を手渡す。


「じゃあ、ちょっと待ってて。着替えるから」

「あ、ミニスカでお願いしますよ」


 なぜかため息をつく高橋さん。


「わかってるって。焦らないで」


 変態の相手は疲れるなあって感じかな。

 こちらがウキウキ気分で外の廊下待っていると、なかなか出てこない。

 三十分程待たされる。

 やっぱり断られるのかなあと思っていたら、しばらくしてドアが開いた。


 おお、素晴らしい。

 黒いミニスカ姿でエロいニーハイストッキングを着た美しい高橋さん。ウッヒョー!

 わずかに見える絶対領域の肌も美しい。ナイス! ナイス! ナイス!


 そして上は白色のニットのセーター。

 胸が盛り上がっていて、いやあ、もう最高! ビューティフル! グレート! パーフェクト! イエーイ! まあ、何度も言いますが、胸も好きですが、脚の方がもっと好きでーす。それにしても、もしかして俺は今、女神様に会っているのかな。このまま、異世界へ行くのだろうか。


「よくお似合いです! 素晴らしいですよ、美の女神様ですよ、高橋さんは! マジ、天使! ビューティーフォー!」


 女神と呼びながら天使と言ったりめちゃくちゃですな。

 けど、もう、俺は褒めまくり。

 本心で褒めてた。


 いや、マジで美しい。

 けど、俺、こんなに女性を面と向かって褒めたことってないな。

 小心者なのに。なんでこんな発言出来るのだろう。

 うーん、わかった。それだけ高橋さんが美しいってことだな。


 しかし、本人は戸惑い気味な感じ。


「ちょっと変態の佐藤さん、家の中に入ってよ」

「え?」

「だって、こんなストッキングとは思わなかった。ちょっと過激過ぎるわよ。アパートの外の廊下で撮影なんて出来ないわ」

「けど、いいんですか」

「いいわよ」


 え、マジですか。

 ありゃ、こんな変態男を家の中に入れてしまうとはなんて豪胆な女性なんだろうか。

 けど、ちょっと緊張している感じもする。

 当たり前か。


「では、失礼いたします」


 ヘイコラしながら何度も頭を下げつつ、俺はきょどりながら高橋さんの部屋に入った。


 1DKの部屋。

 中に入るとなんかスカスカな家だなと思った。必要最低限の物しか置いてない。

 ベッド及びソファ、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、洋服箪笥、小さい机、小さい本棚。小さい机にはビデオカメラが置いてある。YOUTUBEに周辺の綺麗な風景でもアップしてんのかね。まあ、最近はスマホ一台あればなんでも出来るけどね。部屋の隅にプラスチックケース。全体的に小型のが多いね。後、妙にデカい鏡。身体全体が映せる。ファッションチェックでもしてんのかな。ベッドの上にはデカい抱き枕。抱き着いて精神を安定させようとしているのかね。ベッドの横に小さいキャビネットがあって、化粧筆やら電動毛穴吸引器とか電動歯ブラシとかがたくさん置いてある。ベッドで化粧したり歯磨きしてんのかな。低周波治療器もある。肩が凝ってんのかね。精神病には血流が悪くなって肩が凝る人が多いって話も聞いたことがあるような。


 白い壁にはなにも飾ってない。

 おっと、ベッドの下にブランドバックがたくさん置いてある。安いアパートに住みながらブランドバックを多数所有。やはり今時の若い女性ですな。


 高橋さんは部屋の奥へ行って、カーテンを開ける。

 おお、日光を入れて撮影しやすくしようとしているのか。

 ありがとうございます。


 そんな風に思っていた俺は玄関の段差ですっ転ぶ。鈍臭い俺。


「あ、大丈夫」と高橋さんが近づいてきた。

「あはは、すみません。それにしても、ずいぶん整理された部屋だなあと思って。俺のゴチャゴチャした部屋とは大違いだなって」


 すると高橋さんは、例のちょっと投げやりというか憂鬱そうな表情で言った。


「少し前までいわゆる汚部屋だったんだけどね」

「汚部屋ですか」

「それで、母が怒って全部ゴミを捨てちゃったのよ。その後はなんとか頑張って掃除しているけど。まあ、いつか元通りになるかもしれないけどね」


 心の病で部屋の掃除も出来なかったのかなあ。

 そんな事を考えていたら、高橋さんが切り出した。


 なぜか両手を後ろに回している。

 そんな格好をしているからデカい胸が突き出てますますエロい。

 いや、わざとそんな格好を俺に見せつけているのか。

 俺、卒倒しそうだ。


「ねえ、今回はあなたの言う通りミニスカート姿にこんな恥ずかしいストッキングを履いてるんだから、一枚三千円にしてくれないかなあ」


 高橋さんがちょっと上目遣いで言った。

 なんだ、値上げ交渉のためデカい胸を見せつけてんのか。ハニー・トラップかね。


 一枚三千円。きついなあ。値上げかあ。前回千円だったから、三百パーセントの値上げだ。ハイパーインフレ状態。ジンバブエかよ。最近の物価上昇にあわせたのだろうか。それともブランド品ばっかり買っていて金欠病を発症しているのか、高橋さんは。財政難ですかね。


 自分の財布の中を見ると十万円入ってた。

 確か、先週おかんが俺がやっとバイトを始めて、とりあえず続けているので、応援のためとかでお金をくれたんだよな。おかん、すまん。よし、使っちゃえ。とは言え、全額は使わない。二十枚分だ。六万円。でも、これでいいんだ、青春は二度と戻らない! 盗撮魔の青春も二度と戻らない! 若者よ、完全燃焼しよう! 盗撮はもうやめたけどね。


 まあ、俺の年齢じゃあ、もう青春じゃないけどね。それに実際の青春時代は成績悪い、女にもてない、友達は少ない、特に大学時代はぼっちと悲惨なもんだったけどなあ。おっと、俺の青春なんてどうでもいいや。高橋さんの美しいおみ足に集中しよう。あと、胸。ついでに腰のくびれ。


「わかりました、三千円で二十枚お願いします」

「あ、そうですか」


 なぜか下を向いて、あんまり嬉しそうじゃないな、高橋さん。自分で値段を上げといて、不思議だ。わかったぞ。「意外と簡単に承諾しやがったな、この変態男め。ちぇ! だったら、もっと単価を上げときゃよかったわ」って思ってんだな。清純タイプと思わせといて、蓮っ葉な人だな。まあ、ええわ。


 それで、部屋の白い壁に高橋さんが立つのだが、ちょっとよろける。ニーハイストッキングのせいで滑ったのかな。

 思わず、声をかけた。


「大丈夫ですか」

「ち、近づかないで!」


 高橋さんがビクビクしている。


「あ、いや、決して変な事はいたしませんので」


 なんだか高橋さん、えらく緊張しているな。

 蓮っ葉で気が強く、男を手玉に取るのが得意って感じもしなくはなかったんだが。


 俺の事を怖がっている。こっちは乱暴とかする気は全然無いのだが。

 この安っぽいアパートなら大声を出せば隣近所に丸聞こえのような気もするし。

 だいたい、俺のようなヒョロヒョロ男は股間蹴りで一発撃沈だと思うがなあ。


 で、撮影開始。前回と同じで顔は絶対にNG。一枚撮影したら高橋さんが確認するのも同様。部屋がスカスカなので基本は白い壁をバックに撮影することにした。


 とりあえず、立って壁に寄りかかり、片膝を曲げて足の裏を壁につけたポーズ。

 いやあ、目も前にミニスカートでセクシーなニーハイストッキングを履いた女性がいる。

 最高だ! 思わず口に出た。


「最高! エークセレント! ワンダフォー! もう綺麗、素晴らしい、高橋さん、最高に綺麗! 綺麗すぎ! 日本で一番、いや世界で一番!」


 そんな俺を見て、あきれ顔の高橋さん。


「……大げさじゃないかしら」


「いや、本当に綺麗ですよ、究極の美、マジ綺麗、美人、高橋さん、もう美の女神! 綺麗すぎ! ノーベル美人賞もんですよ。もう、俺この場で死んでもいいです! ヒャッホー!」


 苦笑する高橋さん。


「……まあ、褒めてくれてありがとう」

「いや、褒めるしかないですよ、こんなに綺麗なんだから」


 その後、いろいろと適当にポーズを撮ってもらった。横座りになったり、床にペタンといわゆる女の子座り、床に座って少し片足を上げてもらったり、体育座り、中腰になって両手を膝に置いたりといろんなポーズを取ってもらう。但し、下着が見えるのはNGと。


 しかし、やや平凡だなあとますます欲が出てくる神聖変態帝国皇帝の佐藤健二。

 変態もパワーアップ!


「高橋さん、もし、よろしければ後ろ向きになってくれませんか、あ、嫌ならやらなくていいですけど」


 高橋さん少し悩む。

 前回の外での撮影でも困ってたなあ、彼女。


「まあ、しょうがないわね……」


 高橋さん呟くように言って、後ろ向きになってくれる。ウヒョー、お尻もサイコー! 

 変態もヒートアップ!


 こうなると、ますます調子に乗る神聖変態帝国皇帝。

 前回やってくれなかったポーズにトライだ。

 ニュージーランドのラグビー代表も吹き飛ばす変態トライ!


「出来れば、壁に手をついてちょっとだけお尻を突き出すってどうですか。ちなみに、これは芸術ですよ、芸術。最高の芸術作品。あの何度も言いますけど嫌ならいいですけど」


 高橋さんえらい悩んでいるが、結局、ポーズを取ってくれる。うわー! 最高! セクシー!

 ミニスカートから絶対領域を経てセクシーなニーハイストッキングまで流れる美しい線。

 騒ぎまくる俺。


 そして、もっと欲が出る変態佐藤健二。

「高橋さん、もう少し、こう綺麗なお尻を突き出して、もうちょっと脚を開くってのはどうでしょうか。もう絢爛たる壮麗な芸術作品ですよ、芸術作品。嫌ならいいっすけど」

「……もう、しょうがないなあ」


 ブツクサ言いながらも、俺の言う通りのポーズを取ってくださる高橋女神様。

 もっともっと騒ぎまくる俺。


「くううう、もう高橋さん、宇宙で一番綺麗、ハイパー・ゴージャス・レディー!」


 そんな俺を見て、アホかって表情を見せる高橋さん。

 ちょっと、笑ってるけど。

 まあ、実際、俺はアホですな。

 

 そんで、続いて椅子に座ってもらって脚を組んでもらう。その間、俺は綺麗、綺麗と連発。一万回くらい言った気分。けど、実際、綺麗なんだよなあ。


 しかし、もっともっと色っぽいポーズも欲しくなった。怒るかなと思ったが、ちょっと頼んでみた。さすがに怒り出した高橋さんから飛び蹴りをくらいそうな要求だ。


「あのー、すみません、よろしければ四つん這いになってくれませんでしょうか。あ、何度も何度も言いますが嫌ならいいですけど」


 一瞬、高橋さんがぎょっとした表情を見せる。しかし、ちょっと長々と悩んだ後、まあいいやって感じで椅子から降りる。やはり投げやりな感じが少しした。なんか悩みでも抱えているのだろうか。まあ、精神病ではあるが。


「……お金貰ってるし、変態の佐藤さんの頼みじゃ、しょうがないわね」


 ちゃんと四つん這いのポーズを取ってくれる。うわあ、いい人だなあ。

 まじ、女神様じゃないのか、この人。

 最後の一枚だ。よし、えい、もっと甘えちゃえ。


「最後の一枚ですが……高橋さん、お尻を高く上げてくれませんか。出来れば頭はもっと下げて。ちなみに、これはアートですよ、アート。アンディ・ウォーホルも真っ青のアートですよ」


 さらにびっくりした顔をする高橋さん。なんか動きが止まった。

 あれ、この間みたいに身体がちょっと震えている。

 顔が上気しているぞ。ついに怒ったか。顔面に飛び蹴りくるか。

 俺の変態人生も終わりか。やばいことを言ってしまった。

 ついに半殺しにされたあげく、警察に通報されんのか。

 俺は震えてビクビクしている。


 けど、高橋さんはまた仕方がないという表情を見せた。


「……わかりました」


 かなり迷ったけど、結局してくれた。すげー、本当に最高にいい人。

 頭を下げてお尻を高く上げてもらうというかなりきわどいポーズで撮影終了。


「ありがとうございました」と敬礼。おっと、敬礼はやめるつもりだったのだが、ついやってしまった。

 妙な顔をする高橋さん。


「なんでまた敬礼すんの」

「あ、いやあ学生時代バイトで警備員をやってて。で、今も警備のバイトですから。なんか癖になったのかなあ」

「ずっとバイトなの」

「いや、大学卒業後、一度就職したんですけどブラック企業でやめちゃって、今は就職活動中。その間、バイト生活って感じです」

「あなた何才なの」

「二十六才です」

「ふーん、私より一つ年下ね」


 そういや高橋さんってどんな人生歩んできたんだろ。


「高橋さんは仕事してないんですよね」

「そうよ、無職。そして精神病。そして人生終了」


 こんな美人さんが人生終了してんなら、俺なら人生そのものが存在してないんじゃないか。

 冗談で言っただけだと思うけど、ちょっと、人生終了という言葉はスルーする。


「病院とかには通っているんですか」

「巣鴨にある有名なクリニックに月一回通ってるの。歩きでね。行けない距離じゃないけど、ちょっと歩きで往復は疲れるけどね」

「地下鉄で行けばいいんじゃないですか。西巣鴨駅から一駅ですよ」

「電車とか乗れないのよ、病気で」


 そんな病気あるのか。

 いや、パニック障害ってのはメンタルヘルスの本で載ってたなあ。

 満員電車とか乗れない病気。あの病気かね。大変だなあ、思ったより。


「ずっと無職なんですか」

「働いていたこともあったわよ」

「何してたんですか」

「普通の会社で事務員してた」


 高橋さんが教えてくれたのは超一流企業の三友商事。

 俺の働いていたブラック企業とはえらい違いだ。


 自分が履いているストッキングを指差して高橋さんが言った。


「このストッキングはどうすんのよ。返そうか」

「いえいえ、差し上げます」

「あっそう、ありがとう。じゃあバイト頑張ってね。変態の佐藤さん」


 俺はさっさと家から追い出された。いやあ、マジ本当にいい人。とは言え、アパートの廊下の前で財布の中身を確認。しばし、考える。うーむ、やはりほんの十分間程度で六万円を使ったってのはまずいかなあ。今日の自分の行動について長々と悩む。いや、これも神聖変態帝国皇帝の義務である。よし、帰るかと歩き出すと、ん? 高橋さんの家からため息が聞こえてきた。やはり、変態の相手は疲れるのだろうか。


 すっかり気を良くして帰宅。

 すぐにスマホから高橋さんの画像をパソコンへ送る。

 はい、お疲れさーん。


 そう言えば同世代の女性と喋るのも久々だよな。前回は割と事務的な会話だったが今回は私的な会話もあった。女性と喋れて嬉しいぞ。しかも、あんな美人とだ。大学の頃はぼっちだったもんな。ブラック企業の頃は私生活は無しも同然。その後は引きこもっていたのも同然だ。もっと、高橋さんとお喋りがしたいなあ。


 けど、なんで高橋さんは一流企業を辞めたんだろう。

 激務だったのかな。それで精神を病んだのかなあ。

 まあ、ええわ。満足した。ありがとう、女神様。

 さて、異世界小説にネトゲ、ネトゲと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ